囲碁の一力遼棋聖が、4年に1度の「応氏杯世界選手権」で決勝進出しました。
 
優勝すれば、主要な国際棋戦に出場した日本の棋士としては、2005年のLG杯世界棋王戦での張栩九段以来、19年ぶりとなります。
 
一力遼棋聖も藤井さんが刺激になっているように感じます。
 
 
名人戦・叡王戦観戦記 「藤井名人には恐怖心がない」 として 谷川浩司十七世名人が寄稿しています。
 
 
   文藝春秋 8月号
   糸谷哲郎八段
   谷川浩司十七世名人
   2024/7/10 発売
 
 
糸谷哲郎八段も 藤原先生以来の(巻頭)随筆を書いています。
 
 
<将棋と哲学>
 
・・・将棋と哲学の思考のプロセスには似ているところがある。 ・・・
 
将棋においては、熟練の棋士でも不都合なことが起こらない局はそうそうない。
 
・・・これまでの経験とは違った局面がほぼ必ず出てくるものだ。
 
そうした局面における読み直し方にこそ、哲学の思考と似通ったところがあるのではないだろうか。
 
・・・哲学に対話や議論があるように棋士にも対局後の感想戦がある。
 
対戦相手の見解は自分と全く異なる視点からの指摘となるため、新しい視点に気付かされ、視界が広がることもままある。
 
・・・もっとも、より多くの視点を得たからと言って将棋が面白くなることやより深く読めることはあっても、必ずしも勝てるようになるとは限らないのは御愛嬌である。
 
それは哲学を考える上で知識の増加が必ずしも良いこととは限らないのと同じかもしれない。
 
将棋の竜王を獲り、哲学を院まで収めた人は他にはおられないので、”そうなんですね!”  です。
 
糸谷先生は、西遊棋の立ち上げ運営を通して若手サポートに素晴らしい成果を上げているようにお見受けします。
 
若手の棋力Up, 将棋の普及、 関西棋界運営への豊島さんの取り込等々、すでに関西棋界の重鎮です。
 
<藤井名人には恐怖心がない
 
・・・ここ数年の対局を見ていて私が思うのは、名人には「恐怖心」がないことです。
 
負けること、タイトルを失うこと、自玉が危険に晒されることなどへの恐怖が名人からは感じられません。
 
・・・藤井名人が目指しているものが、一局ごとの勝利やタイトルではなく、「将棋の真理の追究」であるからなのでしょう。
 
 
(谷川さんが驚いたのは)名人戦第四局序盤の22手目、☖2三歩を「敗着」と言い切っていたことです。 ・・・
 
ミスとも言えないミスでした。
 
普通の棋士であれば、この手を「敗着」とは言わないでしょう。
 
名人は自分にも将棋にも厳しい、と改めて感じました。
 
 
(谷川さんが立会人を務めた)叡王戦第二局でも、最先端の戦型での勝負にもかかわらず、序盤で自分から変化を仕掛けてみたりと、いつもの藤井名人とは一味違う様子がうかがえました。
 
第二局は、藤井さんがタイトル戦で初めて伊藤さんに負けた一局となりましたが、とても興味深く、観ていて楽しい対局でした。
 
将棋を通じてなされる、沈黙の「対話」の萌芽を感じたからです。
 
・・・藤井名人と伊藤さんの間には、「阿吽の呼吸」が生まれていく予感がしました。
 
 
・・・藤井名人を中心に将棋がますます熱く、面白くなる時代の入口に私たちは立っているのかもしれません。
 
 
谷川さんは、叡王戦第二局のことを『還暦から始まる』でも書いています。
 
 
藤井聡太叡王(21)、挑戦者伊藤匠七段(21)、記録係の上野裕寿四段(20)の年齢を合わせると、谷川さんの年齢 62歳になります。
 
青野さんの引退を受け、”現役最長”の谷川さんも 身の施し方を考えるのか 本の出版が増えてきたように思います。
 
最近は専ら”藤井本”です・・・