雲のむこう、約束の場所」は新海誠監督のアニメ映画です。2004年11月に公開された劇場用映画で、新海誠監督の2作目になります。


もうひとつの戦後の世界、南北に分断された日本が舞台になります。その日本の中で、飛行機作りに情熱を燃やす高校生たちがいました。その高校生の一人が主人公の浩紀(ヒロキ)。本作のヒロインは、浩紀が思いを寄せる佐由理(サユリ)です。ある日、佐由理は塔の夢を見ます。原因不明の睡眠障害を発症し、眠ったままになります。その佐由理が目覚めることは、ほぼ宇宙の消失と同じことであるという物語です。平行宇宙論などSFの要素が根幹となっており、佐由理と結びついている塔はこの物語の象徴でもあります。白く高い塔は「ユニオンの塔」です。


この映画の冒頭、映画タイトルのすぐ後にヒロイン・佐由理が授業にて詩を朗読シーンがあります。その詩は宮沢賢治の「永訣の朝」です。詩集『春と修羅』の中になります。



  はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから

 

  おまへはわたしにたのんだのだ

 

   銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの

 

  そらからおちた雪のさいごのひとわんを……

 

  ……ふたきれのみかげせきざいに

 

  みぞれはさびしくたまつてゐる

 

  ……(略)……



高校時代の回想シーン、本格的に物語の内容が始まる導入にこの詩が用いられています。

 


この賢治の詩は、愛する妹が病でこの世を去るその日の朝の出来事をうたった作品です。賢治は、詩人は霙(みぞれ)が降る中にいます。妹の「あめゆじゆとてちてけんじや(あめゆきを取ってきてください)」という願いを叶えるため、家の外に飛び出したのです。詩人は、妹が亡くなってしまうことを知っています。いろいろ思いが巡り、そしてゆれ動く心、とても静かな詩だと思います。

 


この詩はこの作品の底で静かに流れているようです。この詩を知らなくても作品は充分楽しめますが、この詩を知っていますと、この作品に二重写しになるかのようにうっすらとこの詩の世界が時々透けて見えてきます。この作品世界にある奥深さは、この詩の世界が関係しているように思われて仕方がありません。


最近、アニメやゲームで文豪がモチーフとなっている作品が多くなってきているように思います。そこから、文豪の作品に興味を持ってくれる高校生や中学生も多少なりともいます。


文学は作品の世界が深いです。奥行きがあります。上っ面しか考えたくない高校生は、そこで思考を停止させ訳が分からないつまらない苦痛なモノ、意味のないモノとして片付けてしまいます。そこから一歩先に踏み込んでいけると、思考力が身についていくのではないかと感じています。

確かに考えることは苦しい、でも、自分の頭で考えていかなければなりません。「やばい」と「かわいい」の連発の会話に、語学力とコミュニケーション能力が高まっているように思われません。語彙力ないからと片付けてしまうのも危険です。難しい語句が使われているから、読みたくないという理由を幾度となく聞きます。


アニメやゲームがきっかけでもいいので、本を読む人が増えてくれたらいいなあと思います。また、この記事がきっかけにもなるといいなあと思い書いています。