Side−A


「ふざけんな!なにしやがんだ!」


親方の怒鳴り声に驚いた俺は、調理場から顔を出した。


「親方、どうしたんですか?!」

「どうもこうもねぇ!コイツ、オレの料理にケチを付けやがった!」

「ケチは付けてません。味変をしただけです。」


「それが、ケチを付けてるってんだ!オレの味付けの何が気に入らねぇんだ!」

「う…ん、気に入らないのてはなくて。自分の好きな味にしてみたくなって…」


「ふざけんな!それが!オレの味付けが気に入らねえって言ってるようなもんだ!おめぇは出禁だ!金は要らねぇから、とっとと出て行け!」

「いえ、出て行きません。まだ食事中です」


「おめぇに味付けを変えられるのを目の前で見てろって言うのか?馬鹿にするのも、いい加減に…」


俺は親方の前に進み出て、『客B』に話しかけた。


「お客さま。料理の味付けにつきましては、親方の自信作です。誠に申し訳ありませんが、味付けを変えられるのでしたら、他の店でお願いします。」

「…そう、か。」


「はい。この味に納得がいかなくて…」

「おめぇの仲間も、アレだよな?ひと口食べるたびにブツクサ言いながら何か手帳に書いてるしよ。…ったく、なんだってんだ!」


「は?仲間?」

「恍けんな!こちとら、お見通しだって言ってんだよ!おめぇの30分前に店に来るヤツが居るだろうが!」


「あ、あぁ…。あの人は仲間ではありません」

「仲間じゃねぇ?じゃあ、何なんだよ?」


「それは…今は言えませんが、いずれ分かると思います。では、頂きます。」


そのやり取りを見ていた俺は、堪らず『客B』に声を掛けた。


「お客さま。差し出がましいようですが、お持ち帰りでは如何でしょう?」

「持ち帰り?」


「はい。此処では普通に召し上がって、持ち帰った物を味変して食べて頂く…。というのは、どうでしょう?」

「…確かに。じゃ、そうさせてもらいます。」


ニッコリと微笑んだ『客B』は会計を済ませると、パックに詰められた食べ残りを持ち帰って行った。



「雅紀…」


親方に怒られる!俺はそう思っていたけれど…



「ありがとな?お陰で助かったわ」

「あ…い、いえ。」


「それにしても、今どきの若いもんは。おまけに眉毛は太いしよ…」


まだ少し不貞腐れ気味の親方だったが、どうにか気持ちを切り替えてくれてホッとした。



けれど、あの『客B』の言った『仲間じゃない』『そのうち分かる』という言葉が、いつまでも胸に引っ掛かっていた。




…つづく。