今月初めに秋田を訪問しました。僕の教え子で東大の肝胆膵外科に勤務していた有田先生が2年前に秋田大学の外科教授として赴任したので、彼を訪問するのが第一の目的です。有田先生の奥様は僕が東大教授だった時の教授秘書で、研修医としてやって来た有田先生と知り合って結婚したという経緯があるのです。それに秋田には僕が東京西徳洲会病院で一緒だった松田先生が居られるので、彼と久しぶりに会いたいという思いもありました。松田先生は奥様の実家が秋田で、現在は秋田で最も大きな民間病院の中通病院で糖尿病内科医をしています。同行するのは有田夫人の後に教授秘書を務めたKさんで、有田夫人と仲が良く、秘書会と称して僕と一緒に時々会食を楽しんでいます。

先に秋田入りした有田夫人に空港に迎えに来てもらうことにして、僕たち二人は羽田から飛び立つことになったのですが、何と一機前の離陸機が滑走路中でバードストライク。滑走路は閉鎖され点検が行われることになりました。幸い落下物などはなかったようで、離陸が1時間近く遅れてしまいましたが、無事に秋田空港に到着しました。羽田・秋田間は距離が近いので飛行機の飛行高度が低いのですが、残念ながら雲のために景色はほとんど見えませんでした。まずは昼食という事で、空港から市内に向かう途中のカフェでストップです。有田夫人によると秋田にはカフェ文化があるそうで、珈琲もパンも美味しいという事です。確かにコーヒーもサンドイッチもとても美味しいお店でした。この日の午後は市内観光に当て、夕方からは有田教授、秋田大学内分泌内科教授の脇先生、松田先生の3人と一緒に会食の予定です。秋田市の中心へと向かい、まずは民俗芸能伝承館を訪れました。ここはねぶり流し館とも呼ばれ、1階には竿燈が展示してあり、小さな竿燈を体験してみることもできます。子供の頃に箒で遊んだように、手のひらの上に立ててバランスを取るのですが、当然の事ながらこれがなかなか難しく、実際に祭りで使われる巨大な竿燈を手だけでなく、額や腰で支えて歩くのがどれだけ大変かがよく分かりました。それから古い造りがそのまま残る旧金子家住宅と元は銀行だったという秋田市立赤れんが郷土館を訪問しました。

この後秋田大学を訪問し、有田教授、小児外科の水野准教授から秋田の医療についてしばし話を伺いましたが、秋田県全体で年間出生数が3000しか無いので、小児外科を維持し小児外科医を育てるのも大変だという事です。少子化は日本全体の問題ですが、特に地方では県単位でない広域連携を考える必要がありそうです。秋田大学から脇教授と共に松田先生が取ってくれた予約を取りにくい秋田の名店「酒盃」に向かいました。このお店は繁華街からは少し離れていますが、秋田料理と秋田県全域の銘酒を楽しむことのできるお店です。松田先生と会うのはおそらく15年ぶりです。東京西徳洲会病院の思い出や、秋田の医療について話がつきませんでしたが、3人とも秋田の医療の将来について真剣に考えていることがよく分かり、本当に力強く感じました。僕はこの会食の途中あたりからなんとなく体調がすぐれなかったのですが、ホテルに帰ってベッドに入ると、熱は無いものの全身の筋肉痛があり、咳も出始めました。どうも翌日は無理をしないほうがよさそうだと考え、翌日のドライブは僕だけ
お休みする事にして、ホテルで休むことにしました。ホテルで丸一日ひたすら寝ていたところ、夜にはどうやら体調が戻りました。

男鹿半島のドライブに行けなかったのは残念でしたが、翌日は一番楽しみにしていた鳥海山へのドライブです。鳥海山は広大な裾野を持つ火山で、その最高峰は山形県内にありますので、山形の人たちは山形県の山と思っていますが、秋田の人たちも秋田県の山だと思っていルようです。鳥海山のかなり高い場所までドライブウェーがありますが、僕たちが行ったのはにかほ市にある仁賀保高原で、中腹というよりは麓でしょうか。ここには土田牧場という広大な牧場があり、ジャージー牛を飼育しています。幸い天気が良く、仁賀保高原からは鳥海山の頂上を眺めることができました。ここは草原の中に堰き止め湖が点在して、とても気持ちが良い場所です。有田夫人はこれまでここで牛には会った事がないと言っていましたが、今回は季節によるのか天候によるのか、すぐそばで群れをなして草を食んでいます。草をちぎって与えるとつぶらな瞳でこちらを見ながらペロリと舌で取ってゆきます。ここではもちろんジャージー牛乳を飲むことも、ソフトクリームを食べることもできますが、僕は体調が悪い時に牛乳で下痢をすることがあるので、ここは我慢です。午後になると山頂付近には雲がかかり始めましたので、麓に降りることにしました。鳥海山の秋田側の麓は象潟です。言わずと知れた奥の細道にも登場する名勝ですが、19世紀の地震で土地が隆起し、潟が陸地になってしまいました。しかし土地の人たちはかつての島々をそのままに守り、景観を保っています。今では水田になっているかつての潟は田植えの時期だけは水が張られてかつての風景が蘇ります。まさに自然と人間の営みが作り出す風景です。海べりの象潟の道の駅で昼食をとりましたが、名物の岩牡蠣は多少体調が悪くても見過ごすことはできませんでした。身の厚みのある本当に美味しい岩牡蠣でした。

道の駅で秋田土産を購入後に、秋田空港発羽田行きの最終便に乗るため空港に向かいました。さて搭乗前に蕎麦でも食べておくかと空港内の食堂で注文をして待っている所に放送がありました。なんと羽田空港で落雷があり、空港が閉鎖されているというのです。雷ならいずれ落ち着くだろうと思っていましたが、まもなく全ての便の欠航が決まったと放送がありました。もう新幹線の最終便には間に合いませんし、欠航ということは翌日朝の最初の便も飛ばないという事になります。さあ困りました。僕は翌日の昼に重要な会食がある予定なのです。急遽翌朝の最初の新幹線で帰京する事になりましたが、新幹線の予約、ホテルの手配もすっかり皆さんのお世話になってしまいました。翌日の新幹線は予定通り動いて、会食にも無事に間に合いました。いろいろありましたが、久しぶりの秋田を楽しむことができました。次回は体調が万全の時に行って、郷土料理とお酒をもっと楽しみたいと思います。