Side−S


翌朝、雅紀と顔を合わせたが、視線を逸らされてしまった。昨夜のことを、まだ気にしているんだろうな。


目が赤いのはきっと眠れなかったんだな。それはオレも同じだから、そっとその肩に手を添えて『大丈夫か?』と小さく声を掛けた。


雅紀は、それには答えず俯いた。でも、同じ屋根の下、いつまでも目を逸らしている訳にはいかないことくらいは分かっているだろう。




駅のホームに着くとオレは雅紀に


『昨日のことで、少し話したい』

『時間を作ってくれないか』


そうメールを送った。直ぐに既読になったが、返信が無いのは、朝の仕込みが忙しい所為だと思った。



"一人で抱えるな"


ひと言だけ、そう伝えたかった。雅紀の生い立ちや、今日までどんな思いで生きてきたのか、全部知らないと気が済まなくなっていた。


『生田コーポレーション』相手に、吹けば飛ぶような小料理屋が太刀打ち出来るとは流石に思えないけれど、何とかオレも抗えないか。何とかならないか、そればかりが頭を過った。



その夜遅くに帰宅したオレの耳に聞こえてきたのは…



「俺に…この店をやらせて下さい。」


そう親父に頼み込む雅紀の声だった。





…つづく。