最近ジェンダーをめぐる話題が多いですね。
社労士の目線でみても、ハラスメントや男性育休、社会保険の適用拡大や副業の推進など、間接的に考えると盛りだくさんのテーマがあると思います。
いろいろな研究会や講演などでもさまざまな議論がされていますが、どちらかというと女性からの視点のものが圧倒的に多いと感じます。
あたかも、男性は普通の性で、女性は特殊な性かのよう。
男性は時代の変化に興味がなくて、女性はどんどん変化を求めているかのよう。
男性は今のままでよくて、女性は未来を追い求めているかのよう。
女性にも男性にも特有の問題があるはずなのに、不思議な世の中だなと感じる面もあります。
これからのジェンダーを取り巻くテーマを考える上で、やはり男性の目線からの議論も大切だと思いますので、この機会に課題図書を通じてみんなで勉強することにしました。
5月~7月に3回に渡って社内勉強会を開催しましたが、今回テキストにしたのは関西大学教授の多賀太氏が書かれた『ジェンダーで読み解く 男性の働き方・暮らし方』(時事通信社)です。
男性視点から書かれたジェンダーをテーマとした書籍は少ないのですが、多賀氏は日本でも有数のジェンダー研究の一人者であり、教育学者でもあることから子育てや教育面からの切り口もとても実践的であることから、一般向けの平易な文体もあってみんなでストレスなく読み合わせが出来たと思います。
全6章について各自発表を終えて、最終的には社労士目線からのコメントや今後の業務への展望なども交わし合うことができましたが、発表や意見交換の内容は結果的にまあまあのボリュームになったので、ここでは発表者のまとめを通じて各章のエッセンスだけご紹介したいと思います。
第1章 男性稼ぎ手社会の終焉 |
第2章 ジェンダー平等の実現に求められる男性の「ケア」労働 |
第3章 母親の「イライラ」と父親の「モヤモヤ」―イクメンブームの功罪 |
第4章 家庭教育と父親役割のインフレ化 |
第5章 ハラスメントのない職場づくりに男性はどう関わるか |
第6章 社会を挙げてドメスティック・バイオレンスと虐待を防止する |

第1章 男性稼ぎ手社会の終焉
「女性に負けてはならない」「家族を養えてこそ一人前」と狭く定義された男らしさに、男性はは苦しみやすい。
「男は仕事、女は家庭」という旧来の性別役割や社会構造に国が口出しするのはどうかと考えてきましたが、これからの日本社会を考えると女性の目線、男性の目線の双方から視野を広げて実践していくことが必要だと思いました。
第2章 ジェンダー平等の実現に求められる男性の「ケア」労働
女性を取り巻く職場での相談が増加しているのと軌を一にして、これからは男性が家事や育児や介護と仕事とをどのように両立させるかをめぐる相談が増えてくると思います。
大手企業をはじめとする先進事例、法改正や助成金などの最新情報をアップデートしていく上で、これからの時代へのモチーフを脳裏にしっかりイメージしていく必要を強く感じます。
第3章 母親の「イライラ」と父親の「モヤモヤ」―イクメンブームの功罪
著者の海外経験なども踏まえた事例を読んで、子育てについては男性側から歩み寄る努力がとても重要であり、その第一歩がゆくゆくの家族の関係や仕事を含めたライフスタイルのあり方に大きく影響していくと痛感しました。
女性と男性との大きな違いのひとつは、「ママ友」の存在。もしかしたら、これからは「パパ友」の存在がイクメンのあり方をじわじわと変えていくのかもしれません。
第4章 家庭教育と父親役割のインフレ化
「理想の父親」「理想の男性」のインフレ化で父親の負担が増えていますが、父親と母親の役割を完全に分業してしまうと不測の事態が起こったときのリスク管理の大きな問題を抱えてしまうと思います。
これからはイクメンと同時に母親と父親が相互に協力する中で家庭教育をともに担っていくことが、結果として女性の自立や男女それぞれの生活のバランスの向上につながるのではと感じました。
第5章 ハラスメントのない職場づくりに男性はどう関わるか
本来強い立場の男性こそが毅然とした態度でハラスメント防止に取り組んでいくことが大切であり、次世代に悪しき慣習を引き継がせない使命感が求められているように思います。
社労士の目線からいえば、「経営者の自己革新」にまで踏み込んだパワハラ研修や企業研修などが、これからますます重要になっていくのではないかと感じます。
第6章 社会を挙げてドメスティック・バイオレンスと虐待を防止する
男性も女性も自分が正しいと思ってしまう傾向があり、そのズレは言葉で説明してもなかなか伝わらないので、まずはそうしたアンコンシャスバイアスに気づいて社会全体で取り組んでいくことがスタートラインだと感じます。
社労士は直接DVなどに介入する立場ではありませんが、社内制度やシステムなどの変更のサポートや相談・助言などを通じて価値観などを少しずつ変化させられるように努力していくことはできるのではないかと思いました。
ある程度ゆっくりと時間をとって1冊の本をみんなで読み合わせした感想は、自分ひとりでいっきに読み進めるとはまるで違う複眼的な理解ができること、そして著者のメッセージを通じて発表者の個性やキャラクターがあらためて赤裸々に浮き彫りになるということ。
人間は難しい生き物で、どんどん主観的に意見を打ち出していくと客観的なデータや裏付けが希薄になりがちだし、逆にテキストの要約ばかりを淡々と進めていくと言葉の整理で分かったつもりになって地に足がつかないことも多いです。
その点、最新の成果がつまった良書を役割分担で読み進めるのはその両方のバランス感覚を保てるひとつの実践法だと実感することができました。忙しい中、真剣に取り組んでくれたメンバー、そして緊張しながら頑張って発表してくれた新人さんに感謝です。
時代が変わり、世の中の仕組みが変われば、当然ジェンダー規範や役割も変わる。このことは多くの生活関連法規を専門としている社労士の立場から、年を重ねるごとに痛感しています。ただし、時代は決して直角には曲がらないし、世の中は全体としては漸進的にしか変わらない。今はその過渡期の真っただ中なのだと思います。
ひと通りの発表が終わって、締めくくりで私はみんなにこう話しました。
「同じ物事を見ているつもりでも、実際には場所や目線によって見え方はまるで違う。何が正しいとか、どうあるべきかの前に、少なくとも性別にとらわれない“複眼思考”を持ちたい。今ほど、男性が女性の目線から、女性が男性の目線から、世の中を見つめ直してみることが必要な時代はないと思います。
その上で、ジェンダーについて意識改革や社会の変革が必要であるなら、もっぱら女性の視点からのみ突き進めるのではなく、男性の立場からも推進していく目線が大切ではないでしょうか。トンネルは決して一方からのみ掘り進めるのではなく、同時にもう一方からもアプローチしていくことが、より確実で安全でスピード感のある結果につながっていくように感じます」
終了後は場所を移して、打ち上げワイン会。
たまたま土用の丑だったので、三河産のうなぎにイスラエルのゲヴェルツ
メインはヴォルネイ2005プルミエクリュと鴨をいただきました
素晴らしいメンバーで素晴らしいお料理&ワインに幸せの夜でした

この前のブログで収録の様子をお知らせしたナデックゼミナールが、いよいよスタートしました!
第1回の見どころが無料配信されていますので、良かったら見てみてください(*^。^*)