麗子は自分の家が嫌いだった。
こんなに容姿端麗、頭脳明晰な自分が、
どうしてこんな生活をしなくてはならないのか。
すべては貧乏が悪いのだと、日に日にその思いを強くしていた。
それでもくじけずに勉強し、
目標だった大学は特別奨学金をもらって卒業した。
だが、受験した公務員も企業も、すべて不合格・不採用だった。
成績が悪いはずはない、美貌だって自信がある。
原因があるとすれば、家庭だ。
貧乏は、私をいつまで苦しめるのだと、呪わずにはいられなかった。
黙って見ていた父親も、、さすがに見捨てておけなかったのだろう。
「ちょっと、気持ちの楽になる薬でももらってこようか。」
と言って、町はずれの医者に連れて行った。
そこに屋敷があることは知っていた麗子だが、
医者だとは思わなかった。
そもそも看板も表札も出ていない。
「父さんの知り合いがやっていてね。」
そう言いながら、応接室のような部屋に連れて入った。
出てきた医者は、カルテに何か書きながら、
丁寧に話を聞いてくれた。
「それでは、麗子さんの希望というか、現状を打開するには、
お金持ちになるのが、一番いいですかねぇ。」
「そうです。私には私に相応しい家庭が必要です。」
「なるほど。では、私が自由に使えるお金を十分に援助してあげられますが、
本当に後悔なさいませんか?。」
「もちろんです。
現状が変えられるなら、お医者様と結婚したってかまいません。」
「ははは、そういう意味ではないのですが。
わかりました。
それでは、お嬢様のご希望をかなえてあげましょう。」
「え、本当ですか?。
でも、お嬢様なんて、いくらなんでも早過ぎます。」
「いやいや、そんなことはないのですよ、お嬢様。」
医者はそう言うと、部屋を暗くして、
目の前にあった大型スクリーンに、ある映像を流し始めた。
何が始まるのかと呆気にとられていた麗子だが、
驚いたことに、そこに映っていたのは彼女自身だった。
「こ、これは・・・・」
画面の中の麗子は、必死に訴えていた。
「あたしは自由が欲しいの。
お金なんていらない。
普通の家で普通に暮らして、
自分の力で生きていきたいの。」
医者だと思っていた執事がベルを3回鳴らしたとき、
3年前、彼女は自分で催眠術をかけ、
お抱えの運転手だった、今の父さんの家に転がり込んでいったのを思い出した。
そう、私は自由が欲しかったのに・・・。