ひかるside




また憂鬱な日が始まる。
けど、こんな毎日の中にも、幸せなひとときがあるからこそ、遅刻せず毎日電車に乗れている。





保「おはよ!」

ひ「お、おはよっ!」




後ろから声をかけられて、幸せな時間が始まる。

さっきまで、羊が頭の中を駆け巡りそうだったのに一瞬で消えたし、保乃ちゃんは本当に魔法使いだ。




保「今日もギリギリセーフ!笑」

ひ「一緒やね笑」

保「ふふ、やっほ〜」




みんながいる所に向かうと、松田、夏鈴、天ちゃん、とお馴染みのメンバー。

みんな中学の頃の同級生で、高校は違うけど電車通学だから毎朝一緒なのだ。




松「あれ?保乃ネクタイは?」

保「持ってきたよ〜」

夏「え、保乃ってネクタイ結べるん?」

保「できへん〜笑いつもネットにお世話になってるから笑」

天「なにそれ笑」

松「ん、じゃあひかるにやってもらいなよ!」




松田は、ネクタイをしてる私に話を振った。
みんなの視線が私に集まる。




ひ「わ、私?まぁ出来るけど…」

保「やって〜」

ひ「え?まぁ…襟をこうして、ここがこうなって、…っ、、」


保「…?」




ふと顔をあげると、綺麗な鼻に、長いまつ毛に、ぱっちり二重に、スッとした首筋、ふっくらした唇。

可愛い女の子の具現化と言っても過言ではなさそうな顔の持ち主の保乃ちゃん。
おまけに、フワフワとした天然で、友達想いで真面目な性格なのだ。


あぁ、脳内で語ってしまった。
とりあえず、もう皆さんもお分かりだろうけど、私、森田ひかるは、ずっと前から保乃ちゃんが大好きなんだ。


高校生になってもその想いは変わらず、増すばかりで。



ひ「あ…できたよ」

保「おー、ひぃちゃん上手いなぁ!」

ひ「ふふ、…普通だよ」




電車の中なのに、私だけ夏の日差しが照っているようだった。



ドキドキして、胸が痛くて、呼吸がしにくくて。




いや、まだ夏じゃない。紛れもなくこれは保乃ちゃんのせいだ。




呼吸困難気味になった時に、電車が思いきり揺れた。


思わず目を瞑ってしまい、誰かの腕の中。




保「いっ、、ひ、ひぃちゃん!??ごめんっ!」

ひ「ぜ、全然いける、よ?」





な、なんだいまの、!

電車が揺れて、ドアにもたれ掛かっていた私は、何も捕まらず立っていた保乃ちゃんに壁ドンされた。


ありえないほど顔近過ぎるし、焦ってる顔も可愛いし。


私って、本当タイミング悪い。
あんなに動揺しちゃってさ。

でも、保乃ちゃんに触れられて良かったかも?なんて思ったり、ってキモいよね。




保「…そう?ごめんな」

松「おおお、イチャイチャするな〜?」

天「カップルみたい」

夏「…ひかる?」

ひ「あ、はははっ、、」




今にも心臓が飛び出そうな私は笑うしかなかった。



ダメだ。保乃ちゃんが可愛い過ぎる。
このまま保乃ちゃんと何らかの出来事が起きて付き合えたりしないかなぁ。とか思ってしまう。


でも、保乃ちゃんのたった1言で、一気に現実に戻された。




保「ふふ、これがもし男の子で、保乃がひぃちゃんの立場やったら、惚れてたかも笑」

ひ「…惚れる、…かもね」




“男の子だったら”

その言葉は何度聞いても私の胸を痛めつけてくる。

そう、保乃ちゃんは男の子が好きで、私なんて眼中にないのだ。



それなのに、、




保「ひぃちゃん〜」

ひ「んー?」

保「なぁ、こうしたら倒れずに済むな?」




ギュッと私の手を握り、微笑む。
手を繋いだって、揺れてしまえば倒れるに決まってるのに。


まぁそんな抜けてるとこも可愛い。


不意なスキンシップは心臓に悪い。
手にドキドキが伝わらなければいいけど。


それより、また弄ばれてる。

期待させるだけさせて、そうやってまた私を落としていく。



この前、夏鈴にも言われたけど、保乃ちゃんにいつ彼氏が出来てもおかしくない。
私が何もしないでずっと待ってても何も起こらず、後悔する未来が見えている。



何もしないで終わりたくない。

絶対に惚れさせてやる!と、1人闘争心を燃やしていたら、もう保乃ちゃんの降りる駅になった。




保「またね〜」

ひ「また…ね」




保乃ちゃんがいなくなって、また人に押し流される。



けど、ふと思い出しては頬が上がる。


今日はなんだかいい気分だ。


壁ドンされ至近距離で見つめられ、おまけに手を握られるとか。
私、前世でどんなに良いことをしたのだろうか。




夏「ひかる」

ひ「は、はい」

夏「顔緩みすぎ、頬落ちるんじゃない?」

ひ「じゃ、じゃあ天ちゃんが夏鈴に壁ドンしてきたら?」

夏「……まぁ、完全に頬も心も落ちるな。」

ひ「でしょ?保乃ちゃんにされたら、そりゃ頬も緩むけん〜」




私から見たら天ちゃんと夏鈴は両片思いで、ほんとに微笑ましい。


私なんて、これっぽっちも可能性が無いというのに。




夏「ひかる達、早く付き合ったらいいのに」

ひ「んー?」

夏「ううん。今日ファミレス行こ〜」

ひ「い〜よ〜」




気持ちも関係も変化することなく、なんでもない日がまた始まる。


まぁそれも保乃ちゃんと一緒なら、なんだかいい気もした。








保乃side



新生活が始まって1ヶ月が経った今は、ネクタイを自分で出来るようになって、ひぃちゃんにやってもらうような事はなくなった。



自分で習得したくせに、なんだか寂しい。


もう満員電車にも慣れて、毎日のように押しつぶされガタゴトと学校に向かうけど、やっぱりひぃちゃんと居られる朝の時間が大好きだ。


別に、好きという感情に恋愛が組み込まれている事はないと思う。




ひ「保乃ちゃん」

保「ん?」

ひ「今日の髪型可愛いね?」

保「そ、そう??」




いや、前言撤回するかもしれない。

ひぃちゃんの不意な褒め言葉には、毎回心臓を持っていかれる。

好き、なのかもしれないって何度思ったことか。




いつもは押し流され離れ離れやけど、今日は久しぶりにひぃちゃんが目の前だ。

何か良いこと起こらないかなぁ〜と呑気に考えていると電車が揺れた。


そりゃあ、呑気に考えていたので、揺られるがままに体が隣の人に。





ひ「おっと、」




保「っあ…ごめん、//」




まぁ、願ったり叶ったりで。


昔から、好きな人の条件は、保乃より身長が高いが絶対条件だった。
前だって、「これがもし男の子で、保乃がひぃちゃんの立場やったら、惚れてたかも笑」なんて言ったのに。


ひぃちゃんに壁ドンされるなんて。。。



本人は嫌がるけど小動物のように小さくて、とことこした動きで可愛くて、そんなひぃちゃんのくせに。



なんだかドキドキするし、カッコいいし、身長という壁を軽々と飛び越えて来てしまった。



目の前に居るのは、小さなイケメンさん。




なんだか胸の奥がむず痒い。





保「ひ、ひぃちゃん?」





そして、片方の口角を上げ、ニヤッと悪い顔をして




ひ「…ふふ…この前のやり返し笑」







「っ、…//」









その時に感じた。



私は、思っていたよりもひぃちゃんに惚れているんだと。


完全に沼った。








ひ「あ、保乃ちゃん、もう着いたよ?」

保「っあ…、、ばい、ばいっ!」




動揺しちゃって、声が裏返った。


電車を降りたのに、ドキドキが止まらない。私の心臓はどうしてしまったのだろうか。




天「これは恋やな」

保「天ちゃん!??」

松「保乃とひかるかぁ〜」

保「まりなちゃんまで?!」

天「ふふ、応援してるで?」





そうだ、これは恋で、このドキドキは、ひぃちゃんの全部を知りたいぐらいに好きになっているということ。

もう沼から抜け出せなさそう。




この好きな気持ちも全部、気の所為なんかじゃなかった。保乃はひぃちゃんに恋をしているんだと、やっと気付いたんだ。










〜次の日〜



保「ひ、ひぃちゃん!」

ひ「ほ、保乃ちゃん??どうしたと?」

保「今度、この映画観に行かん??」


ひ「いいけど?」

保「やったー!」

ひ「…っ//、私も、嬉しい、…//」







天「夏鈴、これってさ」

夏「うん、何週間かしたら付き合いそうやな」

天「やっとか〜、あ!なぁ夏鈴?森田村とダブルデートしようよ!」

夏「え、やだ」

天「いいじゃん〜」

夏「恥ずかしいから嫌だ」

天「え〜夏鈴〜」










松「え、私は??!」







〜END〜