すみません、夏休みに書いた小説なので夏休み設定です。
どうぞ!
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ひかるside
暑い。
最近は暴力的に暑い。
ニュースでもそう言っていた。
忙しい高校生活もやっと夏休みに入って、恋人の保乃ちゃんとの時間を作れるようになった。
お互い学校は一緒だけど、保乃ちゃんは1つ上の学年。
それに保乃ちゃんは大人気で華やかで陽キャが多いバレー部に対して、私は陰キャで帰宅部。
そう、学校では話す機会がない。立場の違いをこれでもかと思い知らされるから。
それに保乃ちゃんは部活だから、一緒に帰ることも出来ない。
よって、私達のデートは全て後回しになっていた。
でもこうして恋人になったのは、入学式まで遡るんだけど、安定に長くなりそうだからやめとこう。
夏休みに入る前に約束していた、海デート。
やっと夏休みになって、今日がその日だ。
待ち合わせ場所で数分待つと、遠いとこから「ひぃちゃん!」と大好きな声が聞こえた。
保「お待たせ!」
ひ「…、保乃ちゃん、今日も可愛いね?」
保「お世辞はいらんで~」
ひ「本当だって!」
誰もが振り向くような、そんな容姿を持っていながら、そこまで謙虚になれるだろうか。
今だってすれ違う人たちが振り向いて、「可愛い」だの「女優さん?」だの噂しているのを聞くと嫉妬するのに。
私の保乃ちゃんだ。という事を見せつけるという意味もありながら保乃ちゃんの後ろ姿を写真に収めるのは毎度のこと。
久しぶりの再会を喜びつつ、バスの時間に間に合わなそうで少し小走りで向かった。
バスに乗り込み隣同士で座って、手持ち扇風機を交互に使いながらバスに揺られていると、ふと気になってた事を思い出す。
ひ「田村先輩、テストどうでしたか?」
保「ん〜、それ聞く?」
ひ「んふ、ごめんなさい〜」
わざと先輩なんて付けて呼んでみると、明らかに拗ねた顔に。
保乃ちゃんはスポーツは得意だが勉強は苦手だ。
そんな保乃ちゃんだから、天然で少し抜けてる、爆発的な可愛さを持っている。
保「そう言うひぃちゃんはどうやったん?」
ひ「私はクラスで1位ですけども」
保「え!ひぃちゃんって頭良かったん?!」
ひ「これでも成績優秀やけん、赤点の保乃ちゃんには負ける気せん〜」
保「もぉ〜馬鹿にしたな?覚えときや〜」
普段の保乃ちゃんに、先輩の余裕なんてものはない。
勉強は私よりできないし、ふにゃふにゃしてるし。
その癖にデートの日はいつも、やけに大人っぽく色っぽい。
ほんと、ズルいなぁと思うばかり。
1時間ほどバスに揺られて窓を覗くと海が見えて、少しして降りると、海の匂いが漂ってきた。
保「海や〜!!!」
ひ「…楽しそうやね」
私は夏が嫌いだ。
理由は単純で暑いから。
今日だって、デート先は水族館が良いと言ったのに、保乃ちゃんに負けて海になったのだ。
すぐにでも、屋内に入って涼みたい。暑くて死にそう。
そんな考えは保乃ちゃんの頭の中に1つも無いのだろう。
私とは違って、海を見る瞳がキラキラと、効果音が聞こえそうなほど輝いてるから。
相変わらず存在感が凄くて、保乃ちゃんが隣にいると、私までもオーラに包まれてる気になる。
保「屋台あるで!何か食べる?」
ひ「そうだね、もうお昼だし」
保「んー、保乃は…焼きそば!いや、たこ焼きに…あかん、迷う」
ひ「どっちも食べる?半分っこしよ」
保「うん!!そうする」
パァッと笑顔になって、鼻歌歌いながら出来上がるのを待っていた。
あーあ。これは完全に、屋台のお兄さんも保乃ちゃんに惚れちゃってるよ。見惚れちゃって手動いてないし。
それを見て私が睨んでしまうもんだから、何かを感じたのかお兄さんがせっせと作り始めた。
出来上がって、近くの日陰の石畳に座って食べた。
保&ひ「いただきまーす!」
保「ふぅー、……ん!?うま!!!ひぃちゃん!これめっちゃ美味いで!」
ひ「……ん!!!!ほんとだ!めっちゃ美味しい…」
海の屋台のご飯っていつにも増して美味しいよね。
まぁ、保乃ちゃんからのあーんで、美味しさが倍増されてるのもあるんだけどね。
本当に美味しそうに食べるから、私もついつい暑さなんて忘れて笑顔になる。
ご飯を済ませて、次は本題の海に近づいた。
水着は持ってきてないから、足に水がかかる程度までしか行けないけど、それでも保乃ちゃんは子供のようにはしゃいでいた。
少し赤くなった肌が痛くて、汗ばんだ体が気持ち悪くて、夏を感じてしまう。
あんなに夏が嫌いだったのに、目の前の天使を眺めると、魔法にかかったように夏が煌めいて見える。
薄い水色と白のワンピースを着て、波打ち際で遊ぶ保乃ちゃんに、手を差し伸べた。
保「ひぃちゃんっ!」
ひ「わっ、、やったな〜」
保「あははっ、、!」
バシャッと水をかけてくる保乃ちゃんは、大人っぽくも色っぽくもない、完全にいたずら好きな子供だ。
何か悪いことをたくらんでいる笑顔で、「ぼーっとし過ぎ」なんて言ってくる。
保「わぁっ!!?…ひぃちゃんー!!」
ぼーっとしてしまうのは、保乃ちゃんのせい。
少しでも会話が止まれば無意識に眺めてしまうのだ。
大人になったとしても、またこうして保乃ちゃんと楽しく過ごしたい。
保乃ちゃんとずっと一緒に居たい。こんな幸せな時間を過ごしたい。
ひ「ふふ、やり返し〜」
保「やめてや〜笑」
水の掛け合いをしたり、小さな洞窟を探検したり、砂で大きな山を作ったり、と近くにいる子供よりもはしゃいで、時間はあっという間に過ぎた。
窓から見える景色も、暗くて街灯に照らされた街を映していた。
保「眠なったん?」
ひ「んぅ、ちょっと、ね」
保「寝ていいで?着いたら起こすし」
バスに乗り込んだあと、数分すると視界がユラユラしてきた。
普段家で引きこもっている私に、一日中遊ぶ体力なんて無くて、もう眠気が襲ってきた。
無意識に保乃ちゃんの肩に頭を乗せると、頭を撫でながら、もう片方の手で私の手を軽く握ってくれた。
これが、先輩の余裕なのか。
なんだか悔しいけど、なんだか嬉しくもあった。
ひ「ごめん、そうさせてもらう、…」
大好きな人の温もり、安心感から一瞬で夢の世界に行ってしまった。
〜
保「ひぃ、、ん、、ちゃ、」
ひ「んん、」
保「着いたで、降りよう?」
重い瞼を必死に開くと、窓には見慣れた景色が映っていた。
保乃ちゃんに手を引かれながらバスを降りる。
歩き始めると、やっと眠気が吹っ飛んでくれた。
保「今日は楽しかったなぁ〜」
ひ「保乃ちゃんとなら、夏も悪くないね」
保「嬉しいこと言ってくれるなぁ〜笑」
夏は好きになれないけど、楽しいと思った。
これも保乃ちゃんが教えてくれた新しい感情なのだ。
だけど私が寝てしまった事により、保乃ちゃんとの時間がもう終わってしまう。
前を歩く保乃ちゃんが振り返る前に手を握って、十字路の手前で引き止めた。
ひ「保乃ちゃん…!」
保「ん?」
ひ「まだバイバイしたくない」
我ながらわがままだと思う。
拗ねて子供みたい。いつになっても大人にはなれない。余裕なんてものはずっと身につけれない。
保「…バイバイしないと、ずっと離れたくなくなるで」
ひ「そうだけど…」
保「ふふ、またデートしよう。次は水族館やな!」
ひ「………」
保「なぁひぃちゃん?」
明らかに寂しいって表情をすると、「笑ってや〜」って私の腕を引いて温かい体でぎゅーっとしてくれる。
それでも、私の口角は上がってくれないから、保乃ちゃんが私の頬に触れ手を添えた。
目を見て話す姿は、嘘偽りない気持ちを表現しているようで、私だけじゃない事に嬉しくなる。
保「保乃も離れたくない、ずっとひぃちゃんと一緒に居たい」
ひ「…」
保「けど、バイバイしな、明日保乃部活行かれへん…笑」
理由が本当に保乃ちゃんらしい。
大会近いって言ってたもんね。
ふにゃと笑う笑顔、引き込まれそうな笑窪。
そんなの見たら、拗ねてなんかいられない。
保「これからもいっぱい色んな所行って、いっぱい思い出作ろう!…約束やで!」
ひ「うん、約束する!」
保「よし、じゃあ帰ろう〜」
その後、不意にキスをされて夏の暑さと共に余計に汗をかいてしまった。
充電の切れた手持ち扇風機は意味を果たしてくれない。
暑い。
保乃ちゃんを思い出すだけで暑い。
まだ始まったばかりの夏の日だ。