2015年  将棋界最高峰の名人位に就き、複数のタイトルを併せ持つ羽生が繰り返し尋ねられる質問。  それは
 
「羽生名人は いつ コンピュータ将棋ソフトと 対戦するのか」  という一点です。
 
<帯>  「プロ棋士が負ける日」と 羽生善治が予言した 2015年がやってきた!!
            プライドを賭けた戦いの最前線
 
そうした状況の中で迎えるのが、 2015年春の、電王戦FINAL です。
 
本書は 2014年の第3回電王戦から、2015年の電王戦FINAL開幕直前までのコンピュータ将棋に関する出来事を軸に、 それに関連する多くのトピックを取り上げています。



 
1974年11月  初めて瀧澤武信(早稲田大学大学院生)らがコンピュータ将棋ソフト開発に着手(アマ20級)
1996年  第1回「コンピュータ将棋選手権」 優勝:「永世名人(アマ2~3級)」
2005年  「TACOS」vs橋本崇載五段(橋本勝) : 連盟は対戦禁止
2006年  第16回「世界コンピュータ将棋選手権」 優勝: 「Bonanza」
2007年3月21日  「Bonanza」vs渡辺明竜王(渡辺一手勝)
2010年10月11日 清水市代女流王将VSあから2010 一番勝負(86手で「あから」勝)
2011年  「世界コンピュータ将棋選手権」 優勝: 「ボンクラーズ」(「Bonanza」ベースソフトのクラスタ並列化)
2012年1月14日  第1回将棋電王戦  米長邦雄永世棋聖VS「ボンクラーズ(勝)」
2013年3月23日~4月20日 第2回将棋電王戦  現役棋士5名VS.5ソフト (ソフト3勝1敗1持将棋)
2014年3月15日~4月12日 第3回将棋電王戦  現役棋士5名VS.5ソフト (ソフト4勝1敗)
2015年3月14日~4月11日 電王戦FINAL  現役棋士5名VS.5ソフト (ソフト2勝3敗)  
2016年  第3回将棋電王トーナメント優勝ソフト・ponanzaと、第1期叡王戦優勝者・山崎隆之叡王(八段)の対局
2017年  第4回将棋電王トーナメント優勝ソフト・ponanzaと、第2期叡王戦に優勝した佐藤天彦叡王(名人)の対局
        <<人vsソフト の対局は終了しました。>>
 
 
投了は敗者に課せられた義務である。
好きなときに終わらせることができる、 という意味では権利でもある。
 
コンピュータ将棋の特色の一つは、決して最後まで投げないことである。
もちろん、一定の評価値(形成判断を示す数値)を超えると投了するように設定すれば、最後まで指すことはない。
そうした設定がない場合には、最後まで指し続けることになる。
 
電王戦では、開発者に投了の権限が与えられている。
 
「わかりやすく言うと、 自分が命をかけていて、負けたら死ぬという状況で、 
 それは投げますか、 と言われたら絶対に投げないですよね
 命をかけて将棋を指している、 というのは、そんなにきれいなものではないと思うんです。 
 見ている方で (プロの指し方としては見苦しい、みっともないなどと) そう言われている方は、
 ゲームとして見ているんでしょうね。 
 注目してもらっている対局で、ゲーム以上の重さはあると思います。 
 確かに将棋はゲームなんです。 
 でも、 そこに命をかけるのが棋士だと思います」 (永瀬拓矢六段)
 
「負ければ死ぬようなきびしい味がなければならない。 しかし負けて死ぬようでは困る。 
 プロの将棋はこの二つの矛盾した命題を背負っているのです。」 (内藤国雄九段)
 
 
格上相手に千日手ならば実質勝利、とする考え方もできる。
ならば 最初から千日手でもかまわない。 (稲庭将棋のコンセプト)
(さらに洗練(先鋭化)させ) (対ソフトでしか通用しない考えです)
「相手の時間切れによる勝利を積極的にめざす」 と明快に宣言しました。 (今野剛人)
 
「最終的にはですね、 人間の棋譜を使わないで、 ルールだけ知っているという状態から強くさせたいんです。
 いけるはずなんですよ。」 (西海枝昌彦)
 
現在の多くの将棋ソフトは、Bonanzaメソッド(機械学習)によって得られた評価関数と、 ストックフィッシュ(stockfish:チェスのフリーソフト)を参考にした探索が、 車の両輪です。
 
「ストックフィッシュのソースコードを見たときに、気づいたわけです。
 彼らはチェスを作ろうとしているんやないんや。
 彼らは知能を作ろうとしてるんや。
 彼らは知的な汎用エンジンを作ろうとしてるんです。
 もっといえば、彼らは人間を作ろうとしてるんや、ということに気づいたんです。 ・・・」(磯崎元洋)
 
「正直、 後手番が、これほどきついものとは思いませんでした」 (村山慈明七段)
 
駒の利きの評価と 次元下げ が、評価関数のブレイクスルーとなりました。
 
「ITとネットの進化によって将棋の世界に起きた最大の変化は、
 将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。
 でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」 (羽生善治名人)
 
 
盤上・盤外を精力的にルポし、 「ルポ電王戦」を書きあげました 松本さんの次書です。
Web上には 松本さんの将棋記事で溢れています。
タイムリーな記事は いつも楽しませていただいてます。
 
<もくじ>  
前書き 羽生名人が予言した2015年
第一章 幕を開けた真剣勝負      米長邦雄永世棋聖 vs. ボンクラーズ 伊藤英紀
    第1回電王戦
    「Bonanza」の衝撃
    ボンクラーズ誕生
    ・・・
第二章 問いただされた将棋の伝統      塚田泰明九段 vs. Puella α 伊藤英紀
    入玉、持将棋
    名局か、つまらない将棋か
    コンピュータ将棋と投了
    ・・・
第三章 「ヒューマンエラー」を排して      森下卓九段 vs. ツツカナ 一丸貴則
    人間のゲーム
    将棋の神様
    ・・・
第四章 新時代の参入者たち      斎藤慎太郎五段 vs. Apery 平岡拓也
    居飛車と振り飛車
    電王戦FINAL開催
    ・・・
第五章 棋士としての矜持      永瀬拓矢六段 vs. Serene 西海枝昌彦
    プロの権威
    先手と後手
    千日手をめぐって
    稲庭将棋の衝撃
    ・・・
第六章 真のコンピュータ将棋とは      稲葉陽七段 vs. やねうら王 磯崎元洋
    Bonanzaのソースコード
    チェスプログラムの開発の先
    ・・・
第七章 コンピュータ対策の真価      村山慈明七段 vs. ponanza 山本一成
    最強ソフト、ponanza
    羽生名人との対戦への道
    ・・・
第八章 夢をのせた大一番      阿久津主税八段 vs. AWAKE 巨瀬亮一
    AWAKE誕生
    時代の頂上決戦
    次のステージへ
    ・・・
第九章 コンピュータ将棋の功績      開発者たちがつないだ襷
    勝利の三角形
    XデーとYデー
    高速道路の向こう側
    後世に残るもの
    ・・・
後書に代えて 空を飛ぶ夢
   
   
   
  著者: 松本博文
  2014/6/10 初版