勇者と段々崩壊していく世界 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

勇者と段々崩壊していく世界

旧街道沿いの建物に、女の子は入っていった。駆け足で近づくと、そこは酒場だった。おそらくは開店前の、普段の私なら絶対に足を踏み入れないさびれた店構えだ。
私にはこのさびれた店構えが、裏社会の入口にみえた。入ったらもう二度と出てこれないような感覚になる。だけど、入らなければ。これが最後のチャンスになるかもしれない。それにもう、待つ、のはいやだ。
意を決して、私は店にはいる。扉を開けると、カランコロンと外観に似つかわしくない鈴の音が鳴った。私の想像していたより綺麗で、掃除が行き届いていそうな店内には、客席に二人組の男と、カウンター内にマスターらしき人物しかいなかった。
いらっしゃい。
マスターらしき人物は、私と目があうと少し間をおいてから、しょうがないなとばかりぶっきらぼうに言った。私は、なんだかマヌケだけど、一応の歓迎の言葉に少し安心した。それは店が開店していることだったり、普通の酒場と違わず客として迎えてくれたことに準拠する。
酒場の止まり木に足を据える前に、私は、
いま女の子が店に入ってきたと思うのですが。
と、マスターに語りかけた。
それを聞くとマスターはふいと店内を見渡した。私もつられて店内を見た。二人組の男達が私をじろっと見ていた。
そんな子はいないようだが。
店内を一瞥したマスターはいった。
そんなはずはありません。わたしちゃんとこちらに入っていくのを見ました。
私は食い下がった。
悪いねお嬢さん。私はさっきまでちょっと裏にまわって準備をしていたんでね、女の子が入ってきたかは見ていないんだ。ただここにいないということは、その子は来ていないよ。来客をしらせる入口の鈴も鳴ってないしね。
それでも、私はちゃんと見たんです。間違いありません。
なおも私は食い下がった。マスターとの水掛け論が何回か続いた。マスターと先の見えないやりとりを続けていると、
嬢ちゃん、ここは酒場だぜ。何か口に出す前に、酒を口にいれな。
と、二人組の男のひとり、小太りで前歯のない男が私にいってきた。マスターは一瞬じろりと男の方をにらむと、ご注文は?、といった。
アルコールを摂取する気分になれなかった私はぶどうジュースを頼んだ。前歯のない男が、笑った拍子に酒でも詰まらせたのだろう、せき込む声が静かな店内にこだました。私はムッとした。
ぶどうジュースを取りに、マスターは店の奥へと引っ込んでいった。同時に二人組の男がこちらにやってきて、座りなよ、といった。逃げだしたくなったけど、逃げるわけにもいかないので、私はカウンターに腰掛けた。
で、家出娘がこんな場所に何のようだ?
小太りではなく、私の隣に座った痩せてぎょろりとした目の男の方が問いかけてきた。このとき私は自分のかっこが家出娘のそれみたいだとはじめて気がついた。
こんな場所とはどういうことですか?
私がそう言うと、小太りの男は、今度はちゃんと笑い声をあげた。
笑う男を制して、痩せた男が、
人を探しているみたいだな。
と、いい、私が何か言う前に、
話をつけてきやってもいい。
と、つづけた。
マスターが戻ってきて、ぶどうジュースを持ってきた。マスターはそのまま私の席から離れていった。バトンタッチということだろうか。お代の請求はされなかった。
どういうことですか?
あんたのいう女の子のことなら知ってるぜ。会わせることも可能だ。
本当ですか!?
私は素っ頓狂な声を出した。少し間をおいてまた小太りが笑う。
報酬次第だ。わかってるんだろ?、俺らがどんな種類の人間か。ここがどんな場所か。そんな反応してたぜ。ここに入ってきた時からずっと。
痩せた男が私をねめつけてきた。奥でそっと小太りが立ち上がり、私を見てニヤリとすると、入口の方へ歩いて行った。
お金なら少しあります。
ははっ、と痩せた男は笑って、
話が早くて助かる。
と、いった。
いくらで彼女に会わせてくれますか?
最近まとまった金が手に入ったんだ。
痩せた男はそういいかえして、私をねめつけている視線を下げた。首筋に、胸元に、胸に、腰に。
金はあるんだ。こっちが払ってもいいぐらいな。あとは、わかるだろ?
はっとした私が入口をみると、小太りがニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて私を見下ろしていた。いつの間にかマスターの姿は消えていた。
何も言葉が出てこない私に、痩せた男が言った。
ここは出会いの酒場。俺達みたいにさびしーい男と、カモとのな。
痩せた男が私の手を握った。振りほどこうとしたけれど、見た目以上に男の力が強く、できなかった。
ちゃんと仕事はするよ。ただ抵抗はするなよ。会わせてやらないぞ。
男はそう言って私の体を強引に横にまわした。正面になると、片手で私の髪を掴み、空いた手で自分のズボンのベルトをカチャカチャとはずしにかかった。
まずは口だ。なあに、心配するな。そのあとちゃんとあんたも気持ち良くしてやる。
そう言うと、痩せた男はぐいと私の顔を太ももに押しあて、抑えつけた。私は、ひぃ、とか、やだ、とか、そんなことを口に出していたと思う。
歯を立てたら殺すからな。
痩せた男は股間からボロンとそれを出し、ぐいと私の顔を上げさせると、ニヤリと笑う自身の顔を私に見せつけた。涙で視界がゆがんで、よくは見えなかったけど。
やられるんだ。今から私は。…でも。
小太りの男の、ひひひ、という笑い声が脳内にこだました。
その時、そのぐらいでいいだろ、と、女の声がした。
痩せた男はその声を聞くと、すぐに私を抑えつけていた手を離し、チャカチャカと股間部をもとにしまった。
声の主は私のすぐ近くにきていた。あの女の子だった。
やあ、まさかこんなとこにまで来るとは思えなかったがねえ。私が盗賊だ。
女の子は真顔で私にいった。そして少し私をじっと観察したのち、
安心しなよ。こいつら女に興味はないから。
と、くすくす笑った。
女の子は男達を店から追い出すと、マスターにワインを頼んだ。


なあ、言われた通りにからかってやったけど結局あの娘はあねさんのなんだったんだ?
さあな。タバコが変わったことに関係があることぐらいしかわからねえ。
そうだよなあ。わかりやすい癖もあるもんだ。復讐か?
単にからかってやりたかっただけじゃないか?、いずれにせよ、あねさんのそういうとこには深く関わらん方が身のためだ。
そうだなあ…。怖いもんな、あねさんは…。


マスターは何事もなかったかのようにグラスを磨きあげている。女の子はマスターに、何か二言三言つげると、グラスとワインボトルを持って茫然とする私を調理場の奥へとさそった。
調理場の奥には店員の控え室の他に、広くはないがベッドと机とソファのある、むしろそれ以外には明かりしかない部屋があった。あたしの部屋さ、もう出払うがね、と、盗賊はいった。
マリネという武道家をご存知ですよね?
落ち着いてきた私は、ベッドに腰掛けワインを飲んでいる盗賊にきいた。私の盗賊に対する第一声だった。