勇者と段々崩壊していく世界 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

勇者と段々崩壊していく世界

思ってたよりやるね。
との評価を僕は盗賊よりいただいた。
俺達の噂ぐらいは知っていただろうに、
と、僕が言うと、
この目で確かめないことには話にならないよ、
と、盗賊はニヒヒと笑いながらいった。どことなく盗賊が満足気な雰囲気なのは、金目のものが手に入ったからか、それとも僕の武道の腕前が彼女の何かの基準を満たしていたからか、僕にはわからなかった。
もうそんなメガネをかけなくてもいいよ。
盗賊の根城近くについた。盗賊が僕に用意した変装は帽子にメガネ、付け髭という、より犯人らしさが増すのではないかと疑われるグッズだった。それでも一応変装三点グッズを装備する僕の情けなさったらなかった。まるでペットのようだ。
盗賊の根城は歓楽街の中でも古い地区、旧街道と呼ばれる狭い通り沿いにある昔の売春街の真ん中にある古いホテルの一室だ。もちろん寝る場所は転々とするし、寝る場所とは別に物を置いておく倉庫もある。倉庫の場所は僕も知らないが。
二人きりになって話すことも思いつかなかった僕は、先ほど盗賊が口を閉ざした話題をふってみた。
この街を出るといったな?
ああ、そう遠くない日にね。
どこへ行くんだ?
なんだい?、ああ、宿主がいなくなるとヒモは困るからねえ。
盗賊はくすりと笑った。
…はぐらかしたいなら俺はそれでもいいが。
心配のひとつでもしてると素直に言えりゃあ楽なのにねえ。
そういって盗賊は着ていた服を脱ぎ出した。僕はそれを見ていたが、欲情の感はピクリともしなかった。
ま、在庫も金に代えないといけないし、情報も仕入れなけりゃならない。しばらくはお前の身分は安泰だよ。もちろんその間いいようにお前の腕を使わせてもらうがね。
下着姿になると、盗賊はカバンから手帳と、本日せしめた現金や物を出し、何やらうんうんと手帳をにらんでは筆を走らせた。
感心しないな、
と、僕は言った。
このかっこがかい?
そうだ。
お前がいれば大丈夫だろうし、お前がいても大丈夫じゃない事態ならどんなかっこをしていても同じさ。
盗賊は僕が、いつでもこのホテルから逃げ出せる準備をしていないことに文句をつけている、ことを即座に理解していた。武道家も盗賊も、逃げる時の素早さが最終的な命綱だ。
ずいぶんと俺を信頼するんだな。いざとなったら俺はお前を犠牲にしてでも逃げるぜ。
別れた女を心配するような奴にそんなことができるのかね。ま、あたしはお前のそんな女々しさを信頼しているがねえ。
盗賊にそう言われて、僕は何も言い返せなくなった。
しばらく無言の時が続いた。僕はやることもないので寝ることにした。盗賊の目にはさぞ僕がふて寝を決め込んだようにうつったことだろう。
ふと目が覚めると、まだ盗賊は同じことをしていた。
僕と目が合うと盗賊は、言ってることとやってることが違うじゃないか、と文句をいってきた。時計を見ると、6時間ほどぐっすりと眠っていたらしい。いざという時云々のあとではなんとも情けない。
悪い。熟睡させてもらった。
いいさ、眠れる時に寝ておきなよ。こっちもまずは算段がつきそうだ。あたしももうそっちにいくさ。
そう言うと彼女は湯を浴びに行った。あっさりと出てきた彼女は黒いローブ一枚の姿だった。
お前も浴びてこい、と彼女はいい、僕はそれに従った。湯を浴びおえると、僕はタオル姿になるしかなかった。盗賊が、汚い下着でベッドに入るな、と言ってきたからだ。汚いのは僕が着ていた服もそうだろうと思ったが、僕は口に出さなかった。
ベッドに入る。
盗賊は僕に背を向けていた。
僕はあらためて、この街を出たあとどこに行くんだ、ときいた。
盗賊は、やったあとになら話せる話もあるもんだ、といった。
そういうもんか、と僕が言うと、
そういうもんさ、
と、盗賊はいった。
僕は彼女の肩まで伸びた髪を撫でながら、お前はきれいでいい女だ、といった。あまりに臭いセリフだったので、全体的に小ぶりだがな、とつけたした。
それをきいてふりむいた盗賊はじっと僕をみたあとに少しにやけて、知ってるよ、といい、僕の唇をふさいだ。
避妊具をつける暇さえなかった。
ことが終わると、僕はタバコを吸いだした。
良かったよ。
嘘つけ。誰にでもいうんだろう?
いやいや、なかなかのもんさ。
嘘つけよ。
へんなとこで自身のない男だねえ。
年下の奴におだてられて舞い上がるほど若くも老いてもいない。
へんだね。
…なにがだ?
27歳だったろ?
そうだ。
あたしは28だ。もうすぐ29だがね。
………詐欺、だろ。
褒め言葉として受けとっておくよ。
…いや、おかしい。俺の見たてにそう狂いが生じては困る。武道家として致命的なミスだ。嘘だろ?
困ったもんだお前は。実際そうなんだからしょうがない。その気があればあたしの調達屋としての活動歴でもしらべりゃあわかるさ。この街に来てもう8年は経つからねえ。
僕はしばし絶句した。どうやら嘘ではなさそうだからだ。この肉体で、この肌の張りで、三十路手前だと?
そんなことよりききたいことがあるんじゃないのかい?、あたしが寝る前にきかないと、次はあるかわからないよ。
僕は気を取り直して、少し何をきくか考えた。そして、
…お前がこの街を出るのは、他の街で調達屋をするからか?、
と、きいた。
んー、調達屋というよりも、本分の盗賊稼業に精を出そうと思ってね。いい話をきいた。でかいヤマさ。うまくいくかどうかはわからないが、失敗してもそん時はそん時さ。こちとら盗賊だからね。
何を狙っている?、何を盗む?
国さ。
え?
国をいただいてやるのさ。