「”世界の果て”の物語」はこの世のどこかにある理想郷もしくは黄金郷を求めて実際に探険に出かけた人たちの物語です。その目的の地を列挙するだけで、幻想の国や島が浮かび上がってワクワクするのではないでしょうか。いささか長くなりますが、その目的地を列挙して見ましょう。日本人には馴染みの少ない地名も多いので、副題も挙げておきます。ヨーロッパ:カンディ(幸福の島)、キティラ島(美と歓び)、オギュギア島(カリュプソの隠れ場)、トロイ(プリアモスの財宝)。アジア:キャセイ(楽園の境界線)、ジパング(東方の諸島)、コルキス(金の羊毛の国)、ムガル帝国(驚きの国)、ゴルコンダ(至福の国)、カーフィリスターン(王たちの国)、キンメリオス人の国(濃霧と暗闇の地)、タプロバン(世界の果て)、タタール地方(悪魔の大地)。アフリカ:バーバリー地方(アフリカの入口)、ボジャドール岬(恐怖の岬)、コンゴ(桃源郷)、メロエ(エチオピア人女王カンダケの国)、モノモタパ(金とダイヤモンドの王国)、モンブトゥスの国(暗黒大陸の中心で)、プレスター・ジョンの王国(謎に満ちたキリスト教徒の国)、シバ王国(女王の金)、ナイル川の源流(天国への道)、喜望峰(嵐の岬)。アメリカ:アラウカニア(叙事詩の地)、シボラ(7つの黄金都市の国)、エルドラド(黄金の王国)、アマゾネスの国(女戦士たちの支配地)、火の土地,ティエラ・デル・フエゴ(フィヨルドと岩礁、難関の迷宮)。南極地方:新キティラ島(地上の楽園)、テラ・アウストラリス(対蹠地のユートピア)。辺境の地:至福者の島(世界からも人間からも離れて)、ヘスペリデスの園(不和の種のリンゴ)、レムリア(失われた世界)、トゥーレ(どこにもない国)。

この目的地一覧を見てみると、古人達は空想というよりも妄想に取りつかれて長い距離を危険を犯しながら旅をしたことがわかります。彼らを突き動かしたのは、黄金や宝物を手に入れて豊かになりたいという欲望である事は確かですが、それと同時に自分たちが暮らす国とはまったく違った理想の国や土地にたどり着くことができるかも知れないという望みであったように思われます。一方で東洋においては、理想の国とは自分たちが決して訪れることができない古代の尭や舜の時代であり、自分が住む場所のすぐ側にありながら決してたどり着く事のできない”桃源郷”であったりするのは面白いところです。日本も四方を海に囲まれた土地でありながら、人々は死後に阿弥陀浄土に行く事は欣求しても、理想の国を求めて船で漕ぎ出すという話は少ないようです。ヨーロッパ人に比べると東洋人はより現実的であったという事ができるのかもしれません。

しかしこうしたヨーロッパ人のテラ・インコグニタを求める衝動が結果としてアフリカ、アジアでの植民地化、ラテンアメリカでの原住民の大量死、それをきっかけとした奴隷貿易を生んだ事を忘れる訳には行きません。かつてハンガリー人の留学生とコロンブスを主人公とした映画「1492・コロンブス」を一緒に観て、ヨーロッパが結果として彼の地に善をもたらしたと主張する彼女と大激論となったことを思い出します。今やテラ・インコグニタは地球上には無くなり宇宙へと広がっています。月に人類が住むようになるのも間もなくと考えられていますが、幸い月に生物は住んでいないようです。しかしいずれはどこかの地球型惑星で他の知的生物と遭遇する事があるかもしれません。その時にはこれまでの地球上での歴史を未来の地球人には思い出して欲しいものです。