321日(祝)から26日まで銀座の画廊「枝香庵Flat」で,15年ぶりに銅版画の個展を開く予定で現在その準備に奔走しています.画廊はすでに1年半ほど前に予約をしていたのですが,なにしろこのコロナ下の状況,東京都の感染状況がひどくなれば中止もあり得るという事で,画廊とは同意していました.さいわい東京都の新規感染者数は減少を続けており,いわゆるまん防も終了の見通しが立ってきましたので,急ピッチで準備を進めています.今回のテーマは「橋都浩平 ふたつの旅展『高岳親王』と『アリス』」です.僕はメゾチントという技法の銅版画の制作を永年続けていて,そのテーマを静物や風景ではなく,澁澤龍彦著「高岳親王航海記」とルイス・キャロル著「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」という文学作品にに絞っています.

 

今回新作は展示しない予定ですので,これまでの作品を額装し直して出品すれば良いのですが,見直してみると自分で気に入らないところが多々あり,どうしても版に手を加えたくなってしまいます.手を加えた後の刷り上がりは実際に見てみないと分かりません.そこで何度も刷り師さんとの間で,でき上がりを確認しながら,さらに手を加えると言う事を繰り返しますが,これが一番時間がかかります.それに自分では手を加えればよくなるはずだと信じてやっているのですが,実際には手を加えたために,元の作品よりも悪くなってしまうことも多く,これが銅版画の難しい点です.いつもお願いしている刷り師さんも歳を取り,目が悪くなっていますが,「僕もいつまで続けられるか分からないけれども,もうしばらくは頑張りますよ」と言ってくれています.しかし周囲では刷り師さんだけではなく,銅版のメッキ屋さん,リトグラフに使うアルミ板の目立て師などの職人がどんどん廃業しているそうです.フランスで活躍していたメゾチントの大家長谷川潔は,お気に入りの刷り師が亡くなり,銅版画の制作を止めてしまいましたが,僕にはその気持ちが分かります.僕も以前は自分で刷りまでやっていたのですが,刷り師さんにお願いすると,でき上がりがまったく違うので,刷りはすべてお願いすることにしているのです.

 

さて作品が刷り上がり,額装屋さんに出せば一段落です.個展までに作品が画廊に届けばOKなのですが,その他にもやらなければならない仕事があります.まずはお知らせ葉書の制作が重要ですが,その他に会場入口の看板,作品の解説のパネルが必要ですし,今回はメゾチントという技法を理解してもらうための説明パネルを用意し,実際の銅版,メゾチントの原版,目立てに使うベルソーなどの道具,モチーフの制作に用いる各種のバニッシャー,スクレーパーなども展示することにしました.葉書とパネルの制作は知り合いのデザイナーにお願いし,パネル類は搬入の日の持ち込みですが,葉書は素敵なものができました.最近は個展のお知らせもSNSでする事が多いのですが,前回の個展でご自分の住所を書いて下さった方々には葉書を送ることにしました.しかしそのリストを眺めていると,すでに亡くなった方もおられて,15年の月日の長さを改めて感じました.

 

また個展を開くことができるかどうか,自分では分かりませんが,開くとしても小品を集めた小さな展覧会となると思います.ですから今回の個展で,できるだけ多くの方に会っておきたいと考えています.