アラクネ(33)~再投稿~
ぽかんとして椅子に座っているミシモ。高橋の言っている言葉の意味はわかる。しかし、理解しろというのは酷である。
高橋はミシモの後ろに回った。
「こう言っちゃなんだが、野崎さんの次が武者君で本当に良かった。テストが出来たからな」
高橋はミシモのファンシー手錠に目を付け、跪いてそれを観察し始めた。
「外部アクセス不可能な完全に独立した場所だったらアウトだった。でもそうじゃなかった。この世界も不可知な力がその根元にあるのかもな。ま、助かったよ」
高橋は手錠を探った。ミシモは、こいつに触れられるのは嫌だな、と思った。
「賭けだったよ。次に死ぬのが武者君だと決めるのはね。多分に希望的観測に基づく危うい賭けだった」
何かを見つけたらしい高橋は立ち上がると、ぽんとミシモの両肩に両手をついた。生理的に自分の肉体が拒否反応を示すその手を振り払うには、ミシモの肩は硬過ぎる。
「武者君の夢に入り込めた俺は全てを聞いた。壁に耳ありってやつだな」
高橋はすたすたともと居た位置、すなわち、ミシモと扁平頭の男の間に立ち、両者をその視線に入れた。
「アラクネ様ねぇ。調べたが衣替えをするなんてどこにも書いてなかったぜ?」
「貴様がアラクネ様の何を知っているというのだ!アラクネ様の悲しみを!怒りを!嘆きを!愛を!貴様は」
「おっと、お前は俺の許可無しに喋らないでくれるかな。歯痒いのかい?お前が俺に触れることも出来ないことが。わかってるんだぜ?俺と違ってデータでしかないお前に、こういうのも変だが、物理的に俺をどうこうする力など無いことは」
ぴしゃりと言われぐむむと口を紡いだ扁平頭だったが、すぐにまた喚き始めた。言っても聞かないとわかった高橋はそれを無視することにした。
「どうしてあなたはここに入ってこれたの?」
扁平頭無視ゲームに参加しない尾形ミシモなど尾形ミシモではない。
「それだ、君の前ではあまり言いたくなかったのだが、どうせ君は忘れるだろうから言ってしまうか」
ガミガミとなにやらうるさく喚く扁平頭をよそに、少しうつむいた高橋は引き続きミシモと会話をする。
「夢とは繋がっている世界だと言ったよね?」
「ええ、思考やら出来事やらでなんちゃらかんちゃら」
「そう、要するに生活次第で行き着く場所が違う。すなわち」
「同じ生活を営むと」
二人の会話の後ろで引き続き扁平頭がなにやら喚いている。だが、二人は意に介さない。
「その通り。そしてその通りだったよ。大変だったけどね。生活をシンクロさせるのは。同じ時間に起き、同じ時間に同じ飯を食い、咀嚼の回数だって合わせた。同じだけ絵を描き、同じ本を読み、同じだけ歩き、同じ所へ行き、同じだけ同じだけ。息づかいまで同じだったろう。もちろん武者君の過去も知れるだけ知った上で。彼の漫画や彼の育った環境、日記も盗み見たし」
「ちょっと待ってよ。どうしてそんな、同じ時間にって、まさか」
「いやぁ、すまないね。盗聴とか、色々させてもらっていたよ。当然、君も」
「うわっ、最悪」
「だからあまり話したくなかったんだ。俺も必死だったということでひとつ」
「ま、いいわ、もう」
「出来うる限り同じにした。君の場合、同じだけゲームを進めたし、同じ音楽を聴いたし、同じテレビや映画を見たし、同じ運動をした筈。昨日はケーキだって同じものを食った。君の場合家にずっと居たからその点楽だったかな。ま、実際同じっていっても限度ってもんがあるが、君に一杯食わされた時なんか焦ったしね、なんというか分類上はそっくりな生活をしていた筈」
「ううん、やっぱり気持ち悪い」
「気持ち悪い、か。そうだろうなぁ。しかし君がその、なんというか、男には絶対に出来ない秘め事というか」
「え、それって、まさか、自分で!?危ねぇ」
「あ、いや、生理の時は困ったということなんだけど」
「はあ!?じゃあそうはっきり言え!なんだよ!」
「ま、それをしないでくれたのは助かったけどね。いや、武者君の時は助かったと言うべきか」
「うるせえ」
「ごめんごめん。ま、それで俺はここに来ることが出来た。といっても普段は出来ない。君達と同じ夢を見ることは出来なかった。どうやらあいつらが夢の世界をいじる時にこの世界の秩序と言うべきものに隙間が出来るらしい。詳しくはわからんが。とにもかくにもだ、武者君の時にこの世界のコツを掴めたことは大きかった。俺もある程度あいつらと同じようにこの世界を泳ぐことが出来るようになったからね」
「ところで、忘れるってどういうこと?」
「君も気づいているだろう。異常があればすぐに連絡を回したはずだと。誰もあいつらを覚えちゃいない。そう、皆、この夢のことなんて忘れてしまった。というのも夢というものは途中で起きないと記憶に残らないものなんだ。そしてこの夢を見た君達は朝まで目覚めることはない。だから君も、朝が来れば今起こっているこのことは、きれいさっぱり忘れてしまうのさ」
「あー、じゃあ今盗聴器の位置を教えてもらっても、教えてもらってもってのはおかしいな、白状させても意味ないってこと?うわあ。でもなんであんたは記憶があるのよ」
「ふむ。前回俺は途中で目覚めることが出来た。えいやとばかりにね。気合いだよね結局。ははは。ま、おそらく、なんというか、管轄外、だったのだろう。今回ここまで入り込んだ俺がどのように目を覚ますかはわからない。しかし、どのみち今日で最後だ。盗聴のことは悪いと思うが、君を助ける為だったんだ」
「助けるだと?」
その扁平頭の言葉が二人の耳に届いた。それはあげつづけた喚き声ではなく、一段も二段も落ち着いた、嘲りの声だったからである。
「ああ、そうさ。俺は彼女を助ける為にここにいる」
高橋は嘲りに対し毅然と返す。
「アラクネ様の脱皮は止められぬ、それは貴様も知っていることだろう?」
「もちろん知ってるさ。よく聞いてなかったのかな?俺は、助ける、と言ったんだ。止める、とは言っていない」
「ふふん、同じことだろう?」
「いや、違うね」
そう言うと高橋はグーにしていた左拳を開いた。
「それは、馬鹿な!?」
「馬鹿な?ふーん。これがそんなに珍しいか?」
高橋は左手にあるそれを右手で、本に挟んだしおりを抜くようにつまみ上げた。
「繋がり、彼女達八人には繋がりがあるとお前は言う。それは友情であり、初恋であり、ノスタルジーであり、しかし、お前の言う繋がりとは八人の環のことではない。そもそも彼女達八人は環ではなかったからな。お前の言う繋がりとは、突き詰まるところ彼女達とアラクネ様との繋がり」
「…ジグモ」
高橋の手にあるそれを見たミシモが小さく呟いた。
高橋は試験管のようなジグモの巣を逆さにして振った。手のひらにぽとりと小さな蜘蛛が落ちた。逃げぬよう、また優しく指をグーにする。
「俺にだって八人の環に入る資格ぐらいあってもいいと思うんだけどなぁ。土師マユミを想う気持ちなら、誰にも負けていない」
「それは、アラクネ様の、決める、ことだ」
扁平頭の男が力無く言った。
「だろうな。ところで、蜘蛛の女王であらせられるアラクネ様にとって、今俺の手の中でじっとしている、この発端とでも言うべきこいつは…」
「子だ。貴様何をする気だ、やめろ!」
「やめない」
なりふり構わず飛びかかってきた男。しかし如何せん動作が鈍い。高橋は闘牛師のようにひらりと男の突進をかわして、男の脚を掬うように引っ掛けた。男はどてと肩から転げた。高橋は手を広げ、ぱん、と勢いよくやまなりに両手を打った。蓋を開けると、高橋の手の上で自身のその長い牙により腹を裂いていた。
「おごおごおご」
男はぐにょぐにょと蠢き、やがて一本の大きな蜘蛛の脚になった。その反応は高橋に触れたからかジグモが殺されたからなのか、わからない。
「へえ。これは予想外の反応、これが脚か。ぐばあ」
扁平頭の男が変化したその脚は既に抜け殻であった。すなわち、脱皮済みである。
「ごごごごご」
奇声を発する高橋の体がぐにょぐにょぐにゃぐにゃと変化し始めた。
「ちょっとあんた!?」
「なんだと…これは…早過ぎる…そんな、俺は既に認め、与えられていたというのか、そんな、いつ…か…ら…何…を…記憶に…ない…」
ぐにょぐにょぐにゃぐにゃ。
「ああ、痛い。痛い。曲がる。うねる。くっつく。ああ、気持ちいい。ああ、ああ」
かろうじて頭だけ変化し終わっていない体で、高橋はうろんな目をして、恍惚を表した。
「おい!ついてけねえよ!」
ミシモが叫ぶ。しかし、この夢の部外者であるミシモに、それ以上何か出来る筈がなかった。
「感じるぞ。感じる。あああ、あああ、ろおおおお、ろおおおお」
「今までで一番わけわかんねえっつうの!なんだってのよおい!」
「感じるぞおおお、アラクネ様の愛を、痛みを、悲しみを、優しさを、ああ、アラクネ様のお陰だぁ、ああ、そうか、これは俺のおおぉぉぉ」
何か言いかけて、高橋は完全に脚へと変化した。真新しい脚はとても柔らかそうであった。
「なんなんだよ気持ち悪いなちくしょー!」
後ろ手に縛られた乙女の悲痛な叫びもむなしく、脚はうねうねと動き、乳白色の海へと落ちていった。
すると、ミシモの目の前に美しい黒髪の少女が現れた。少女は美しかったが、下半身は蜘蛛であった。
「あ、あなた…が、あなたがアラクネ、様?」
尾形ミシモの問いに少女は無言で、ただ微笑みをかえした。その笑みはどこか物憂げであった。
終わり
高橋はミシモの後ろに回った。
「こう言っちゃなんだが、野崎さんの次が武者君で本当に良かった。テストが出来たからな」
高橋はミシモのファンシー手錠に目を付け、跪いてそれを観察し始めた。
「外部アクセス不可能な完全に独立した場所だったらアウトだった。でもそうじゃなかった。この世界も不可知な力がその根元にあるのかもな。ま、助かったよ」
高橋は手錠を探った。ミシモは、こいつに触れられるのは嫌だな、と思った。
「賭けだったよ。次に死ぬのが武者君だと決めるのはね。多分に希望的観測に基づく危うい賭けだった」
何かを見つけたらしい高橋は立ち上がると、ぽんとミシモの両肩に両手をついた。生理的に自分の肉体が拒否反応を示すその手を振り払うには、ミシモの肩は硬過ぎる。
「武者君の夢に入り込めた俺は全てを聞いた。壁に耳ありってやつだな」
高橋はすたすたともと居た位置、すなわち、ミシモと扁平頭の男の間に立ち、両者をその視線に入れた。
「アラクネ様ねぇ。調べたが衣替えをするなんてどこにも書いてなかったぜ?」
「貴様がアラクネ様の何を知っているというのだ!アラクネ様の悲しみを!怒りを!嘆きを!愛を!貴様は」
「おっと、お前は俺の許可無しに喋らないでくれるかな。歯痒いのかい?お前が俺に触れることも出来ないことが。わかってるんだぜ?俺と違ってデータでしかないお前に、こういうのも変だが、物理的に俺をどうこうする力など無いことは」
ぴしゃりと言われぐむむと口を紡いだ扁平頭だったが、すぐにまた喚き始めた。言っても聞かないとわかった高橋はそれを無視することにした。
「どうしてあなたはここに入ってこれたの?」
扁平頭無視ゲームに参加しない尾形ミシモなど尾形ミシモではない。
「それだ、君の前ではあまり言いたくなかったのだが、どうせ君は忘れるだろうから言ってしまうか」
ガミガミとなにやらうるさく喚く扁平頭をよそに、少しうつむいた高橋は引き続きミシモと会話をする。
「夢とは繋がっている世界だと言ったよね?」
「ええ、思考やら出来事やらでなんちゃらかんちゃら」
「そう、要するに生活次第で行き着く場所が違う。すなわち」
「同じ生活を営むと」
二人の会話の後ろで引き続き扁平頭がなにやら喚いている。だが、二人は意に介さない。
「その通り。そしてその通りだったよ。大変だったけどね。生活をシンクロさせるのは。同じ時間に起き、同じ時間に同じ飯を食い、咀嚼の回数だって合わせた。同じだけ絵を描き、同じ本を読み、同じだけ歩き、同じ所へ行き、同じだけ同じだけ。息づかいまで同じだったろう。もちろん武者君の過去も知れるだけ知った上で。彼の漫画や彼の育った環境、日記も盗み見たし」
「ちょっと待ってよ。どうしてそんな、同じ時間にって、まさか」
「いやぁ、すまないね。盗聴とか、色々させてもらっていたよ。当然、君も」
「うわっ、最悪」
「だからあまり話したくなかったんだ。俺も必死だったということでひとつ」
「ま、いいわ、もう」
「出来うる限り同じにした。君の場合、同じだけゲームを進めたし、同じ音楽を聴いたし、同じテレビや映画を見たし、同じ運動をした筈。昨日はケーキだって同じものを食った。君の場合家にずっと居たからその点楽だったかな。ま、実際同じっていっても限度ってもんがあるが、君に一杯食わされた時なんか焦ったしね、なんというか分類上はそっくりな生活をしていた筈」
「ううん、やっぱり気持ち悪い」
「気持ち悪い、か。そうだろうなぁ。しかし君がその、なんというか、男には絶対に出来ない秘め事というか」
「え、それって、まさか、自分で!?危ねぇ」
「あ、いや、生理の時は困ったということなんだけど」
「はあ!?じゃあそうはっきり言え!なんだよ!」
「ま、それをしないでくれたのは助かったけどね。いや、武者君の時は助かったと言うべきか」
「うるせえ」
「ごめんごめん。ま、それで俺はここに来ることが出来た。といっても普段は出来ない。君達と同じ夢を見ることは出来なかった。どうやらあいつらが夢の世界をいじる時にこの世界の秩序と言うべきものに隙間が出来るらしい。詳しくはわからんが。とにもかくにもだ、武者君の時にこの世界のコツを掴めたことは大きかった。俺もある程度あいつらと同じようにこの世界を泳ぐことが出来るようになったからね」
「ところで、忘れるってどういうこと?」
「君も気づいているだろう。異常があればすぐに連絡を回したはずだと。誰もあいつらを覚えちゃいない。そう、皆、この夢のことなんて忘れてしまった。というのも夢というものは途中で起きないと記憶に残らないものなんだ。そしてこの夢を見た君達は朝まで目覚めることはない。だから君も、朝が来れば今起こっているこのことは、きれいさっぱり忘れてしまうのさ」
「あー、じゃあ今盗聴器の位置を教えてもらっても、教えてもらってもってのはおかしいな、白状させても意味ないってこと?うわあ。でもなんであんたは記憶があるのよ」
「ふむ。前回俺は途中で目覚めることが出来た。えいやとばかりにね。気合いだよね結局。ははは。ま、おそらく、なんというか、管轄外、だったのだろう。今回ここまで入り込んだ俺がどのように目を覚ますかはわからない。しかし、どのみち今日で最後だ。盗聴のことは悪いと思うが、君を助ける為だったんだ」
「助けるだと?」
その扁平頭の言葉が二人の耳に届いた。それはあげつづけた喚き声ではなく、一段も二段も落ち着いた、嘲りの声だったからである。
「ああ、そうさ。俺は彼女を助ける為にここにいる」
高橋は嘲りに対し毅然と返す。
「アラクネ様の脱皮は止められぬ、それは貴様も知っていることだろう?」
「もちろん知ってるさ。よく聞いてなかったのかな?俺は、助ける、と言ったんだ。止める、とは言っていない」
「ふふん、同じことだろう?」
「いや、違うね」
そう言うと高橋はグーにしていた左拳を開いた。
「それは、馬鹿な!?」
「馬鹿な?ふーん。これがそんなに珍しいか?」
高橋は左手にあるそれを右手で、本に挟んだしおりを抜くようにつまみ上げた。
「繋がり、彼女達八人には繋がりがあるとお前は言う。それは友情であり、初恋であり、ノスタルジーであり、しかし、お前の言う繋がりとは八人の環のことではない。そもそも彼女達八人は環ではなかったからな。お前の言う繋がりとは、突き詰まるところ彼女達とアラクネ様との繋がり」
「…ジグモ」
高橋の手にあるそれを見たミシモが小さく呟いた。
高橋は試験管のようなジグモの巣を逆さにして振った。手のひらにぽとりと小さな蜘蛛が落ちた。逃げぬよう、また優しく指をグーにする。
「俺にだって八人の環に入る資格ぐらいあってもいいと思うんだけどなぁ。土師マユミを想う気持ちなら、誰にも負けていない」
「それは、アラクネ様の、決める、ことだ」
扁平頭の男が力無く言った。
「だろうな。ところで、蜘蛛の女王であらせられるアラクネ様にとって、今俺の手の中でじっとしている、この発端とでも言うべきこいつは…」
「子だ。貴様何をする気だ、やめろ!」
「やめない」
なりふり構わず飛びかかってきた男。しかし如何せん動作が鈍い。高橋は闘牛師のようにひらりと男の突進をかわして、男の脚を掬うように引っ掛けた。男はどてと肩から転げた。高橋は手を広げ、ぱん、と勢いよくやまなりに両手を打った。蓋を開けると、高橋の手の上で自身のその長い牙により腹を裂いていた。
「おごおごおご」
男はぐにょぐにょと蠢き、やがて一本の大きな蜘蛛の脚になった。その反応は高橋に触れたからかジグモが殺されたからなのか、わからない。
「へえ。これは予想外の反応、これが脚か。ぐばあ」
扁平頭の男が変化したその脚は既に抜け殻であった。すなわち、脱皮済みである。
「ごごごごご」
奇声を発する高橋の体がぐにょぐにょぐにゃぐにゃと変化し始めた。
「ちょっとあんた!?」
「なんだと…これは…早過ぎる…そんな、俺は既に認め、与えられていたというのか、そんな、いつ…か…ら…何…を…記憶に…ない…」
ぐにょぐにょぐにゃぐにゃ。
「ああ、痛い。痛い。曲がる。うねる。くっつく。ああ、気持ちいい。ああ、ああ」
かろうじて頭だけ変化し終わっていない体で、高橋はうろんな目をして、恍惚を表した。
「おい!ついてけねえよ!」
ミシモが叫ぶ。しかし、この夢の部外者であるミシモに、それ以上何か出来る筈がなかった。
「感じるぞ。感じる。あああ、あああ、ろおおおお、ろおおおお」
「今までで一番わけわかんねえっつうの!なんだってのよおい!」
「感じるぞおおお、アラクネ様の愛を、痛みを、悲しみを、優しさを、ああ、アラクネ様のお陰だぁ、ああ、そうか、これは俺のおおぉぉぉ」
何か言いかけて、高橋は完全に脚へと変化した。真新しい脚はとても柔らかそうであった。
「なんなんだよ気持ち悪いなちくしょー!」
後ろ手に縛られた乙女の悲痛な叫びもむなしく、脚はうねうねと動き、乳白色の海へと落ちていった。
すると、ミシモの目の前に美しい黒髪の少女が現れた。少女は美しかったが、下半身は蜘蛛であった。
「あ、あなた…が、あなたがアラクネ、様?」
尾形ミシモの問いに少女は無言で、ただ微笑みをかえした。その笑みはどこか物憂げであった。
終わり