最近、筋膜に関する記事がネットで増えています。筋膜剥がし(筋膜リリース)、筋膜ケア、筋膜炎などなど。筋膜は英語ではファシア、僕は医学部の学生だった時、ラテン語読みだと思いますが、ファスチアと習いましたので、今でも僕はファスチアと呼んでしまいます。筋膜とは筋肉の表面を包む膜のことですが、実際にはその他の部分にも広く存在しています。全身に隈なく存在していると言っても良いと思います。僕の専門領域(小児外科)でいうと、鼠蹊ヘルニアの手術を行うときに、皮膚を切開して皮下脂肪の組織に到達すると、その皮下脂肪の中に薄い筋膜があります。これを切開するとようやく腹壁の筋肉に到達します。これをきちんと理解していないと、手術後に傷が引きつれたりします。これまでも筋膜が様々な臓器や組織を固定する働きを持っていることは分かっていましたが、筋膜の癒着や固定によって痛みや運動障害が起こることが分かってきて注目されているわけです。筋膜はお腹の中にもあります。お腹の中の腫瘍を切除したり、臓器を剥離したりするときには、筋膜の見極めがとても重要です。筋膜に沿って剥離を行えば、血管や神経を傷つける事なしに手術が進行するからです。

このブログに何度か書いていますが、コロナ以降、自転車をお休みしてプールに通うようになって、ストレッチに目覚めました。水泳では肩甲骨周りのストレッチが重要なのですが、これが簡単ではありません。肩甲骨と関連する筋肉の数はとても多く、その全てをストレッチするためには、姿勢と方向を考えながら、自分の筋肉と対話をしなければなりません。最近「筋肉のつながり図鑑」という本が出版されたので、早速購入しました。著者のきまたりょうさんはストレッチトレーナーで、アメリカでの研修を受け資格を取得した後に、日本で経験を積んだ方だそうで、医療の専門家ではありませんが、筋肉や筋膜の関する知識は豊富な様です。彼のInatagramでの発信が評判となり、編集者の目に留まってこの本の出版に至ったという事です。著者の主張は、個々の筋肉に注目してもストレッチやトレーニングはうまく行かない、筋肉のつながり、まとまりを意識してトレーニングせよ、という事ですので、とてもまともだと思います。その時に筋膜の構造も頭に入れると、さらに分かりやすいという事で、腕、足、股関節、お尻のつながりといった部位別の記載だけではなく、前のつながり、後ろのつながり、横のつながり、らせんのつながりという様に、姿勢の保持や運動に必要な筋肉・筋膜の大きなつながりについても記載されています。

何しろ筋肉・筋膜の話ですので、読んだだけで姿勢が良くなったり、肩こりが治ったりするわけではありません。この本を出版した目的は、自分でストレッチをするのに参考にする事と、トレーナーがクライアントに説明をするのに使う事のようです。この本に記載された筋膜の構造にどれだけの科学的根拠があるのか、僕には分かりませんが、実際にストレッチに精を出している身としては、納得できる事が多いように思います。深層の前のつながりが喉仏の上にある舌骨まで連続していると言われると、本当か?と思いますが、確かにこの辺りの手術をした時を思い出すと、筋膜は舌骨から下顎の先端まで続いていたような気がします。いずれにしても、これからは筋膜も頭に入れて、筋肉をまとまりと考えながらストレッチに励んでみようかと思います。体のバランスや動きに関心がある方にはお勧めできる本です。