心密かに
茶人四天王のお一人と仰いでいる
殿方のH先生に
その昔

『休日は何をなさっているのですか?』

と、尋ねたら

『掃除をしています』

と、即答されたことがあった。

その頃の私は、
行きたいところや会いたい人がいっぱいで
スケジュール帳は解読不能なくらい
常に真っ黒。
稽古や茶事以外で家にいることは朝から夜中までほとんどなかった。
当時の拙宅茶室1001庵にも常に人は来るので
苦しゅうないくらいには片付いているものの

H先生の即答に、驚いて絶句している私に
さらに一言だけ。

『掃除をすると気持ちいいですから』と。

当時、H先生は、北鎌倉の平屋の広いお宅に
お一人でお住まいだった。
家具は一つもなく
その茶室たるやあまりの清廉さに
私などが足を踏み入れるのは憚られるような
気さえしたものだった。

ゆえに、先生のお宅にはめったに他の方は
いらっしゃらない。
茶事もたまに気に入った道具が
手に入ったからと
一客一亭で招いていただいたことが
あるくらいで。

つまり、誰かが来るから
きれいにしているのではなく

誰も来なくても
誰にも見られなくても

いつ関白や将軍をお迎えしても
恥ずかしくないくらいに
家を浄めているわけだ。

うーむ、これが、お茶というものか。

恋する茶会のお弟子さんもどんどん増えて
盛り上がりを見せ
調子に乗っていた頃
H先生が私に言うともなくおっしゃっていた
言葉。

『請われるまで教えるな』

ようやく今、
その意味がわかるようになってきた。

と同時に、
休日に一番したいことを訊かれたら
今は私も『掃除』と答えるだろう。

珍しく、主人と長女が二人で
お出かけデートなので
今日はゆっくりお掃除日和なのでした。