平安小説 「ブルー・アワー 薄明(はくめい)」 by コハル

平安小説 「ブルー・アワー 薄明(はくめい)」 by コハル

追い出されるように寂しい山奥へ方違え(かたたがえ)していた中流貴族の娘、朝露(あさつゆ)。酔って山道で迷っていた美しい少年、栖羅(すら)と博明(ひろあき)に出会う。偶然のように出会った若者たちが、宮廷の陰謀うごめく歴史の中で翻弄されながらも真実を探す物語。

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どのくらい昔のことか分からないが、華やかな貴族文化が隆盛を極めた時代があった。


強引な陰謀や政略結婚は貴族達に富と不安とを同時にもたらし、そのため、占いやまじない


を得意とする僧侶や陰陽師が暗躍するという一面もあった。。



ブルーアワー:夜明け前に数十分程体験できる空気中のごく細かい塵により拡散された淡い


青い光が夜空を満たす状態。日没後の同じような状態「マジックアワー」と合わせて


薄明(はくめい)ともいう。

平安小説 「ブルー・アワー 薄明(はくめい)」 by コハル



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プロローグ





 もうダメだと思った。家に向かっているはずの牛車が順路を外れて走っているのが分かったから。


やっぱり何か陰謀めいた計画があったんだ。


ということは、この先どこに連れて行かれて、どんな目に遭うのか分からないということ。





たとえば本当に命を奪われそうになった時、私に何が出来るだろう。別に大袈裟に考えている訳じゃない。状況から考えて、十分その可能性はある。


だからこそ、これで良かったんだと思う。身重の姉がこんな扱いを受けていいはずがない。





 もう都の中心からだいぶ離れてしまったのが分かる。小さな窓から御簾越しにやっと見える外の景色が変わってきた。木々に覆われた人気のない道を牛車最高レベルのスピードで走っている。


そのせいで振動もすごい。木の枝は輪郭が分からないぐらいガタガタと揺れているし、始まったばかりの紅葉が、緑の中で滲んで見える。





 この車は大丈夫だろうか。ちょっとした衝撃で空中分解してしまいそう。もちろん、それが狙いかもしれない。姉が移動中の事故で流産したり、死んだりしたら、喜ぶ人がいるはずだから。





(身をまもらなければ)





だからと言って、こんな風に終わっていいはずはない。まだやり残したことはたくさんある。





あの人に自分の正直な気持ちを伝えることさえ出来ていない。





 私は牛車の倒壊に備えて、座布団を頭に被りきつく両手で押さえた。腰と膝を浮かせて体が車の動きに対応できるようにした。恐怖は私を異常なほど集中させる。豪華な衣装が少し邪魔だけど、少しは体を守るクッションの役目を果たすだろう。





 車がいよいよスピードを上げながら、右に大きく曲がり始めた。


牛車が大きく右に傾き、左側の車輪が時々浮いているが分かる。ほんのちょっとしたきっかけがあれば、例えば石ころの一つでも、車は横倒しになってしまうだろう。だけど本当の勝負はそこから始まる。たぶん、もうすぐ。





(さあ、こい)





容赦ない敵意に満ちた振動の中、私はなんとか我が身を守ろうと、可能な限り身構えた。



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