①『コイン』 | [LIFE]~LION STORY~

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話すと長くなるから・・・

『一度決めて守ってきたことを覆すのは、

 とても難しく、勇気のいることだと思う。

 ましてやそれがジンクスのような、

 迷信的な力があるものだと信じていた場合、

 その勇気に対する犠牲は、多少なりとも

 本人に返ってくる。』



*toss 1*

「表があれば裏がある」

「表があるから裏がある」


「裏の裏は表だ」

「裏の裏の裏は・・・」


「あいつには裏があるから・・・」

「あの人は裏表がなくていい・・・」





「表なら右、裏なら左。」

彼女は高々とコインを弾いた。

両手でしっかり掴んだら、それをゆっくりと開く。

この瞬間のドキドキは、いつまで経っても慣れないもんだ。


「今日は左。」


大したことはない、学校から家までの帰り道、

どっちの道で帰るか迷っただけだ。


今までだって、

何かに迷った時はいつもそうしてきた。


中学三年、高校を受験するかしないか決めた時、

高校一年、学校を辞めるか辞めないか決めた時、

高校二年、両親が離婚して、どちらか片方を選ばなければいけなかった時・・・


そしてさっき、

その全てに別れを告げると決めた時・・・。


全部、

このコインで決めてきた。


そう、

今日の帰り道を決めたみたいに・・・。



彼女は今年で18歳になる、都内の私立高校に通う女子高生だ。

スタイルもよく、整った顔立ちに大人びたメイク、

風になびく長い髪は程良く脱色されていて、

太陽に当たると特に綺麗だった。

当然、同級生には高嶺の花、

街に出ても、声をかけてくる無謀な男なんていなかった。



こんな話もある。

少し前、一つ年上の男が彼女に告白をした。

彼は、メンズなんとかという雑誌の読者モデルで、少しは知られた人らしかった。

彼女は少し戸惑いながら、彼に背中を向け、

小さくコインを弾いた。

ゆっくり開いた掌には裏を向いたコイン。

「ごめんなさい。」

そう言って彼女は足早に去り、

残された彼は呆然としていたらしい・・・自慢の襟足をいじりながら。



「コホコホッ」

夏風邪の影響もあるのか、

体がだるくて家まで持ちそうにない。


休憩するついでに試験勉強でもしようと

行きつけのカフェに立ち寄った。

記録的な猛暑が続いていたこともあり、店内はいつもより混んでいた。

よく見ると、お気に入りの窓辺の席が一つ空いていた。

「ラッキー」

心の中でつぶやいて席に着いた。

大好きなキャラメルラテ、

さっき買った雑誌と風邪薬、

コイン、

ノートは・・・後でいいかなと、

テーブルに用意して一息つく。



心地良い雰囲気にうとうとしてきて、

テーブルにうつぶせになった。


ふと、右隣の人が気になった。

「あ、・・・」

思わず発してしまった言葉の続きはどうにか呑み込んだ。

手遅れだったけどね。


「ん?」

彼がこっちを見た。

やっぱり、

あいつだ・・・。





あれは中学二年の秋だったかな。

二学期が始まる九月最初の月曜日、

夏休み明け独特の空気が流れる教室、

担任の教師に連れられて彼が来た。

照れているのか、

学ランを着慣れていないのか、

何度も襟元を触りながら、自己紹介をしていた。


程よく焼けた小さな顔に、奥二重が印象的で、

それよりも、

自分より大きな男子は珍しいな、と思っていた。


勉強も運動もそこそこ、強気だが嫌味のない性格で、彼はすぐにクラスに馴染んだ。

父親の転勤が多く、一学期までは九州の宮崎に居たらしい。

生まれは神戸、小学校では、京都、名古屋と転校してきたらしく、

確かに関西なまりの言葉使いが少し変で、時折みんなを笑わせたりもした。


彼は、お父さんからもらったという何かの記念コインをいつも持ち歩いていて、

指で弾いては掴み、それを見ては一人呟くことが多かった。


ある時、思い切って聞いてみた。


すると彼は、

「自分だけで決められないようなことがあったらコレに聞くんや。」

そう教えてくれた。



三年に上がる前、

彼はまた転校した。


クラスで彼を見送る日、

別れ際に彼は、

そのコインをこっちに弾いた。

私は慌てて掴んだ。



これが彼に関して覚えていることだ。



「お~、久しぶりやなあ。」

彼の相変わらずの関西弁に、思わず笑ってしまった。


昔の自分を知っている人には会いたくないと思っていたが、

彼はそんなことを気にも止めず喋り続けた。


今は神奈川に住んでいて、

お父さんは単身赴任で、お母さんと二人暮し、

横浜の高校に通っているらしい。


彼が少し落ち着こうとした時、

テーブルの上にあったあのコインを発見された・・・


「しまった・・・。」


と思ったのも束の間、


彼はまた水を得た魚のように喋り始めた。

長い間、彼の話につき合わされ、

あげくに、

「あ、俺行かなあかんねん!じゃあコレ電話番号!ほな!」

と、足早に去って行ってしまった。

取り残された私は、もちろん勉強には集中できず、

しばらくぼーっとしていた。



でも、

楽しかった。


久しぶりに心から笑った気がした。


彼の話を思い出しては、

「コホコホッ」

思い出し笑いをかき消すように咳をした。





continued...*toss 2*