今回のアタック対象は鳳凰山です。
地蔵ヶ岳2764m、観音ヶ岳2840m、薬師ヶ岳2780m
の3峰をもち、鳳凰三山と呼ばれることが多い。
山梨・南アルプスの霊峰です。
埼玉県人としては近場の山ですが、
今まで敬遠してた最大の理由は、
登山プランがきついこと。
一番人気のドンドコ沢周回ルートでは、
総距離 17km
高低差 2150m
時間 13時間50分

です。初老と言っていい自分には、
チャレンジングな登山になりますが、
6月に皇海山を攻略できたので、
少し自信が付いたので、
行く気になったのでした。
でも、後述するけど、
少し、怖さも残ってて、
何度も決断が揺らいだ末の出発でした。
9月14日
出発前に確認すると、
山梨方面は雨模様だったので、
急遽、行き先を変更して、
奥多摩の三頭山で足慣らしをしようかと思い直しました。
朝4時に家を出て、吉野家でお腹を満たし、
さあ、と外に出ると、雨が振ってる。
え~、(T_T)
すっかり、意気消沈してしまいます。
雨雲レーダを確認すると、
登る時間帯に雨雲が登山道にかかりそう。
少し悩んだけど、
無理することもないので、
そのまま帰宅し、二度寝(笑)。
すっかり熟睡し、午後3時起床。
天気図を確認すると、明日は日没まで
鳳凰山はくもり予想。
これなら大丈夫かな、と思い直し
23時15分出発。
高速道路を使わず登山口まで
150kmを4時間休みなしで移動。
①青木鉱泉駐車場 3:15
行動0時間、標高差0m 0km地点
まだ真っ暗だが、周りの車には動きが見える。
今回は長丁場なので、夕方にかかってしまう。
明るいうちに下山したいので、行けるなら行く
というのが基本方針だ。
いそいそと用意し、
登山道アプリ(Yamap)のマップを開いて確認する。
MAPデータがありません。
なんと、昨日見ていたのは仮表示なのですと。
計画決定したらダウンロードすべし、
と書いてある。
困ったなー、と悩む。
自分はほとんどの場合、地図を持ってない。
行動時間が短く、人気の山で、案内板も多く、
人も多い山が中心だった。
ざっくりとした方向感覚と山の様子(山容)を
下調べの時にイメージできれば、
大抵は迷いようがない。
(たまにポカをするけど)
それで困ったことは、ほとんど無い。
ただ、前々回の皇海山では用意していった。
夜道を歩くからだ。
方向感覚は狂いっぱなしだし、見落としも多い。
事実、3回くらい確認のために使って、
非常にありがたかった。
今回も初めての山だし、夜道を歩く。
仕方なく、10kmの山道を戻ることにします。
下山の途中、突然、車に牡鹿がダイブ(体当たり)してきて、
サイドミラーが空を向くというアクシデントが。
あー、びっくりした。
その後、20分ほど下ったところで電波を拾い、
無事に地図データを落とすことができた。
でも、これで出発が1時間遅れてしまう。
遭難事件ではよくある、「出だし」トラブルだw。
①青木鉱泉駐車場 4:30
行動0時間、標高差0m 0km地点
4:30 行動開始。まだ真っ暗です。

でも、Youtubeで登山口は確認してあるので、迷いません。
基本的には一本道で、踏み跡を間違えなければ大丈夫。
この道はやや迷いやすいというデータがあったけど、
自分的には分かりやすい方じゃないかな、と思う。
確かに、ピンクテープ見失う瞬間はあったけどねぇ。
その瞬間、違和感を感じられるかが、ポイントね。
誤解や思い込みをすると道を外すんですよ。
事実、このコースでこの7月に、
70代の方の行方不明者が出てます。
まだ見つかってない。
それを知らないままやって来たのは、
精神的衛生上、好ましいことでした(笑)
Yamap には、道外れ警告機能があります。
空からGPSで測ってて、5mも外れると
「道を外れてます」とか喋る。
今回、一度も警告がなかったのは、
マナーモードになってたらしい(汗)
でも、自分で確認すれば、
地図上の道と、今居る場所を表示するからね、
問題ないのさ(胸張り)
真っ暗闇の山道は怖いです。
でも、今回も後ろから2人のライトが来ます。
こんな夜中の山奥を黙々と人がうごめいている。
人気の山は、実は意外に人気(ひとけ)がある。
ので、意外に怖いということもないのよねぇ。
お互いに信頼関係だけで成り立ってますが。
最近はナイトハイクというのも流行ってて、
高尾山あたりは24時間話し声が聞こえるとか。
さ、そろそろあたりも明るくなってきましたよ。
木々の間から、モルゲンロートが見えてきます。

②南精進ヶ滝付近 6:20
行動1時間50分(やや遅い) 標高差550m 3km地点
このあたりまでは平均的な山道という感じ。
楽ではないけど頑張って登っていけるレベル。
とは言うものの、そろそろ体力の第1限界になる。
私の第1限界というのは、一気に登れる限界のこと。
血糖のエネルギーを使い切って、
筋肉疲労を感じるようになって、
休憩して行動食とか水分を補充しないと
動きが悪くなる時間帯。
3年前は90分が限界だったけど、
最近は2時間までは一気に行けるようになってきた。
とりあえず②の南精進ヶ滝までは行くか!
そこで、ダウンロードしたYamapが役に立った。
ここは滝まで行って戻る道なので、
時間短縮のためにスルーする予定だったんだけど、
周り道があり、そのまま登れることが判明。
ということで、綺麗な滝を見逃すことはありませんでした。
やっぱり、有能なツールは使うに限るねぇ。

滝を観た後で休憩していると、
3グループに抜かされました。
いかにも登山者というオジさんに関心は無いけど、
短パンの若い女性にも抜かされるとね、
少しばかりふがいない自分に腹が立ちます。
Yamap には幾つかの機能がついていて、
「やや遅い 70」なんて表示される。
んー、じゃ抜かされても仕方ないかぁ、
この分だと、
今日の周回コースには時間が足りないかも、
と、早々に弱気になります。
inゼリーを飲んで、水分も補給して立ち上がると、
さらに、少しむかつくような不快感が襲います。
あー、これは体が眠いんだな、と気付く。
体力の第1限界に達して、
体はお布団に入る気になってる。
気分は一気に帰りたくなってきます。
追い打ちをかけるように、雨がポツリポツリ。
去年の、会津駒ヶ岳を思い出します。
気温7度で登り始め、途中から雨模様になり、
頂上付近ではみぞれに見舞われました。
天気予報は確認したんだけど、
裾野と頂上で天気が違うのはよくあること。
まあ標高差1000m程度、往復6時間の山だし、
そのときは気合いも入ってて強行しましたが、
低体温症の恐れがなくはなかった。
だが、今回は2800m峰、標高差2000m、往復14時間、
つまり全部2倍。
ヤバい感が、嫌な緊張感を誘います。
ここで、動揺するように、逡巡していました。
このまま体調いまいちのままで登れるか?。
登れても雨の中の稜線歩きは、きっとめちゃ寒い。
雨具はないし、防寒具はウィンドブレーカーのみ
気温が下がったときに身を守る手段がない。
天気予報を過信しすぎてたなぁ。

さらに意欲を萎えさせるのが、
この付近から続く急坂です。
足の第1限界を越えてしまい、
ヘロヘロにしか歩けない状態。
ここで考えたのは、
スルーする予定だった
3つの滝をしっかり観光して、
行けるところまで行って、撤退する。
その前でも、雨が強くなったら帰る。
うまくいったら、第1峰の地蔵岳まで行く。
そうしておけば、再挑戦の時、
時間を節約できるからね。
一気に最高峰の観音岳に行ける。
そんなことを考えながら登ってたけど、
気分はもう、撤退モード。
帰りたい症候群の自分に支配されかかってる。
でも、もう一人の自分も居るのです。
「撤退する。」
「艦長、古代の船が付いてきません。」
「古代!」
「沖田さん、僕は嫌です、
男なら戦って闘って、戦い抜いて、
一つでも多くの敵をやっつけて、
死ぬべきじゃないんですか!」
宇宙戦艦ヤマト第1話より

一人で無心で歩いていると色々考えたり思い出します。
中学生の頃、観ていた宇宙戦艦ヤマト。
リアル戦争の悲惨さや理不尽なんか知らないで、
ただ、ひたすら正義の為に闘うのが男だとか、信じてた。
以来、撤退は男の恥だと無垢に信じてます。
だから、今日は初めて撤退する。
負けを認める。
負けを認める潔さが、真に強い人間なんだ、とか考える。
これは精神的な第1限界なのかもね。
なにかあったら継続する方向じゃななくて、
いかに自分に言い訳してやめようかと考える。
すると、負け癖が付く。
失敗しても、ま、いいや、となる。
自分はそれが嫌で、
今までずっとやせ我慢の人生だった、と思う。
途中で投げ出すことは、自分の行動指針にはない。
モノを捨てない、彼女を捨てない、のも、
そこらへんと共通してると思う。
とはいえ、山で不退転にこだわると、いつか遭難する。
行くのか帰るのか、決めかねたまま登り続けました。
③白糸の滝 7:40-7:55
行動3時間10分(やや遅い) 標高差1000m 4km地点

なんとか②の白糸の滝を過ぎる。
そしたら、上から人が降りてきました。
「小屋まではあと1時間くらいですか?」
「いや、まだまだだよ。私も行ってないし。」
???
その男性は④の五色ヶ滝で雨に降られ、
登頂は諦めて帰ってきたのだった。
「ひどい降りでさ、明日も年休とってたんだけど
今からなら10時頃には降りられるからね。
ゆっくり観光して、明日は仕事に行くよ」
「それが正解ですよねぇ。
俺も降りるかなぁ」 と言うと、
「五色ヶ滝まで行けば?」 というアドバイス。
綺麗なんだって。
そうか、まあ体力的にはまだ登れるしね。
滝は観てもいいよね。
④の滝までは頑張るか。
と思い直して登っていくと、
お婆さまの団体とすれ違います。
「今朝早くまでは晴れてたんだけどねぇ、
さっきは土砂降りさぁ。」
「登ってった人も、小屋で雨宿りして
様子見ながら判断するって」
と、いろいろ情報が入ります。
そうなんだよね、この山は一泊が基本。
そしたらお婆さまでも登頂できる。
やっぱり日帰りは無茶だったか。
④五色ヶ滝 8:45-9:00
行動4時間15分(やや速い) 標高差1200m 4.5km地点
五色ヶ滝に行くには、沢まで降りなくちゃいけない。
霧も出てるし、途中で撮影していると、
後行の若者が追いついてきて、
「こりゃ、すげー」とか言いながら
元気に降りていきます。
呆れて眺めていると、霧が晴れてくる。
晴れたら降りていって写真撮りたくなるじゃない。
自分に文句を言いながら、沢まで降りました。

うん、この滝は今年最高の滝だ。
これを観ずして鳳凰三山は語れないな、と思いました。
滝入り口の分岐まで戻ると、
先ほどの登山者の一人が休んでました。
「これからのご予定は?」と聴くと、
「そうなんですよねぇ。
今、奥さんを待ってるんですが、悩みますよね」
自分と同じで、雨なら諦める、
12時までに地蔵ヶ岳まで行けなければ、
ピストンで引き返す、とか考えてるそう。
妥当なプランです。なので、
「じゃ、私はこれで帰ります。」
とは言いずらくて、
「じゃ、とりあえず小屋を目指しますか」と
登り始めてしまう。
自分の中に、
撤退という選択肢を選びたくない自分と、
早く解放されて帰りたい自分が居るのよねぇ。
そこから30分ほどで、道が緩やかになってきました。
急登区間を抜けたのです。
そして、地蔵が岳が見えてきました。

ここには日本庭園のように綺麗な川床が広がっています。
鳳凰山は、花崗岩の山なので、
風化した真砂(白い砂)におおわれてます。
そして、なんと太陽が顔を出すじゃありませんか。
えー、雨雲レーダの雨雲はどうなったの?

「晴れてきましたねぇ」と、
さっきの登山者も追いついてきました。
奥さんが追いつくのを待ちきれなくて、
登ってきちゃったみたい。
「こうなると、行くしかないですよねぇ」と
話を合わせてしまい、もう一人の自分を裏切って、
また、ぼちぼち登ります。
まあ、ここから小屋までは緩やかなので、
行かない理由にはならないんですけど。
⑤鳳凰小屋 9:45-10:00
5時間30分経過(平均タイム) 標高差1300m 6km地点

なんだかんだで鳳凰小屋に着きました。
一泊する人は、ここで荷物を置いて地蔵ヶ岳だけ往復し、
明日に備えます。
日帰り組は、地蔵ヶ岳に登って戻るか、
三山を縦走するか、
地蔵ヶ岳をスルーして周回するか、
判断時です。
現在時刻はちょうど10時。
なんと、自分の当初の予定ペースで登ってました。
ここから地蔵ヶ岳まで1時間、
そこで昼食休憩しても
12時には縦走に向かえます。
薬師ヶ岳からは下るだけなので、5時間あればいい。
なんとか周回コースで行けそうです。
Yamap の「やや遅い判定」も、
休憩してたときの影響みたいで、
全体的には、平均ペースを維持してます。
あれだけヘロヘロになって登ってても、
なんとか食らいついてる感じ。
鳳凰小屋には、南アルプス天然水が飲み放題。
途中で空になったペットボトルに1.5リットルも補充して、
10:01に地蔵ヶ岳に向かいます。
撤退モードはもう完全に払拭されてて、
男なら戦って闘ってモード全開です。

そうなんだよね。
体力の第1限界を超えると、ヘロヘロモードに移行します。
こうなると、速く歩こうじゃなくて、歩けるペースで歩く、
疲れたら立ち止まる、無理をしない歩き方になります。
同時に、精神的には無心状態になってきてて、
嫌々感は消えるのよね。だって歩かなきゃ帰れないので、
こつこつ、できることをするしかない、諦めモードに近い。
同時に、登れる、完登できる、制覇できる、という希望が
心を支配してきます。
そう、人間って、成功が近くなると、俄然やる気を出すのよね。
とは言うものの、1時間の登りが10分になることはなくて、
ヒーヒーいいながら、ヘロヘロと鈍足で登ります。
さっきの奥さんも追いついたそうで、
夫婦で後ろからきました。
さっさと先行してもらい、
その後を追います。

地蔵ヶ岳の最後の登りは蟻地獄と呼ばれてます。
山なのに、砂浜のような砂地です。
運動部の人が足腰を鍛えるために
海岸の砂地を走ることもありますが、
6時間、登ってきた最後の試練が、
急登の砂地というのは、
ヘロヘロの足にはきついったらありゃしない。
なんだけどね、6時間登坂実績の足には、
わずか30分の追加にすぎません。
ただ時間の経つのを待てば、いずれ頂上に着くのさ。
⑥地蔵ヶ岳 11:51 オベリスク 11:10-11:40
6時間40分(やや早い) 標高差1700m 6.8km地点
頂上の標識に着いたときには、
少しばかり晴れ間も広がってました。
下山してしまった人は、見上げて悔しがってるかもね。
この青い空と光が、3000m級の山の魅力。
いつも見られると限らないのが難点。

地蔵ヶ岳のオベリスクは、
かつてお地蔵様の化身として崇められた岩です。
尖塔になっていて危ないせいか、今は登れません。
なので、地蔵ヶ岳の頂上標識はオベリスクの麓にあります。
昔はクサリがあって岩にも登れたみたいですが、
自分は途中の鳳凰大神の祠までで登頂としました。

ここで昼食休憩をして、
さあ、もう迷わず周回コースに臨みましょう。
鳳凰三山の一番の醍醐味は、
ここから薬師ヶ岳にかけての稜線歩きです。
甲斐駒ヶ岳や昇仙峡が有名なのも、
この天上の白砂浜のような風景のお陰です。
推しのYouTuberの動画が参考になるので、
お時間あれば、観てください。
当日は観られなかった、甲斐駒ヶ岳や北岳の風景が広がってます。
やっぱり山は、秋の10月~がいいのよねぇ。

11:40に出発すると、さきほどのご夫婦も後に続きます。
もう一組、若い男性ペアが続きますが、
こちらの1人は山のプロで、元気そのものです。
連れの若い人をエスコートしてるのでゆっくりですが、
きっと自分の1.5倍くらいで登れる人です。
あんな大荷物しょってるのにねぇ。

稜線歩きは、雲が多かったですが、最高の景色を眺められました。
白い砂と相まって、心を満たしてくれる一時です。
ま、足や体力は第2限界の限界値なんですけどね。
第2限界を超えると、歩けなくなります。
でも、休むとまた歩けるようになるんですよね。
我ながら、そこらへんはしぶとい。

日頃の夕方のランニングのお陰だと思ってます。
そういう鍛錬をしないで、「若い頃は鍛えてた」という御仁が、
体力の限界で動けなくなって救援を呼ぶんでしょうねぇ。
まあ、転んだりして捻挫や怪我は仕方ないにしてもね。
⑦観音岳 13:12-13:41
8時間40分(やや早い) 標高差1830m 8.5km地点

ということで、限界値を感じながらヘロヘロ歩いて行きます。
鳳凰三山の頂上に着いたのは、自分が最後でした。
気が付くと、私の後ろからは誰も来ない。
ご夫婦と若者2人組が、唯一の同行者です。
考えてみると当たり前で、
これ以上遅く下山すると、降りる前に暗くなってしまう。
途中でトラブルと、それこそ救援騒ぎになります。
自分もギリギリ間に合うつもりですが、
そもそもギリギリで行動予定すること自体が、
山をなめてると言われかねないのです。
ここまで来ると、もう登りはほとんど無くて、
ひたすら下ります。
でも、距離的には半分程度なので、
残り長丁場に備えて羊羹とアミノ酸を摂取します。
さっきまで同行していたご夫婦も、
自分が休んでいる間に
「さよなら」も言わずに出発していきます。
⑧薬師岳 14:00-14:10
9時間30分(やや早い) 標高差1760m 9.4km地点

若者2人はまだゆっくりしていたので先に出ましたが、
すぐに薬師ヶ岳で追いつかれます。
「ここからは1本道の下山ですか?、
「そうですか、迷わないなら少し安心ですね」
とか話しながら、置いてかないでね、と言外に懇願します。
時刻は14時。まだまだ明るいですが、
下山コースは4時間30分かかる予定です。
途中には滝のような見どころもなくて、
ひたすら山道です。
若者2人について行けないのは明白なので、
少し早めに出ます。
「後ろに誰かいると思うと安心できますからねぇ」
と、「置いてかないで」感を出しますが、無駄でした。

降り始めるとすぐに樹林帯に入り、
周りの風景は木々に囲まれてほとんど見通せません。
つまり、ずっと山道。
なぜか、鳥も鳴かない。
風もないので、木々もザワつかない。
静寂な中をひたすら下ります。
登りとは違う筋肉を使うので、ヘロヘロではないですが、
太ももと膝の軟骨を酷使します。
激痛ではないものの、痛みとの戦いでもあるんですよね。
これが4時間半続きます。
こむら返りや肉離れになると歩けなくなるので、
慎重に歩くことが求められます。
40分後、予想通りに若者2人に追いつかれました。
「お先に~」と、あっというまに見えなくなります。
どうしてそんなに早くいけるのか?
山道は木の根や岩がゴロゴロしてて、
慎重に行かないと転ぶんですよね。
今回は3回、1回は完璧に転んで
痛い目に遭いました。
年寄りは、日常的に転ぶとか擦り傷なんてない。
それが山の中では日常的に起こる。
「いって~、ぐぅぅぅぅ」とか叫んでも、
誰も居ない。一人で、ただ耐えるだけです。
孤独や虚しさを感じるわけではないけど、
誰かに大丈夫?、と言って欲しい気はします。
雲海をくぐると、下界の明るさを取り戻しましたが、
すぐに雨が降ってきたり、暗くなったりします。
それでも、誰も居ない山道を一人で歩くのは、
なんでこんなことを続けるのか、とか、
早く帰りたい~、とか色々考えますね。
だって、他にすることがないので。
大きな滝や綺麗な景色や雄大な風景に出会うと、
誰かに見せたいとか思うんですが、
ずっと、樹林帯の中の山道なので、
見るべき対象も少ない。
ベニテングタケ?くらいのものです。

そして、下りとは言え、4時間も休憩なしは無理です。
途中で休み休み、水分を補給しながら降ります。
ふと、山小屋で1.5リットルも汲んできたのを思い出し、
無駄に重い思いをしてる理不尽さに気付きます。
でもね、この南アルプス天然水で珈琲入れたいのよね。
薬師岳登山口 17:30
13時間00分(やや早い) 標高差190m 14km地点

考えてみると、今回の行程は、
いつでも離脱できるようには考えてました。
それが、2時間の時点で撤退を考えたので、
滝を観て写真を撮ってと、
余計なことに時間を使いましたが、
結局、フルコース(したいことをみんなやって)で、
回ってきてしまいました。
やり残したことはほとんど無いのです。
オベリスクの限界まで登らなかったことくらい。
皇海山に登った実績で、
これくらいで回れたらいいなとは思ってましたが、
実際に実行できると、少しは自信になります。
でもね、今回は出発前に、そうとう悩んだんですよ。
普通の人は一泊行程なのに、
体力的に厳しい自分には無理なんじゃないか。
途中でトラブったら、
鳳凰山で○○才男性が遭難し、救援されました
というニュースの主人公になりかねない。
実際、行方不明者も出してるし。
スポーツのプロも、試合が怖いという話を聞きますが、
今回、少し怖じ気づいていました。
皇海山に挑戦したときは、
なんかイケイケどんどんだったんですが、
やっぱり南アルプスとか2800m峰とかに
名前負けしてたんですかねぇ。
それをYoutube観たり、Yanapの地図を入れたりして、
不安要因を消しながら、自分を自分でけしかけてきた。
で、まあ、車で出発してしまってからは、
気分は山登りモードに切り替わるので、
あとは、粛々と、コツコツと、無心に
ひたすら歩を進めるんだけどね。
などと、夜の帳の近づいた林道を40分歩くと、
我が愛車が待ってるじゃないですか。

気が付くと、登り4時間半の山道を3時間半で下り、
予定通り18時過ぎには戻ってきました。
さすがにあたりは薄暗くなってましたが、
ギリギリ間に合った感じです。
青木鉱泉駐車場 到着 18:18
全行動 13時間48分(平均タイム)、累積標高差 2153m 全行程 17.4km
少しばかり休憩と荷物を整理して18:30に車を出します。
14時間歩いても、まだ家に帰るという行程が残ってます。
再び150kmを休憩無しで4時間かけて帰宅します。
もう少し早く下山するときは、途中でお風呂入ったり、
名物を食べたりするんだけど、
今回は、直行で帰宅しました。
家でお風呂に入り、夜中の1時に就寝。
昨日から34時間動き回ってたので、
さすがにすぐ寝付きました。
6時間寝たら、起きて仕事だよ。
山登りの感想
山を登ってていいことの1つは、
色々な場所に行けること。
普通の観光地じゃないので、
珍しい風景や見どころに出会うのが楽しい。
そこで、ちょっとだけ思うのは、
この感動を分け合う人がいたらなあ、ということ。
さっきのご夫婦みたいに、
「すごい綺麗」と、そこで語り合う人が居るのは、
すごく幸せなことだし、
「これ、おいしいね」と言いながら食べるのは、
もっと美味しく食べる秘訣なんですよね。

私は運転しながら残り物のオニギリ食べたけどねw
このブログを楽しみにしてくれる人が居ることが、
自分の幸せだったりするのです。
ということで、私の3連休は終わりました。
これを書いてるのは2日後なんだけど、
まだ普通に歩けないくらい、筋肉痛がひどい。
YouTubeを観ると、
同じコースを10時間位で回ってる人が
いくらでも居ます。
それをうかつに信じると遭難しかねないので
注意が必要です。
そもそも山登りは、1日8時間位が目安なんじゃないのかな。
ま、そういう山は残り少ないので、
もう少し体力つけて、
余裕を持って挑戦できるようにしたいなぁ。
今年の100名山はこれで4つ目。
今年も10座登れるか?