勇者と段々崩壊していく世界
僕が盗賊の厄介になってから一週間と少しが経ったころ、盗賊の予想通り、ウエノは勇者部隊を再編成するとの触れをだした。志望者は三週間後にウエノの城に集まれとのことだ。三週間、第一陣から連絡が途絶えたとの報からおおよそ一ヶ月、この期間が短いのか、悠長にことを構えているのか僕にはわからない。盗賊はこのお触れが出るとすぐさま、国の思惑、を調べ始めたが、今回の募集に魔王が絡んでいるのかさえつかめなかった。
盗賊の旅立ち準備もだいたい整理がついてきていたので、僕の強い希望から、僕達はトッツクポーリ近くまで行くことにした。三週間もあれば余裕をもって行って帰ってこれる。帰ってきたらもちろん国の募集に応じる。なぜ僕が勇者部隊に入りたいかというと、フナムシの足跡をたどる、というしみったれた理由もけっして弱くないが、別の人に成り代わる機会であるからだ。国から逃げる、そのために懐に攻めこむ。フナムシのため、自身の正義のため、自身の身のため、僕は参加するのだ。
盗賊も勇者部隊に参加するつもりらしい。盗賊が正規のルートを歩みたがっているのは、ひとえに国の情報を得るためだ。盗賊も自身の利益のため、相手の懐へととびこむ。
僕達が歩くトッツクポーリまでの行路は、フナムシ達が辿った行程と似る。フナムシ達ほど辺鄙な場所は通らなかったが、行けるところまで専馬で行き、そこから警戒にあたる国の兵士の目を避けるよう街道を外れた。僕と盗賊の脚ならば、それほどむずかしいことではなかった。
僕達がトッツクポーリ周辺に向かった理由は、何らかの情報をつかむためという大まかなものもあったが、主に僕がじっとしていられなかったからだ。僕は盗賊に、魔物、と少し戦ってみるのものちの判断材料になるだろう、とてきとうな嘘をついた。盗賊は、こまったもんだ、といい、今勝手に死なれたらもっとこまる、と、僕と同行するに至った。
道中、僕は心底楽しかった。盗賊と話すバカ話も笑えたし、まじめな話も、楽しく消化できた。盗賊は三十路手前だったけどかわいかったから、見ているだけで何か明るい気持ちになれた。恋をしているとは思えなかったが、盗賊と一緒にいるのはとても居心地がよかった。夜中に抱きあうたび、別れた彼女との思い出や未練、後悔が薄れていくようで、とても心持ちのいい日々だった。盗賊は僕のことをなんと思っているのかと考えなくはなかったが、考えると苦しむに違いないから、僕は考えるのをしないことにした。
気づいたか?
トッツクポーリほど近くの森の中を歩いている途中、僕は盗賊にいった。
気づかなかったよ。
と、盗賊はこたえた。
向こうは気づいているみたいだぞ。
あそこについているのが、眼、なら目と目があっちまってるねえ。
雪がちらつく枯れた森の中に、僕達は、どう考えても風ではそう動かないだろう、ざわざわと蠢く一本の木を見つけた。目の前にだ。
木の、魔物か。
だろうねえ。とりあえず距離をとろう。近づきすぎだ。
僕達が距離をとろうとした瞬間木の魔物は枝をふり、僕達をなぎ払おうとした。後退する準備ができていたので、僕達はその一撃をかわすことができた。
木、か。
距離をとると、僕はぽつりとつぶやいた。
武道家だったら木を打ち倒すような修行もしているんじゃないか?
そんな修行はしない。武道家は自然破壊をする者じゃあねえ。ま、遊びで木をぼきりと折れるまで叩いたことはあるが。
あるんじゃないか。さあ、やってこい。
そうだな。あれとだいたい同じ太さの木だった。ちょうど抱きかかえられるくらいの。
早くいきなよ。もたもたしてるとあっちから来そうだ。ほら、動き出した。結構素早いじゃない。
あの時は木を倒すまで一月、拳と脚を打ち続けたよ。
…いいからいきな。見た感じ枯れ木だ。いけるだろ。
僕は盗賊が言い終わるより早く、木の魔物の前に飛び出した。これまで木の魔物をみていると、枝によるなぎ払いぐらいしか相手は技を持っていないと推察された。僕は魔物の真っ正面に立ち、直線的な動きの攻撃で撃退してやろうとした。
魔物は根っこを伸ばして近づこうとする僕の脚に攻撃を加えようとする。人間相手と勝手は違ったが、僕は難なく攻撃を避け、真っ正面に相対し、渾身の突きを放った。
が、僕の突きは魔物の木のボディに届く前に、横からきた枝により流された。
なっ!、へぶし!
弱っ!、ちがう、武道家ァーっ!
渾身の突きを、丁寧に流された僕は、体勢を崩されたのと突きを綺麗に受け流された驚きで、何も出来ぬまま魔物のなぎ払いをもろに受けた。僕の体が宙を横滑りしていく。吹っ飛ばされたのだ。
普通の木、にぶつかって、僕の体は地に落ちた。
いてえ!
大丈夫か!?
そう言いながらも盗賊は足下の石を魔物に投げていた。太い女だ。
いてえだけで大丈夫だ!、急所にもらわなければ問題ない!
どういう体してんだいまったく。楽に死ねると思わないこったね!
望むところだ!
僕は大きく息を吸い込むと、躍動し、盗賊に気をとられている魔物の背後に回り込んだ。僕が背後から拳の届く距離まで近づくと、魔物は反転して、また僕と相対する形となった。僕にはそうなることはわかっていた。
僕のやることも同じだ。渾身の突きをくりだす。今度も魔物は僕の突きを払おうとした。やはり、僕はそう思いながら拳により力をかけた。今度の、なりふり構わぬ一撃は魔物の受け払いにびくともせず、魔物のボディにつきささった。魔物の動きが止まる。僕は勝機を確信し連撃を叩き込んだ。枯れ木の魔物はなすすべなく、面白いように
ボロボロになった。興味深いことに木の魔物も、船上で活け〆されたイカのようにはっきりと、こと切れた瞬間というものが見てとれた。完全に動かなくなる瞬間に、音はしないが、ボッと青白い光が魔物から抜けていくのが見えたのだ。光が抜けると、木の魔物はただのすこしいびつな形をした枯れ木になった。
どうしたんだい黙って。
魔物を倒した僕に盗賊が語りかけてきた。
…いやなに、ちょっとな。
あのタイミング、力加減、僕は魔物のした受け払いに、武道の術を感じていた。
やっぱり怪我でもしたかい?
あれぐらいじゃ問題ない。しかし、こういう奴が、部隊の人数と比べたらほぼ無限にいると思うとやるせねえな。
…あんたどんな顔でそう言ってるんだい?
え?
ずいぶんと楽しそうじゃないか。
そう言われて、僕は顔に手を当てた。知らぬ間に僕の口角はつり上がっていた。
これだから武道家なんてもんはいやなんだ。
盗賊はため息をつき、こまったもんだ、とつけ加えた。
わるいわるい、と、僕は楽しく笑った。
と、その時、盗賊の体がピクリと何かに反応した。同時に僕の視界の隅が突然明るくなった。そっちに顔を向けると、僕に炎の塊がむかってきていた。
とっさに盗賊を突き放すと、僕は避ける間もなく、飛来する炎を背中で受けた。
幸い大きなダメージは感じなかった。僕は素早く燃え出した上着を脱いだ。
俺の一張羅が…こごえるぞこれは。
ぶつぶつ言いながら炎の軌跡を目で追うと、その先に人間がいた。ただ、そいつは半裸で、鹿のようなツノが生えていた。
あいつ手から火の玉を出したぞ!、何かを投げる動作もなしに!
盗賊がさけんだ。
そこまで観てたなら俺を助けろ!
僕は盗賊に文句をいった。
魔物、魔物でいいんだなあいつは!
僕は言うが早いか、人型に向かって突進した。距離さえあれば盗賊ならあの火の玉をよけることは可能だろうが、他に攻撃手段を持っていた場合、やはり僕が盾にならなきゃならんと思ったからだ。
人型と目があう。人型はどろりと濁った目をしていた。人型は僕に向けて手をかざすと、手から火の玉を射出した。そう速いものでもないし、そこまで火力の強いものでもないと知った今となっては、僕を怯ませる効果は火の玉にない。その不可思議さをおいては。
なんだあれは!
僕は立ち止まり、後方のどこかにいるであろう盗賊に問うた。
知らないよ!、ただ仕掛けのあるもんじゃなさそうだ!、しゃがめ!
言われた僕はすぐさま身をかがめる。ほぼ同時に、僕の頭の上を何かが通過する音が聞こえた。すぐさま目で追うと、何かがキラリと光り、それは人型の、火の玉を打ち出していた腕に突き刺さった。
何考えてんだあぶねえだろ!
ナイフを人の頭スレスレに投げた盗賊に、僕は文句をいった。
いいから今のうちだよ!
腕を抑えて苦しむ人型を見るや、僕は一気に距離を縮めた。先ほどの木の魔物のことを踏まえ、僕は人型の後頭部に手を回し、相手を抑えた。当然人型は抵抗を見せたが、力任せの抵抗だった。その隙にいくつかわざと相手に見えるように拳や膝を打ち込むフリをしたが、人型から、武道、を感じることはなかった。木の魔物にはそれを感じ、人型にはまったく感じない。これは一体…。
なにしてんのさ!、横!
盗賊の声がきこえた。
はっとして、横を向く。またしても僕の目の前に炎が向かってきていた。これ以上服を燃やされると、洒落にならない。僕はつかんでいた人型を炎にぶつけて回避した。
あちいなおい!、あ、でも焚火代わりに
そんなこと言ってる場合か!、囲まれてるよ!
いつの間にか盗賊は僕のすぐ後ろに来ていた。盗賊は燃えている人型を滅多刺しにした。返り血をあびている。人型の血も赤いようだ。
あたりを見渡すと、人型が数体、他にもなんだかよくわからぬ造形をした輩が、合わせて10は越えて僕達を囲んでいる。鋭い爪やキバをむき出しにしたもの、手に剣などの獲物をもったもの、火の玉をだすもの、にたにたけたけたと笑っているもの。道理はわからないが宙に浮いているもの。
これは…。
絶体絶命ってやつか?、逃げるくらいはできそうだけどな。
盗賊のか細い声に反応して、僕はそう言った。が、
違う!
と、盗賊はかえしてきた。
これをみな。
盗賊の手には、赤く染まった冒険の書があった。
第一部おわり
盗賊の旅立ち準備もだいたい整理がついてきていたので、僕の強い希望から、僕達はトッツクポーリ近くまで行くことにした。三週間もあれば余裕をもって行って帰ってこれる。帰ってきたらもちろん国の募集に応じる。なぜ僕が勇者部隊に入りたいかというと、フナムシの足跡をたどる、というしみったれた理由もけっして弱くないが、別の人に成り代わる機会であるからだ。国から逃げる、そのために懐に攻めこむ。フナムシのため、自身の正義のため、自身の身のため、僕は参加するのだ。
盗賊も勇者部隊に参加するつもりらしい。盗賊が正規のルートを歩みたがっているのは、ひとえに国の情報を得るためだ。盗賊も自身の利益のため、相手の懐へととびこむ。
僕達が歩くトッツクポーリまでの行路は、フナムシ達が辿った行程と似る。フナムシ達ほど辺鄙な場所は通らなかったが、行けるところまで専馬で行き、そこから警戒にあたる国の兵士の目を避けるよう街道を外れた。僕と盗賊の脚ならば、それほどむずかしいことではなかった。
僕達がトッツクポーリ周辺に向かった理由は、何らかの情報をつかむためという大まかなものもあったが、主に僕がじっとしていられなかったからだ。僕は盗賊に、魔物、と少し戦ってみるのものちの判断材料になるだろう、とてきとうな嘘をついた。盗賊は、こまったもんだ、といい、今勝手に死なれたらもっとこまる、と、僕と同行するに至った。
道中、僕は心底楽しかった。盗賊と話すバカ話も笑えたし、まじめな話も、楽しく消化できた。盗賊は三十路手前だったけどかわいかったから、見ているだけで何か明るい気持ちになれた。恋をしているとは思えなかったが、盗賊と一緒にいるのはとても居心地がよかった。夜中に抱きあうたび、別れた彼女との思い出や未練、後悔が薄れていくようで、とても心持ちのいい日々だった。盗賊は僕のことをなんと思っているのかと考えなくはなかったが、考えると苦しむに違いないから、僕は考えるのをしないことにした。
気づいたか?
トッツクポーリほど近くの森の中を歩いている途中、僕は盗賊にいった。
気づかなかったよ。
と、盗賊はこたえた。
向こうは気づいているみたいだぞ。
あそこについているのが、眼、なら目と目があっちまってるねえ。
雪がちらつく枯れた森の中に、僕達は、どう考えても風ではそう動かないだろう、ざわざわと蠢く一本の木を見つけた。目の前にだ。
木の、魔物か。
だろうねえ。とりあえず距離をとろう。近づきすぎだ。
僕達が距離をとろうとした瞬間木の魔物は枝をふり、僕達をなぎ払おうとした。後退する準備ができていたので、僕達はその一撃をかわすことができた。
木、か。
距離をとると、僕はぽつりとつぶやいた。
武道家だったら木を打ち倒すような修行もしているんじゃないか?
そんな修行はしない。武道家は自然破壊をする者じゃあねえ。ま、遊びで木をぼきりと折れるまで叩いたことはあるが。
あるんじゃないか。さあ、やってこい。
そうだな。あれとだいたい同じ太さの木だった。ちょうど抱きかかえられるくらいの。
早くいきなよ。もたもたしてるとあっちから来そうだ。ほら、動き出した。結構素早いじゃない。
あの時は木を倒すまで一月、拳と脚を打ち続けたよ。
…いいからいきな。見た感じ枯れ木だ。いけるだろ。
僕は盗賊が言い終わるより早く、木の魔物の前に飛び出した。これまで木の魔物をみていると、枝によるなぎ払いぐらいしか相手は技を持っていないと推察された。僕は魔物の真っ正面に立ち、直線的な動きの攻撃で撃退してやろうとした。
魔物は根っこを伸ばして近づこうとする僕の脚に攻撃を加えようとする。人間相手と勝手は違ったが、僕は難なく攻撃を避け、真っ正面に相対し、渾身の突きを放った。
が、僕の突きは魔物の木のボディに届く前に、横からきた枝により流された。
なっ!、へぶし!
弱っ!、ちがう、武道家ァーっ!
渾身の突きを、丁寧に流された僕は、体勢を崩されたのと突きを綺麗に受け流された驚きで、何も出来ぬまま魔物のなぎ払いをもろに受けた。僕の体が宙を横滑りしていく。吹っ飛ばされたのだ。
普通の木、にぶつかって、僕の体は地に落ちた。
いてえ!
大丈夫か!?
そう言いながらも盗賊は足下の石を魔物に投げていた。太い女だ。
いてえだけで大丈夫だ!、急所にもらわなければ問題ない!
どういう体してんだいまったく。楽に死ねると思わないこったね!
望むところだ!
僕は大きく息を吸い込むと、躍動し、盗賊に気をとられている魔物の背後に回り込んだ。僕が背後から拳の届く距離まで近づくと、魔物は反転して、また僕と相対する形となった。僕にはそうなることはわかっていた。
僕のやることも同じだ。渾身の突きをくりだす。今度も魔物は僕の突きを払おうとした。やはり、僕はそう思いながら拳により力をかけた。今度の、なりふり構わぬ一撃は魔物の受け払いにびくともせず、魔物のボディにつきささった。魔物の動きが止まる。僕は勝機を確信し連撃を叩き込んだ。枯れ木の魔物はなすすべなく、面白いように
ボロボロになった。興味深いことに木の魔物も、船上で活け〆されたイカのようにはっきりと、こと切れた瞬間というものが見てとれた。完全に動かなくなる瞬間に、音はしないが、ボッと青白い光が魔物から抜けていくのが見えたのだ。光が抜けると、木の魔物はただのすこしいびつな形をした枯れ木になった。
どうしたんだい黙って。
魔物を倒した僕に盗賊が語りかけてきた。
…いやなに、ちょっとな。
あのタイミング、力加減、僕は魔物のした受け払いに、武道の術を感じていた。
やっぱり怪我でもしたかい?
あれぐらいじゃ問題ない。しかし、こういう奴が、部隊の人数と比べたらほぼ無限にいると思うとやるせねえな。
…あんたどんな顔でそう言ってるんだい?
え?
ずいぶんと楽しそうじゃないか。
そう言われて、僕は顔に手を当てた。知らぬ間に僕の口角はつり上がっていた。
これだから武道家なんてもんはいやなんだ。
盗賊はため息をつき、こまったもんだ、とつけ加えた。
わるいわるい、と、僕は楽しく笑った。
と、その時、盗賊の体がピクリと何かに反応した。同時に僕の視界の隅が突然明るくなった。そっちに顔を向けると、僕に炎の塊がむかってきていた。
とっさに盗賊を突き放すと、僕は避ける間もなく、飛来する炎を背中で受けた。
幸い大きなダメージは感じなかった。僕は素早く燃え出した上着を脱いだ。
俺の一張羅が…こごえるぞこれは。
ぶつぶつ言いながら炎の軌跡を目で追うと、その先に人間がいた。ただ、そいつは半裸で、鹿のようなツノが生えていた。
あいつ手から火の玉を出したぞ!、何かを投げる動作もなしに!
盗賊がさけんだ。
そこまで観てたなら俺を助けろ!
僕は盗賊に文句をいった。
魔物、魔物でいいんだなあいつは!
僕は言うが早いか、人型に向かって突進した。距離さえあれば盗賊ならあの火の玉をよけることは可能だろうが、他に攻撃手段を持っていた場合、やはり僕が盾にならなきゃならんと思ったからだ。
人型と目があう。人型はどろりと濁った目をしていた。人型は僕に向けて手をかざすと、手から火の玉を射出した。そう速いものでもないし、そこまで火力の強いものでもないと知った今となっては、僕を怯ませる効果は火の玉にない。その不可思議さをおいては。
なんだあれは!
僕は立ち止まり、後方のどこかにいるであろう盗賊に問うた。
知らないよ!、ただ仕掛けのあるもんじゃなさそうだ!、しゃがめ!
言われた僕はすぐさま身をかがめる。ほぼ同時に、僕の頭の上を何かが通過する音が聞こえた。すぐさま目で追うと、何かがキラリと光り、それは人型の、火の玉を打ち出していた腕に突き刺さった。
何考えてんだあぶねえだろ!
ナイフを人の頭スレスレに投げた盗賊に、僕は文句をいった。
いいから今のうちだよ!
腕を抑えて苦しむ人型を見るや、僕は一気に距離を縮めた。先ほどの木の魔物のことを踏まえ、僕は人型の後頭部に手を回し、相手を抑えた。当然人型は抵抗を見せたが、力任せの抵抗だった。その隙にいくつかわざと相手に見えるように拳や膝を打ち込むフリをしたが、人型から、武道、を感じることはなかった。木の魔物にはそれを感じ、人型にはまったく感じない。これは一体…。
なにしてんのさ!、横!
盗賊の声がきこえた。
はっとして、横を向く。またしても僕の目の前に炎が向かってきていた。これ以上服を燃やされると、洒落にならない。僕はつかんでいた人型を炎にぶつけて回避した。
あちいなおい!、あ、でも焚火代わりに
そんなこと言ってる場合か!、囲まれてるよ!
いつの間にか盗賊は僕のすぐ後ろに来ていた。盗賊は燃えている人型を滅多刺しにした。返り血をあびている。人型の血も赤いようだ。
あたりを見渡すと、人型が数体、他にもなんだかよくわからぬ造形をした輩が、合わせて10は越えて僕達を囲んでいる。鋭い爪やキバをむき出しにしたもの、手に剣などの獲物をもったもの、火の玉をだすもの、にたにたけたけたと笑っているもの。道理はわからないが宙に浮いているもの。
これは…。
絶体絶命ってやつか?、逃げるくらいはできそうだけどな。
盗賊のか細い声に反応して、僕はそう言った。が、
違う!
と、盗賊はかえしてきた。
これをみな。
盗賊の手には、赤く染まった冒険の書があった。
第一部おわり