月の砂漠



父が買ってくれた赤いオルゴール。

あれからもう半世紀の時が流れた。
奏でる曲は父がよくお風呂で歌っていた「月の砂漠」だ。


姉のオルゴールはキラキラ。蓋を開けガラスの上にバレリーナの人形を置くとクルクル回った。私はそれが欲しくて堪らなかった。でもいつの間にか動かなくなってオルゴールは何処かに消えた。


昨年仕事を辞め父母の世話を始めた姉の様子が気になり実家を尋ねた。姉は体調を崩し足の痛みが酷く難儀していたから。


それが、先日尋ねると痛みが無くなったという。
姉は不思議がっていたが、おそらく高齢の父から車の免許を取り上げることが出来たからだと思う。


私も姉も、長い間、表には見せない父の影の部分を共有し背負ってきた。何度も悲しい思いをした。そして父は未だに父のままだ。


けれど、愛の記憶もまた蘇る。
先日、参加していたコーラスグループの
発表会があり、講師の方が「月の砂漠」を歌われた。時代遅れのその曲は、色褪せるどころか、太く美しく皆の心に響いた。広大な砂漠をゆっくりと歩く駱駝の姿が目に浮かんだ。


講師の力強い歌声に懐かしい記憶が呼び起こされる。小さい頃、父に肩車され、はしゃきすぎてそり返り大泣きをした時の父の笑い顔。


デパートのおもちゃ売り場で欲しかった「リカちゃんハウス」は高くて買えずペタンコの犬のぬいぐるみを選んだ。父が持っているだけで可愛く見えたから。それを何年もぼろぼろになるまで持っていた。


愛された記憶と心の闇の間で揺れる。
思い返すと辛い日々に心が痛まぬよう、ただ時の言う通りに揺れている。
けれどそれは、シンプルで最善の道なのだ。


砂漠の彼方に浮かぶ月が導く先に
駱駝達の向かう先に
帰るべき場所が待っている。







花束読んでくださってありがとう花束
ヒマワリ今日も明日も良い日でありますようにヒマワリ