由依side




『まもなく4番線に電車が参ります〜お乗りの方は危ないですので、黄色い線の内側でお待ち下さい』


そんなアナウンスが聞こえて、恋人に目をやる。

眠いのか、機嫌が良くないのか、下を向いていて表情は読み取れない。




由「行ってくるね」

理「うん、」

由「今日は早く帰るね」

理「私も」




私達は仕事場が違う。

朝、駅でバイバイすると、次会うのは家に帰ってから。

いつもは笑顔で抱きしめてくれるのに、ふと見えた顔はやっぱりなぜか浮かない顔をしてる理佐。




由「どうした?」

理「いや、何でもない…またね」

由「…?またね!」




それでドアは閉まった。

あの顔の意図は何だったんだろう。

今朝の事を思い出しては、ぼーっとしてしまう。



これはいつもの考えすぎってやつだろうか。

別にそこまで心配することはないよね。
だけど、理佐は溜め込むタイプだし…。



上司に肩を叩かれて、パソコンの画面に集中する。



とりあえず気にし過ぎということにしておこう。

じゃないと、今日は1日中仕事に力が入らなそうだから。




玲「ゆーいさん!」

由「どうしたー?」

玲「今日の飲み会行きますか??」




目の前に座っている後輩の玲が、いつものように話しかけてきた。

玲は可愛い後輩の中で1番仲の良い子だ。



私がぼーっとしている間にもう昼休憩の時間になってたらしい。




由「え、何かあったっけ?」

玲「新人さんの歓迎会ですよ〜」

由「あ、そうだったね、」

玲「行きますか??」




グイグイと玲の笑顔の圧は効果抜群で、私も思わず押されてしまう。
これは、なんだか断れない感じだ。




由「ん、行こうかな?」

玲「やった〜」




まぁ、忘れていた私が悪いし、歓迎会なら尚更行っておいた方がいいだろう。




あ、そうだ。理佐に連絡しないと。



『今日、会社の飲み会行くから遅くなる。ごめんね🙏』

『わかった。気を付けてね』




すぐに既読が付いて、返信が来た。

メールをするだけでも今すぐに会いたくなる。


結局そう思うだけで、この事は本人に直接言わない。

仕事の邪魔とかしたくないし、それに、めんどくさい恋人にはなりたくない。
言わなくてもわかってくれてればいいかなとか、我ながら少し無責任な事を思っていた。







昼休憩が終わって、今度はちゃんと仕事に集中できたからか、いつの間にか飲み会の時間になっていた。


玲と一緒にいつもの居酒屋に入って、少しすると同期の一人が乾杯の挨拶をし始めた。






「それじゃあ、かんぱ〜〜い!!」




いつもは集まらない同期とか上司や、異動した後輩に久しぶりに会えたりして、時間は過ぎていく。

けど、時計を気にしてしまう。




由「もう帰ろうかな」

玲「えー由依さん〜まだ居てくださぃよぉ〜!」

由「玲、飲み過ぎだよ」




隣にいる玲は、よっぽど酔っているようだ。
もう呂律も回っていないし、一緒に帰った方がいいだろうな。


そんな事を考えながら私がトイレに行っている間に寝てしまった玲。

起こそうとした時に、見覚えのない誰かに声をかけられた。




新人「あの、小林さん、」

由「ん?」

新人「私、今日から配属された、的野美青って言います!!これからよろしくお願いします!」



また可愛い新人さんが入ってきたなぁ。
たまに、この会社に入ってくる後輩の顔面偏差値の高さに驚いてしまうけど、今回もまたその一人だ。



由「的野さん…よろしくね!私は小林です」

的「知ってます!!小林さんは有名ですから!」

由「えぇ??…なんかありがとう?笑」



いつの間に私は有名になっていたんだ。

そんな派手な事はしていないはずなんだけどな。



的「あの、連絡先、交換したいです!」

由「あ、いいよ〜」



森田「あれぇー、由依さぁーん!!!」



連絡先交換をしたあと、見覚えのある可愛い低身長さんが近づいてきてここでまた長話。

私と同期の保乃ちゃんと恋仲で、今も仲良くやっているらしい。






可愛い後輩の相手をしていたら、いつの間にか日付は変わっていた。






先に玲を家に送って行って、終電ギリギリに乗って、家に着いた。



由「ただいま〜」




静かにドアを開け、靴を並べる。
暑くて脱いだジャケットを掛けて、首元のボタンを開けると、一気に開放感に襲われた。

家に1人のような感覚になるけど、ふと寝室を覗けば理佐がベッドにいた。



由「…寝てる」


理「起きてるよ」

由「え…、あ、ごめんね。起こした?」

理「ううん、待ってた」



さっきまで消えていた今朝の違和感を思い出す。
明日も朝から仕事なのに、こんな時間まで起きてるなんて。

時計の針は2時を指していた。
やっぱり今日の理佐はどこか違う。



由「先に寝てくれてよかったのに」


理「由依が、最近忙しいから、」 

由「ん?」


理「いつも帰ってくるの遅いし、いつも後輩と仲良さげだし、私と全然話してくれないし…一緒に居たいのに」

「早く帰るって言ったくせに。…っ…由依のばかっ…!!!」



糸が切れたように次第に声は大きくなって、小さく三角座りして顔を埋め始めた。

声を張り上げる理佐にびっくりしたのも束の間、私のせいで理佐が泣いてしまった。


どうしたらいいものかと考えても、原因は寂しくさせた事。

いつもとの違いに気付いていながらも、軽視していたんだ。

今日だって早く帰るって言ったのは私だ。




由「…ごめん。ほんとにごめんなさい」




いくら謝ったって、抱き締めたって顔をあげてくれない。


そうだよね。不安にさせないって約束したもんね。

やってしまった。




これ以上話しかけても悪循環になりそうで、理佐が落ち着くまで待つ為に少し離れると、そっと腕を掴んできた。





理「ゆ、い」

由「…どうしたの?」




理「大人のくせに拗ねるとか、…っ、子供みたいだよね。…ごめん」

由「ううん、私が悪いから。」

理「私も…っ、悪いよ…!」



やっと目が合ったと思ったら、顔中涙で覆ってて、ほっぺもほんのり紅くて、幼く見える可愛い顔になっていた。
理佐も、仕事の付き合いだからしょうがないって思ってるらしくて、けど、拗ねちゃう自分に腹が立っていたそう。

それなら私だって、仕事中に理佐に会いたくなってたし。もう少しで電話しちゃうところだったし。


仕事のキャリアが上がったとしても、私達はお互いの事になると大人になれないらしくて、まだまだ子供だった。

でも、それでもいいよね。大人になれたってなれなくたって愛は変わらないから。




由「今日は早く帰れなくてごめんね。」

理「ん、いいよ。私も泣いちゃってごめん」





仕事の付き合いも大事だけど、私にとって理佐はそれ以上、いや、何よりも大事で。

言葉に出さないとわからないことだってたくさんあって、それがこの事態を招いてしまっていて。



反省だらけの喧嘩だったけど、最終的には仲直り出来てよかった。







一件落着、というところだろう。
落ち着いてから、リビングのソファに並んで座った。


理佐はそれ以上何も問い詰めてこなくて、何か物足りないなぁ。とか思った私は、なぜか嫉妬させたくなった。

ほんと、私、何考えてんだろ。
まぁ今日ぐらいは、酔っているせいにさせてもらおうかな。




由「…みて、新人の子と連絡先交換したの〜」

理「へぇ…仲良くなったんだ」

由「そうそう。的野ちゃん、すごく可愛いの」

理「………そ」




顔だけでわかってしまうほど、理佐から嫉妬のオーラが溢れ出している。

やっぱり嫉妬は、愛されてるのが1番に感じられるから、これは止めれない。




由「ふふ、理佐が1番だからね?」

理「由依のいじわる…」

由「ごめん〜笑、つい可愛くて」




そう。理佐が嫉妬してるのが可愛くて、いじめたくなっちゃうのよね。


顔を手で隠して、また泣き始めた理佐。
でも、なんだか泣いてる理佐を見るのも嬉しくて。

私ってこんな性癖あったっけな。




由「理佐〜泣かないで笑」

理「っ、泣かしたの…、誰」



これは本気で怒ってる様子。
流石にもういじめるのはやめとこう。
明日の理佐が少し怖いからね。



由「…私、です」

理「責任取って」

由「え、ど、どうしたらいい?」

理「はぁ…わかるでしょ」





そこから先はあんまり覚えていない

確か、一瞬で形勢逆転したっけな。





唯一覚えてる事は、暗くした部屋で、「不意に見えた理佐のピアスが月に反射して綺麗だった」ってこと。






理「何カッコよく言おうとしてんの」

由「え、、、聞こえてた?」

理「うん、全部丸聞こえ」



昨日を思い返して、考えていた事が口に出ていたらしい。





由「恥ず…///、忘れて!」

理「やーだーね」





そしてまた喧嘩が始まったのは、言うまでもないだろう。