懐かしい写真だわ。
このチョコレート、
段ボールで作ったの。
アイツ、人気者だったから、
なんとか振り向かせたくてね。
近所のスーパーはしごして、
段ボールを集めて一生懸命作ったっけ。
おっきなチョコレートを。
この努力のおかげというか、
私は勝てると思ってたの。他の子たちにね。
だけど、勝てる勝負でも、
手を抜くわけにはいかないのよ。
安心してそこで気持ちをゆるめたら、
私がアイツを想う気持ちが薄くなってしまうから。
カカオ100%は苦くて辛いけど、
私とアイツのちょうどいいい甘さまで、
自分の気持ちを上げなきゃいけないの。
それが恋なの。
アイツの気持ちが見えた時、
私、本当に嬉しかった。
でも、ちょっとした誤解で、
ふたりは離れてしまったの。
数年後、突然アイツから電話が掛かってきて、
「引っ越しするからあのチョコを処分していいかな?」
申し訳なさそうに言ってたっけ。
泣きながら。
あの段ボールのチョコレート、
アイツの部屋の壁に掛けてたんだよね。
好きなアイドルのポスターを横にずらしてまでさ。
アイツ、まだ、あの時の私の気持ち守ってくれてたんだ。
その電話で私も泣いたわ。
縁って不思議なものね。
もう戻らないと決めてたのに、
幾重にも運が重なり、
私の前にアイツが戻って来たの。
誰かが言ってたわ、
自分にとって本当に必要な縁は、
どんなに離れたって、
必ず戻ってくるからって。
これ、本当だったわ。
今日は再会してから初めてのバレンタイン。
少し大人になった私は、
あの時よりも、もっと深い味わいのチョコを届けるわ。
私の気持ちという、
私だけのチョコレートをね。
赤いリボンしてたあの頃の私さん。
あなた頑張ったね。
その勇気が今の私を作ったの。
本当にありがとう。
若い恋の第二章、
いま始まったから。
じゃあ!行ってくるね!
おっと!チョコも忘れないように!あはは!
バイ!
松たか子 - 赤いスイートピー