彼は同じ部署の女性に密かに思いを寄せている。

年上の彼女は仕事をテキパキとこなし、

上司からも一目置かれる存在。

高嶺の花だ。


ある晩、彼は残業を済ませ駅へと向かったが、

途中でふと、ワインバーに立ち寄ろうと思った

別にワイン通でもないが、

彼女がワイン好きであるという噂を聞いたことがあった。

もしかしたら・・・。


「何を期待しているんだ、オレは」

苦笑いをしながら、店の扉を押した。

と、カウンターの奥の座席に彼女がひとりで。

彼は自分の目を疑った。

振り向いた彼女は彼に気付くと、軽く手をあげ、隣の椅子を指差した。


「一緒に飲む?」

願ってもないこんな素晴らしい偶然を断るはずがない。

平静を装いながら、彼は隣に座った。


香りを取るためにスワリング(液体をワイングラス内でまわす事)する

彼女の真似をする彼だったが、

黄金色の液体は左右にチャプチャプ大きく揺れるだけ。


「ふふふ、無理しないでテーブルの上に置いて、

グラスの脚を指で挟んで回せばいいのよ、こんなふうにね」

彼女は彼の手の甲に、自分の手を重ねると、

彼のグラスを揺らした。


それから、会社のことや趣味という他愛ない会話をしている間も、

彼の心臓は早鐘のようにときめいていた。


「このワインって奇跡のワインって言われているのよ。

奇跡っていい響きよね」

「え、はぁ・・・」

「ねぇ、あなたって奇跡を起こせるタイプ?」

彼女は悪戯っぽい微笑を浮かべた。

彼の心がまた、グラスの中のワインのようにグルグルと回った。


さて、今回、ふたりが飲んだワインは、

とろけるように甘~いデザートワイン「Ch.d'Yquem シャトーディケム」

世界三大貴腐ワインのひとつ。

食後に冷やしてワインだけでも美味しいし、

デザートの桃やベリー系や、青かびチーズとの相性も抜群。

お食事ですと、温かいフォアグラにとてもよく合います。


ちなみに、セミヨンというブドウの収穫時期に、

貴腐菌が成熟したブドウの果皮に偶然つくと、

実の中の水分が蒸発して、

結果、果実の糖度が上がり特別な甘いワインになります。

ブドウが不作の年には作られず、人工的ではない

宝物のような奇跡のワインなのです。


偶然が生む恋の奇跡もきっと超甘いものになるはず・・・?


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