2013年3月18日

 映画情報誌「ぴあ」が発売されていた頃の映画鑑賞予定は、都内の上映館の表を見て上映終了作品と終了日を確認する方法にて毎回5~10分程で可能でした。同誌の休刊(事実上の廃刊)後はインターネットにて同じ作業をする訳ですが、同一の表を掲示している情報源は皆無で、「ぴあ」の無料サイトにて上映終了作品と終了日を確認しますが、これが一館毎に各作品を確認するので時間を要し加之三日先の情報ですら判然としない場合が多々あります。
「ぴあ」誌の頃は二週間先の予定まで確認できましたが、現在のインターネット方式では何倍もの時間を要して三日先の情報すら得られない状況です。ネット社会が便利等とは言葉に踊らされているだけで、実は後退しているのです。例えば新聞の縮刷版の閲覧と、マイクロフィルム・デジタルデータの閲覧では速度に著しい差異が生ずるのと同じです。
 上記の理由により毎週映画予定を立てるべくネットにて確認をしますが、2月17日に予定を立てるべく作業をしておりますと、三軒茶屋中央劇場の上映情報が得られず、何処の情報源も同一ですので、若しや閉館と調べますと14日にて営業を終了したと知りました。都内で最も好きな映画館としてお気に入りで、公開時に見逃した作品を良く観に行きました。初めて訪れたのは1999年10月13日で、本年の1月10日迄丁度50回訪れました。1952年開業の如何にも映画館とも言うべき建築で、昨今のシネコンよりも格段に雰囲気があります。音質は少々不鮮明で薄くも画面は明るく封切館と互角です。開業当時からの椅子は昨今の新型と比較しますと狭く硬いのですが悪くはありません。冬は床の暖房装置から暖気が出、夏は後方の大型空調装置から作動音と共に冷気が出てくる状況でした。二階席がありますが、1999年の時点で既に使用されておらず、一度も入った事はありません。入場券は昨今は入口内の券売機でしたが、以前は開業当時の販売窓口が継続使用されており、これが何とも懐かしい様式でした。
 銀幕はスタンダードサイズ(4対3)を最大限に映す様に設計されており、一般的にはスタンダードサイズの左右を拡大するとシネマスコープサイズ(9対6)になると認識されていますが、この三軒茶屋中央劇場ではスタンダードサイズの天地を詰めるとシネマスコープサイズになる事が判ります。ですから、スタンダードサイズが最適なのですが、昨今の大手作品には皆無で、ヴィスタサイズがまずます見易い状況でした。
 復活への署名活動が行われており、成り行きが気になりますが、老朽化の場合は致し方無いやも知れません。但し日本映画の全盛時代の生き証人として、江戸東京博物館への移築やレプリカ建築への部品提供は是非とも期待したいものです。映画全盛時代を知らないTV世代の小生や現代人に往時の映画館の雰囲気を伝え得た貴重な存在であり、惜別は正しく感無量です。

音楽史研究家 郡修彦