『人斬り以蔵』
『人斬り以蔵』(司馬遼太郎)
―あらすじ―
幕末の日本。武市半平太と行動を共にし、人斬りとして暗躍した岡田以蔵。彼の半生を追う短編のほか、幕末を舞台にした短編を全8作品収録。
幕末を舞台にした作品を幾つか読んでいますが、未だに幕末の全体像が見えず…今回は岡田以蔵について読んでみました。岡田以蔵については、何となく「人斬りである」くらいしか知らず、最期があまりにも悲しいものであったとは不勉強でした。歴史大河ギャグ漫画・『風雲児たち 幕末編』ではそこまで時代が進んでいないため、果たして彼の最後はどう描かれるのか、楽しみでもあり不安でもあります。また、「人斬り以蔵」以外では、「おお、大砲」や「言い触らし団右衛門」が面白く読めました。
『イヤミス短編集』
『イヤミス短編集』(真梨幸子)
―あらすじ―
1997年7月、小学校の同級生から1本の電話がかかってきた(「一九九九年の同窓会」)。ダイエットに成功した女性と、彼女を取り巻く友人の関係性は…(「いつまでも、仲良く」)。6作品を収録したイヤミス短編集。
タイトルの通りイヤミス短編集となっており、6編が収録されています。叙述トリックによるミステリー色が強い話があったり、どこか笑ってしまう話があったりと、それぞれ多岐にわたっています。多岐にわたる分、人によって各短編の評価や全体的な本書への評価は分かれそうな気がしますが、個人的にはどれも楽しめたかなと思います。
『シャーロック・ホームズの叡智』
『シャーロック・ホームズの叡智』(コナン ドイル/訳:延原謙)
―あらすじ―
ロンドンが誇る名探偵シャーロック・ホームズ。鮮やかなる推理で、彼は数々の難事件を解いていく。『技師の親指』ほか、全8編を収録。
久しぶりにシャーロック・ホームズを読みました。本書は、他の短編集に入らなかった作品を詰め合わせた作品集らしく、ファンの方からすると時系列に問題があるようですが、私はホームズに詳しくないためよく分からないままに読んでしまいました。個人的に面白かったのは、あらすじに書いた『技師の親指』、カンニング問題を扱う『三人の学生』あたりです。
『富豪刑事』
『富豪刑事』(筒井康隆)
―あらすじ―
刑事・神戸大助の実家は大富豪であり、その金銭感覚は一般人のそれとは違っていた。高級車を乗り回し、8000円以上する葉巻を吸い、仕事中の昼食も常に高級レストランで食事をする。そんな彼は財力を武器として、強盗事件や密室殺人事件など、数々の難事件を解決していくのであった。
著者らしい、異色のミステリーです。1970年代という、高度経済成長期の日本ならではの色が出ているようにも思います。漫画に出てくるような大富豪という、ある種のケレン味と荒唐無稽さを楽しむ作品かと思われますね。
『生きるかなしみ』
『生きるかなしみ』(山田太一編)
―あらすじ―
生きることと悲しみ。15人の著者による、15の短編を収録。
本作収録の「ふたつの悲しみ」(杉山龍丸)という作品が読みたくて購入しました。そのため他の短編についてはあまり関心がなかったのですが、読んでみるとどの短編もじんわりとした悲しみがあり、心に残りました。生きることには悲しみがついてまいりますが、それでも生きていかなければならない、なぜ生きていくのか、について書かれています。また、個人的に関心のある水上勉氏の短編が載っており、水上氏の幼少期を知ることが出来ました。
自画自賛ですが、これはいい本を買いました。
『ポーカー・フェース』
『ポーカー・フェース』(沢木耕太郎)
―あらすじ―
著者による、日常の何気ないひと時を描いたエッセイ集。『バーボン・ストリート』、『チェーン・スモーキング』に続く第3弾。
この心地よさは何なのか。最初から最後まで、「ずっと読んでいたい」と感じさせてくれる不思議な面白さが全体を貫いています。言語化が難しいこの面白さを、もっともっと味わっていきたいと思います。
『カウンターの中から見えた「出世酒」の法則』
『カウンターの中から見えた「出世酒」の法則』(古澤孝之)
―あらすじ―
大阪転リーガロイヤルホテルのメインバー「リーチバー」ほか、数多くの場所でバーテンダーを務めてきた著者。長年カクテルを作ってきた著者がカウンターの中から見た、お酒の作法とは。
お酒にまつわるウンチク本の1つですね。タイトルにあるように、ビジネス面(上司との付き合い方)をメインにして、お酒のマナーやお酒によって成功した歴史が書かれます。とは言え、個人的にはやはりウンチク本としての域は出ていないかなあと。
『文通』
『文通』(吉村達也)
―あらすじ―
神奈川県に住む16歳の女子高生・片桐瑞穂は、ある日本屋で文通雑誌を手に取った。何となく文通をしてみようと手紙を出したところ、全国から女性3人、男性1人からの返信があった。が、女性3人それぞれの手紙に違和感を覚えた彼女は、文通に対して恐怖を抱くようになる。
この記事のあらすじからは抜きましたが、実際の小説カバー裏のあらすじには重大なネタバレがあります。まずその時点で小説前半の面白さ(怖さ)は消え、後半の方向性も何となく読めてしまいます。犯人が手紙を投函するときの致命的なミスや、後半で出てくるSF要素にも肩透かしをくらいますが、極めつけは、ネタバレやミスですら霞んでしまうような衝撃のラスト4ページ。
一応褒めておくと、本書の怖さの肝に当たる「赤の他人に住所が知られてしまう恐ろしさ」というのは、物語を盛り上げる1つの大事なポイントだと思います。また、軽い気持ちで行った何気ない行動が自分を追い詰めていく後悔というのはホラーとしてはいい味になっていると思います。とは言え、出版当時と社会情勢の変わった現代では、読者に伝わりにくいかもしれません。
悪い意味で凄い小説を読んでしまいました。これは2010年に読んだ『クリスマス・テロル』(佐藤友哉)に勝るとも劣らない、私の中でのワースト1位小説を争う作品です。「SF+(悪い意味で)衝撃のラスト」という点では、やはり2010年に読んだ『ゆび』(柴田よしき)に近い印象も受けますね。
『七瀬ふたたび』
『七瀬ふたたび』(筒井康隆)
―あらすじ―
18歳の火田七瀬は、人の心を読むことが出来る精神感応能力者(テレパス)の女性である。その能力が他人に知られることを恐れた彼女は、住み込みのお手伝いも止めて旅に出る。旅の途中で彼女は他の能力者たちと出会い、それは戦いへと繋がっていく。
前作とは全く打って変わり、バトルモノとなりました。個人的には、前作のような人間関係のおどろおどろしさを期待して本書を手に取りましたが、読み始めるとやはり面白く、最後まで一気に読み切ってしまいました。しかしこのラストから、どうやって次に繋がるのか…3部作の2作目なので、最後の1冊があるはずなのですが、どう繋がるのかが気になるところです。
『家族八景』
『家族八景』(筒井康隆)
―あらすじ―
18歳の火田七瀬は、人の心を読むことが出来る精神感応能力者(テレパス)の女性である。その能力が他人に知られることを恐れた彼女は、住み込みのお手伝いとして様々な家庭を転々とする。が、彼女が働く家庭では、家族それぞれの欲望が渦巻いていた。
1975年刊行の作品ですが、全く古臭さを感じません。登場人物の心の声が生々しく、グイグイと作品の世界にのめり込んでしまいました。エロありホラーあり、8篇いずれも面白く、最後まで読者を飽きさせません。3部作とのことですので、続刊を楽しみに読んでいきたいと思います。