勇者と段々崩壊していく世界
ウエノの都市部にも雪が積もり出していた。夜中に彼女の帰宅を見た僕は家に帰ろうとまだほとんど足跡の着いていない雪道を歩いていた。
今日は朝から彼女と会う約束をしている。そんな日はこれから寝てしまわないよう家には帰らなかったのだがいわゆる虫の知らせというものに近い感覚がしたので、僕は動悸を抱えながらもなるべく足早に帰宅した。
「勇者隊連絡途絶える」
この報せを聞いたのが一昨日のこと。フナムシが勇気ある者の部隊に参加してからおおよそ一ヶ月経っていた。フナムシはその間三通僕に手紙をよこしていた。その手紙の間隔と昨日のニュースとで、僕にフナムシから手紙が来るなら今日の朝だと思っていた。だから虫の知らせに近い感覚としたが、確証こそないがそれよりもっと確かな感覚だった。
フナムシからの手紙にはよく部隊のことが書かれていた。手紙を書いてもどうせ検閲が入るに決まってる、と考えたフナムシは旅立つ前の日の夜、僕と最後に会った日の夜にいくつか暗号を教えた。暗号の大きな部分をいうと、文頭が「う」で始まる文章は全く正反対の意味、最初と最後の文は必ず15文字で書きそれ以外の文字数だったら改竄あるいは偽物、と決められた。細かい部分をいえば他にも、仕事が懐かしいと書いたら危険な状況である、などといくつかの単語と意味を示し合せていた。もちろん検閲があることも暗号には含まれていて、それは過去に対戦した人物の名前でわかることになっていた。そしてその人物の強さが検閲の度合いにリンクするしかけだった。なぜこんなことをしたのかといえば、前代未聞の戦いを求めた魔王とそれに乗った、いや従ったともいえるウエノを誰が信用するのかということもあるが、僕達実戦を求める武道家にとっては当然の所作だったから、との方が感覚的には強い。
最初の手紙は勇気ある者が城に集まった日から一週間ほどあとにきた。僕は早速様々なことを知った。集まった人数が国の予測よりも多く戦歴や強さもバラバラで、全員が一部隊として活動するのは非効率かつほぼ不可能で、数人ずつチームを組み、それが部隊活動の最小単位になったこと。およそ一週間そのチームで、おもに連携面であるが、様々な特訓を課されたこと。その特訓はとても激しく初日でかなりの人数またはチーム丸ごと、こんなことをしにやって来たわけじゃない、というような顔をしていて呆れたとのこと。フナムシは彼らを、かなり高確率で自分が死ぬことも理解できぬバカで花見湯山のついでに平和を叫ぼうとしただけの自己満足花畑野郎共、と暗号でもって僕に知らせた。武器や防具、サバイバルに必要な道具よりも化粧品を多く持ってきたバカが何人もいたらしい。この特訓は良いふるいになり、特訓の日々が終わりいよいよ討伐へ出発という前日には部隊に参加した面々の数は半分以下になっていた。明日になればさらに減るだろうとフナムシはいう。フナムシはこの特訓のふるいがなかったらどうなっていたか考えるのも億劫だと手紙を結んだ。もちろん最後には15文字を足して。
二通目の手紙がきたのは最初の手紙から10日ほど経った頃だった。トッツクポーリまでの行軍過程が主な内容だった。城からトッツクポーリまで馬や専車を使えば二日でいける距離だが状況と作戦上、部隊はそうするわけにもいかなかった。部隊の作戦は少ない兵力で魔王を仕留めるという目的上隠密行動が適している。魔王はたった一人、たった一夜でトッツクポーリを落とした人物だ。トッツクポーリを落とし、何か得体の知れない力で何者も寄せつけずに今日に至っている。魔王が他国の動きをどこまで把握しているかは誰にもわからない。わかっているのは得体がしれないということと弱いはずがないということ、それからトッツクポーリの大まかな兵力だった。
トッツクポーリの兵力は最低で20万人を越える。20万というこの数字はトッツクポーリの人口とほぼ一致する。人口の数を最低の兵力としたのは、魔王の兵は人間だけではないからだ。動物や植物すらも魔王は得体の知れない力で兵に変える。僕はそのことをフナムシが伝えてくれるまで知らなかった。他国の事情はわからないがおそらく関係者以外は知らないだろう。そのことはトッツクポーリの全滅を意味していた。
僕はトッツクポーリを落としたのは魔王一人ではなく魔王の軍団で、三国がトッツクポーリに攻め入らないことなど起こっている事態を鑑みるに魔王の兵力は精々一万ぐらいだと考えていた。起こっていることと知っていたことと多少矛盾するが魔王さえ暗殺すればトッツクポーリを占拠する武力勢力は瓦解し、トッツクポーリの正規軍が反撃にでて都市は解放されると軽く思っていた。しかし事はそうではないらしかった。魔王は兵を既存の生命から「創れる」。そのことを国は知っていた。おそらく魔王はこちらの動向を把握していると国は考えているとフナムシは記した。
ウエノの勇者部隊は13隊残った。3、4人からなるそのチームのことを
パーティと称しているらしい。トッツクポーリへの道のりの半分ほどは専車を利用してトッツクポーリへの街道を皆で移動する。その後6隊はそのままトッツクポーリへまっすぐ移動をする。フナムシ曰くこれはおとりの隊らしい。フナムシは勇者隊を指揮する軍師により戦いに近いおとり隊への参加を直訴したが、却下された。それは当然だろう。野山を駆け巡りながら育ち、山籠りの経験もある彼にわざわざ街道を行かせる理由がない。世の中なんでもできる奴は思い通りになんにもできないものだ。
残りの隠密行動の隊は四つに別れ、道無き道を行き、最良の予定では最終的に先を行く6隊とトッツクポーリの手前で一時合流する。それではまるで隠密行動の意味がないとフナムシは記し、国は俺達を信用していないと続けた。トッツクポーリへの道程も自由ではなく、細かくチェックポイントが用意されていた。主に何日以内にこの村の使者に会うことというものだった。その日程は決して楽な日程ではなく、「寄り道」はできなかったという。
フナムシの隊は余りの隊で、一隊のみの行軍になった。フナムシ含め三人からなるパーティだ。一人は招集初日の特訓から組んでいる男の剣士で、腕前も性格もなかなかのものだという。もう一人はウエノの兵士で、特訓には参加しておらず、軍師の小間使いのようなことをしていた男だった。その他の隠密行動をする隊にも国の兵士は混ぜられていた。
日常的と言っていいほどサバイバルに精通したフナムシは、こんなことに時間をかける暇はない、と、もちろん他の二人に気を使いながらだが、できうる限り最速のスピードで日程を消化した。チェックポイントの村に着く頃には他の二人は疲労困憊の様子だったという。その上フナムシは、まだ本格的な戦いは無いと踏み、朝や夜に修行を欠かさなかったという。僕らにとっては当たり前のことだが、他の二人はきっと驚き呆れていたことだろう。
そんな調子で三つ目のチェックポイントに着いた時、そこは起きて畑仕事をして酒飲んで寝ることぐらいしかやることがないようなちいさな村で、歓待が終わりあとはもう寝るだけだと個室のベッドに潜り込んだ瞬間、フナムシは兵士に呼び出された。剣士も一緒だった。
兵士は四つに分かれたうちの一つの行路を行く二隊7名から連絡が途切れた、と言った。それを聞いたフナムシは、まだまだ出るぞ、と返した。フナムシは半分冗談のつもりで言ったらしいのだが、兵士の顔はみるみる青くなっていった。というのも無理はない、その7名の手により自分と同じ役割をしている者が始末されていたのだから。
その逃げ出した勇気ある者達は行方知れずだが、時を同じくして近くの村で村中が被害にあうような強奪事件があったという。兵士は青くなった顔で、きっと逃げた7人の犯行に違いない、と語った。だからなんだと言う二人に兵士は、出来るならばその7名を探して始末しろとのお達しだ、と言う。フナムシは憤慨した。俺は魔王と戦いにきたのだ、内紛している暇はない、と。
怯えているからだろうか、兵士の言葉数は少なかった。だが、頑として一線は退かなかった。終いには、探す気がなくても探すフリはしてくれと言い出した。それでは結局探しているのと同じじゃないか、とのフナムシの反論にも兵士はただ、頼む、と頭をさげた。
埒があかないとばかりに、剣士がはじめて口を開いた。剣士は兵士に取引を持ちかけた。頼み事ならきいてやってもいい、ただし見返りなき頼みをきくほど俺達の仲に信用はない、と。
剣士は兵士に、内容は見せるからお前の責任下にある時は手紙の検閲を緩くすることと兵士の持ち物を検査させろということ、それから決して安くない額の金を要求した。フナムシは剣士に妻とまだ幼い子がいることを知っていたので、その条件が遂行されるならば魔王と戦う以外のことをしてもいいとという気持ちに落ち着いた。また兵士の持ち物にも興味はあった。
しばらく悩んだ兵士は、金は約束できないが、と絞り出すように言い他の二つを了承した。安心しろ誰にもこのことは言わない、剣士の言うことにフナムシは同意した。
そう二通目の手紙は、それでも肝心なところは暗号が施されていたが、あまり制限のないものとなった。中身も多量で、いくつかの束になっていた。
なぜフナムシ達にその役割が巡ってきたかというと、その7人のルートとフナムシ達のルートが近いからだという。さらにフナムシ達が遠回りのルートを想定以上に飛ばして来たために、より近付いているという。
フナムシは二日だけ捜索及び討伐に時間をかけてもいいと言い、兵士は、十分だと答えた。
今日は朝から彼女と会う約束をしている。そんな日はこれから寝てしまわないよう家には帰らなかったのだがいわゆる虫の知らせというものに近い感覚がしたので、僕は動悸を抱えながらもなるべく足早に帰宅した。
「勇者隊連絡途絶える」
この報せを聞いたのが一昨日のこと。フナムシが勇気ある者の部隊に参加してからおおよそ一ヶ月経っていた。フナムシはその間三通僕に手紙をよこしていた。その手紙の間隔と昨日のニュースとで、僕にフナムシから手紙が来るなら今日の朝だと思っていた。だから虫の知らせに近い感覚としたが、確証こそないがそれよりもっと確かな感覚だった。
フナムシからの手紙にはよく部隊のことが書かれていた。手紙を書いてもどうせ検閲が入るに決まってる、と考えたフナムシは旅立つ前の日の夜、僕と最後に会った日の夜にいくつか暗号を教えた。暗号の大きな部分をいうと、文頭が「う」で始まる文章は全く正反対の意味、最初と最後の文は必ず15文字で書きそれ以外の文字数だったら改竄あるいは偽物、と決められた。細かい部分をいえば他にも、仕事が懐かしいと書いたら危険な状況である、などといくつかの単語と意味を示し合せていた。もちろん検閲があることも暗号には含まれていて、それは過去に対戦した人物の名前でわかることになっていた。そしてその人物の強さが検閲の度合いにリンクするしかけだった。なぜこんなことをしたのかといえば、前代未聞の戦いを求めた魔王とそれに乗った、いや従ったともいえるウエノを誰が信用するのかということもあるが、僕達実戦を求める武道家にとっては当然の所作だったから、との方が感覚的には強い。
最初の手紙は勇気ある者が城に集まった日から一週間ほどあとにきた。僕は早速様々なことを知った。集まった人数が国の予測よりも多く戦歴や強さもバラバラで、全員が一部隊として活動するのは非効率かつほぼ不可能で、数人ずつチームを組み、それが部隊活動の最小単位になったこと。およそ一週間そのチームで、おもに連携面であるが、様々な特訓を課されたこと。その特訓はとても激しく初日でかなりの人数またはチーム丸ごと、こんなことをしにやって来たわけじゃない、というような顔をしていて呆れたとのこと。フナムシは彼らを、かなり高確率で自分が死ぬことも理解できぬバカで花見湯山のついでに平和を叫ぼうとしただけの自己満足花畑野郎共、と暗号でもって僕に知らせた。武器や防具、サバイバルに必要な道具よりも化粧品を多く持ってきたバカが何人もいたらしい。この特訓は良いふるいになり、特訓の日々が終わりいよいよ討伐へ出発という前日には部隊に参加した面々の数は半分以下になっていた。明日になればさらに減るだろうとフナムシはいう。フナムシはこの特訓のふるいがなかったらどうなっていたか考えるのも億劫だと手紙を結んだ。もちろん最後には15文字を足して。
二通目の手紙がきたのは最初の手紙から10日ほど経った頃だった。トッツクポーリまでの行軍過程が主な内容だった。城からトッツクポーリまで馬や専車を使えば二日でいける距離だが状況と作戦上、部隊はそうするわけにもいかなかった。部隊の作戦は少ない兵力で魔王を仕留めるという目的上隠密行動が適している。魔王はたった一人、たった一夜でトッツクポーリを落とした人物だ。トッツクポーリを落とし、何か得体の知れない力で何者も寄せつけずに今日に至っている。魔王が他国の動きをどこまで把握しているかは誰にもわからない。わかっているのは得体がしれないということと弱いはずがないということ、それからトッツクポーリの大まかな兵力だった。
トッツクポーリの兵力は最低で20万人を越える。20万というこの数字はトッツクポーリの人口とほぼ一致する。人口の数を最低の兵力としたのは、魔王の兵は人間だけではないからだ。動物や植物すらも魔王は得体の知れない力で兵に変える。僕はそのことをフナムシが伝えてくれるまで知らなかった。他国の事情はわからないがおそらく関係者以外は知らないだろう。そのことはトッツクポーリの全滅を意味していた。
僕はトッツクポーリを落としたのは魔王一人ではなく魔王の軍団で、三国がトッツクポーリに攻め入らないことなど起こっている事態を鑑みるに魔王の兵力は精々一万ぐらいだと考えていた。起こっていることと知っていたことと多少矛盾するが魔王さえ暗殺すればトッツクポーリを占拠する武力勢力は瓦解し、トッツクポーリの正規軍が反撃にでて都市は解放されると軽く思っていた。しかし事はそうではないらしかった。魔王は兵を既存の生命から「創れる」。そのことを国は知っていた。おそらく魔王はこちらの動向を把握していると国は考えているとフナムシは記した。
ウエノの勇者部隊は13隊残った。3、4人からなるそのチームのことを
パーティと称しているらしい。トッツクポーリへの道のりの半分ほどは専車を利用してトッツクポーリへの街道を皆で移動する。その後6隊はそのままトッツクポーリへまっすぐ移動をする。フナムシ曰くこれはおとりの隊らしい。フナムシは勇者隊を指揮する軍師により戦いに近いおとり隊への参加を直訴したが、却下された。それは当然だろう。野山を駆け巡りながら育ち、山籠りの経験もある彼にわざわざ街道を行かせる理由がない。世の中なんでもできる奴は思い通りになんにもできないものだ。
残りの隠密行動の隊は四つに別れ、道無き道を行き、最良の予定では最終的に先を行く6隊とトッツクポーリの手前で一時合流する。それではまるで隠密行動の意味がないとフナムシは記し、国は俺達を信用していないと続けた。トッツクポーリへの道程も自由ではなく、細かくチェックポイントが用意されていた。主に何日以内にこの村の使者に会うことというものだった。その日程は決して楽な日程ではなく、「寄り道」はできなかったという。
フナムシの隊は余りの隊で、一隊のみの行軍になった。フナムシ含め三人からなるパーティだ。一人は招集初日の特訓から組んでいる男の剣士で、腕前も性格もなかなかのものだという。もう一人はウエノの兵士で、特訓には参加しておらず、軍師の小間使いのようなことをしていた男だった。その他の隠密行動をする隊にも国の兵士は混ぜられていた。
日常的と言っていいほどサバイバルに精通したフナムシは、こんなことに時間をかける暇はない、と、もちろん他の二人に気を使いながらだが、できうる限り最速のスピードで日程を消化した。チェックポイントの村に着く頃には他の二人は疲労困憊の様子だったという。その上フナムシは、まだ本格的な戦いは無いと踏み、朝や夜に修行を欠かさなかったという。僕らにとっては当たり前のことだが、他の二人はきっと驚き呆れていたことだろう。
そんな調子で三つ目のチェックポイントに着いた時、そこは起きて畑仕事をして酒飲んで寝ることぐらいしかやることがないようなちいさな村で、歓待が終わりあとはもう寝るだけだと個室のベッドに潜り込んだ瞬間、フナムシは兵士に呼び出された。剣士も一緒だった。
兵士は四つに分かれたうちの一つの行路を行く二隊7名から連絡が途切れた、と言った。それを聞いたフナムシは、まだまだ出るぞ、と返した。フナムシは半分冗談のつもりで言ったらしいのだが、兵士の顔はみるみる青くなっていった。というのも無理はない、その7名の手により自分と同じ役割をしている者が始末されていたのだから。
その逃げ出した勇気ある者達は行方知れずだが、時を同じくして近くの村で村中が被害にあうような強奪事件があったという。兵士は青くなった顔で、きっと逃げた7人の犯行に違いない、と語った。だからなんだと言う二人に兵士は、出来るならばその7名を探して始末しろとのお達しだ、と言う。フナムシは憤慨した。俺は魔王と戦いにきたのだ、内紛している暇はない、と。
怯えているからだろうか、兵士の言葉数は少なかった。だが、頑として一線は退かなかった。終いには、探す気がなくても探すフリはしてくれと言い出した。それでは結局探しているのと同じじゃないか、とのフナムシの反論にも兵士はただ、頼む、と頭をさげた。
埒があかないとばかりに、剣士がはじめて口を開いた。剣士は兵士に取引を持ちかけた。頼み事ならきいてやってもいい、ただし見返りなき頼みをきくほど俺達の仲に信用はない、と。
剣士は兵士に、内容は見せるからお前の責任下にある時は手紙の検閲を緩くすることと兵士の持ち物を検査させろということ、それから決して安くない額の金を要求した。フナムシは剣士に妻とまだ幼い子がいることを知っていたので、その条件が遂行されるならば魔王と戦う以外のことをしてもいいとという気持ちに落ち着いた。また兵士の持ち物にも興味はあった。
しばらく悩んだ兵士は、金は約束できないが、と絞り出すように言い他の二つを了承した。安心しろ誰にもこのことは言わない、剣士の言うことにフナムシは同意した。
そう二通目の手紙は、それでも肝心なところは暗号が施されていたが、あまり制限のないものとなった。中身も多量で、いくつかの束になっていた。
なぜフナムシ達にその役割が巡ってきたかというと、その7人のルートとフナムシ達のルートが近いからだという。さらにフナムシ達が遠回りのルートを想定以上に飛ばして来たために、より近付いているという。
フナムシは二日だけ捜索及び討伐に時間をかけてもいいと言い、兵士は、十分だと答えた。