僕は30年近く前に突発性難聴に罹っており、それ以降高音が聴こえにくくなっています。とくに電子体温計のピピという音が苦手です。しかし通常の会話には問題がありませんでした。ところが1ヶ月ほど前から左耳の聴力が落ちてきて、会話が聞き取りにくくなってしまいました。そもそもはプールの後に左耳の閉塞感があり、耳管の問題かなと考えていたのですが、閉塞感だけではなく次第に聴力が落ちてきているのが分かりました。そのうちに治るだろうと考えていたのですが、治るどころがだんだんにひどくなり、会議での議論にも支障をきたすようになってしまいました。これは老人性難聴の進行で補聴器が必要かもしれないと考えて、いよいよ耳鼻科を受診することにしました。

僕の医学部の同級生である加我先生が聴覚の専門家ですので、メールで相談したところ、神田の神尾記念病院の受診を勧められました。東京には特定の疾患に特化した老舗の私立病院が幾つもあります。この耳鼻咽喉科の神尾記念病院の他に、眼科の井上眼科、皮膚科の北原皮膚科クリニック、甲状腺の伊藤病院などがあり、いずれも患者さんが多く経験豊富で信頼できます。この神尾記念病院はなんと100年企業です。ネットで予約が可能ですので、午前中に取締役会があった日の午後に予約を入れて病院に向かいました。病院はJR御茶ノ水駅と秋葉原の中間の坂道に面しており、最寄駅はお茶の水と淡路町です。小川町のイタリアンで昼食の後、病院に向かいました。ちょうど雨が降り始めていましたが、病院の受付のおじさんが親切で、傘入れに傘を入れるのまで手伝ってくれました。待合室はかなり混雑していましたが、予約をしていたお陰で、すぐに診察を受けることができました。

副院長の石井先生に診て頂いたのですが、まずは耳の視診からです。最初に健全な方の右からです。内視鏡の映像を患者も見ることができますが、けっこう耳垢が溜まっています。自分ではちゃんと取っていたつもりなのですが。さて肝心の左側を見てみると、かなり溜まっていますね、という言葉が。確かに外耳道がほとんど閉塞している感じがします。ある程度取れたところで、やっと鼓膜が見えたのかなと思いましたが、いやまだまだですと。それからさらに耳垢を掻き出し続けるとようやく鼓膜が見えました。と同時に耳の閉塞感がなくなり、音もよく聞こえる気がします。なんと耳垢で左の外耳道がほとんど塞がっていたようです。実は耳垢が乾いているか湿っているかは遺伝で決まっており、僕はなぜか右は乾いているのですが、左は湿っていて、以前から溜まりやすく取りにくい傾向がありました。それが頻回にプールに通うようになり、耳に入った水で耳垢がふやけて完全に左外耳道を塞いでしまったようです。こうなると自分でいくら耳垢の表面を引っ掻いても駄目です。

念のため聴力検査も受けました。老人性の高音難聴はありますが、左右差はほとんどなく、人の声の音域は保たれているので、補聴器は必要ないだろうという結論になりました。自分ではまさか耳垢で聴力障害が起こっているとは全く考えていませんでしたので、本当にびっくりしましたが、補聴器を使う必要がない事にはホッとしました。自分が医者なのにいささか恥ずかしい結果となりましたが、石井先生からは、自分で耳垢を取るのは大変なので、いつでもまた受診してくださいと優しいアドバイスを頂戴しました。プールに入った後、綿棒で水を取る方が良いのか尋ねたところ、それはやめた方が良いということでした。昔ながらの頭を傾けてのトントンをやって、時々は耳鼻科を受診するのが良さそうです。今回は自分でも全く意外な結末でした。耳垢による外耳道閉塞は意外と多いようです。皆さんも急激な聴力低下があったら、耳鼻科を受診してみてください。