実家への道中、峠という食事処がある。その向こうに「シシ神様」🐗のような縞模様の禿げ山が見える。山頂には恐竜の背のように木々が残っていてその山が視界に入ると登りが始まり気合いを入れてハンドルを握る。故郷は年々遠くなっていく。




小学生の頃、地味でパッとしない教師が急に人気者になったことがあった。何故かというと彼は、丸々一時限を使って物語を話してくれたのだ。「今日は授業をしません」と言い放ち教室中が沸き返った。彼の話はとても面白かった。




話は朧気に覚えている。貧乏な青年が自分の「影」を「望むだけお金が出る袋」と交換する。けれども「影」が無いことに周囲に気付かれて後悔するという話だ。その話には続きがあり、教師が話してくれたと思うがベールが掛かったように覚えていない。




そこで、原作を改めて読んでみる気になった。検索すると、シャミッソー作「影をなくした男」という小説である。図書館に出向き借りることにする。




「読書百編、意おのずから通ず」と、ことわざに有るように、一度読んだくらいでは二百年前の不思議な物語を理解出来そうにない。モウロクした頭では無理なのか。答えは遠い、諦めようか。




頂いた夏みかんを剥きながら、何とか考えてみる。私が幼い頃、母が好んで食べていたが酸っぱくて苦手だった。蜂蜜漬けにしてみよう。






ヒマラヤユキノシタ





思うまま書いて行く。

まず、自分の「影」というものが其ほど大切な存在なのかという単純な疑問に覆われる。お金の出る袋と自らの影を欲に駆られて交換してしまうのも無理はないと思う。けれども物語では「影が無いこと」を執拗に周囲に責められるのだ。




幼い頃「影ふみごっこ」という遊びがあった。鬼役の子が誰かの影を踏み、踏まれた子が鬼になるという身近な遊びだ。空き地や原っぱが無くなった昨今そんな遊びも消えてしまったが、私の影は見る度に奇妙な形をしていた。それにその昔、時を計る「日時計」は生活に無くてはならないものだったろう。影は今の時代に思うよりも大切な存在だったのだ。




それから後書きのように「影」を比喩と捉えた考えがある。二つの祖国を持つ作者が兵士となり生まれた国と戦わねばならなかった。結果、どちらからも受け入れられない辛い時を過ごす。イソップ物語のコウモリのように鳥でも獣でもない己を「影」として表現したのだろうか。




あらすじを書いてみる。


悪魔に影を売ったシュレミールはペンデルという誠実な召使いを得て、裕福な生活を送りつつも気の休まらない日々を過ごす。一年後、悪魔と再会し影を返して貰うことを心待ちにしながら。けれど「影なし」を誰かに気づかれ逃げるように住処を去る。




シュレミールは新天地でも人々に財を振り撒き嘘を重ねていく。しかし其処で愛する人(ミーナ)に出会い、自分をさらけ出す事が出来ずに激しく葛藤する。頼みの綱は悪魔に影を返して貰うことだが、ずる賢い奉公人に影が無いことを吹聴され財産と愛する人を奪われそうになる。






ムスカリ





再び現れた悪魔は「影を返す」代わりに命尽きた後の「魂」をくれと言う。そうすれば愛する人も失わずに幸せに暮らせるのだと。




シュレミールはあまりの辛さと激しい憎しみに気を失い悪魔との契約を逃れるが、住処を追われた逃避行の道中までも悪魔は付きまとい「影」さえ取り戻せたらこの世でどれほど楽しい生活を送れるかをまことしやかに語る。



ほとほと疲れ果てた絶望の中、ふと悪魔と最初に出会ったお屋敷の主人はどうしているのか尋ねると、悪魔は醜い魂となった氏をポケットから掴み出した。青い顔をした氏の魂はゴニョゴニョと呟く。


 「神の義によって裁かれ、
 神の義によって罰せられた」


それを見た途端シュレミールは金貨の袋を目の前の深い穴に放り込んで叫んだ。


「神の御名によって命ずる、悪魔よ立ち去れ」


こうして影を失ったまま、さ迷うことになったシュレミールは、ある店に並べてあった古い長靴を手にする。何とそれは「一歩歩けば七里を行く」魔法の靴だった。此処からシュレミールの植物学者としての人生が始まる。






エリカ さま



やっと感想(笑)


私は若い頃からの割りの良い仕事をリストラされるまで辞めることが出来なかった。それはまるで金袋を手放せないシュレミールのようだ。自信の無さが新しいチャンスを取り逃がしてしまう。期を逸するのだ。そうするうちに悪魔(状況)のハードルは確実に高くなる。行き場のない不安は身体と心を蝕んでいく。「自分の居場所は此処ではない」と気がつくまで随分と掛かった。





幾度となく絶望の縁に立ちながらも人としての尊厳を守り通したシュレミール。しかし自分探しの旅は「最も憎むべき悪魔」によって終わるのである。私もそうであったように。





ちなみに夏みかんの蜂蜜漬けは一晩置くと苦味が出て不味くなります😂「うーん酸っぱい」と言いながら早めに召し上がってください。
結局、酸っぱいんかい😂😂😂
免疫力アップ口笛





島を踏む男(主人)😂






えーん長文を読んでくださってありがとうおーっ!

チューリップ赤今日も明日も良い日でありますようにチューリップ赤