アラクネ(14)~再投稿~
「ずばり、死なない方に3000点」
「その根拠は?」
「超常現象とか超能力とか不思議パワーなんてまるっきり信じてないから。というか無いから。私達が冷静にさえなればなんら問題はない」
「なるほど。シンプルね」
「おいおい、根拠がそれかよ。前提がおかしいだろ」
「何よタケハル、あんた幽霊とか前世とか信じてるタイプ?」
「そうじゃないけど」
「マユミ、超能力は無くてもロマンはあるでしょ!」
「ホノカ、ピラミッドってあるでしょ?ピラミッドには、宇宙人が建てた説ってのがあるんだけど、あれを宇宙人がやって来て建てたって考えるのはロマンじゃなくてただの思考停止。マイナスとマイナスをかけるとプラスになるように、わからないこととありえないことをかけるとそれっぽく聞こえるものなの。そういう風に出来てる。本当のロマンは当時の人間が重機も使わずに知恵と労力を振り絞ってあれだけ精巧な巨大建築物を造ってみせたってことよ」
「あー、そっちね」
「そっちってホノカ、どっち?」
「そんなこと話してる場合か?いい加減、とりあえずでも結論出そうぜ。だべりに集まったわけじゃねえだろ。俺明日早いんだよ」
ころころ替わる話題にタケハルはイライラしていた。
「私も早いよ」
「鈴木、それをへらず口って言うんだぜ。しっかりメモして覚えとけ」
「マユミぃ、タケハル君がいじめるぅ」とかわいらしく言った後、「心の天秤ぐらいバランスバランスさせていいだろうが」と、無表情で吐いた。
タケハルはつきあってられないとばかりに話を続ける。
「いいか、確かに土師の言ったことは的を射ている」
おれも同じことを言ったのだが。カズタカはどうにかこうにか言葉を嚥下した。
「ここで決めちまおう。俺達は死なない。だからみんな死ぬな。サブリミナルだなんだと出てきたが俺にはそれしか結論が出ない。心理的作用で死ぬ可能性があるというなら精神科医の診察を受けるのもいいだろう。少なくとも、俺達はしばらく密に連絡を取り合うんだ。朝昼夜、定期的に、そうだな、メールを送りあおう。何か異変があったらすぐに誰かに、いや、みんなに連絡を入れるんだ。これでいいな?」
「お、おう」
「そうね」
「まあ、ね」
「うん」
「うーん」
「なんだ?俺の意見になにか言いたいことがあるなら言ってくれよ鈴木」
「いやあ、君達に毎日三回もどんな内容のメールを送ればいいのかなって」
「…一斉送信を使え。互いのアドレスは知ってるな?以上、解散」
殴られるのとおごるの、どっちがいい?
懐が淋しかったカズタカは逡巡したのち、こいつらなら本気で俺が変な声を出すまでやりかねない、と結局後者を選択した。
それから数日が経ち、菱山カナコの葬儀は晴れ渡る冬の近い空の下しめやかに行われた。カナコの顔はやはりヒロフミと同じように、大きな蜘蛛がへばりついているかのように苦悶に満ちたものであった。葬儀に出席した六人。メールのやり取りが早くも形骸化し空メールの送り合いになる程、六人の日常生活に何ら異変は無かった。アヤもぷっくりほっぺをより腫らすこともなく、元気そうな様子である。
「でね、お母さんったら管理人さんに、あの子は小さいからその必要ありませんって言ったのよ。ふふふ、それ聞いてあたし吹き出しちゃってさぁ。あの子棺桶に入れないまま運ぶ気なのって。エレベーターで遺体を抱えた人とかち合わせたら、あたしだったら失神しちゃうよって。こんな時にエレベーターの奥の扉を開けるくらい遠慮すんなって」
マユミ達にお酌をしにきたカナコの姉が形式的な挨拶を済ますと開口一番笑えない軽口を言い出した。カナコの姉の痛々しい明るさがマユミ、ホノカ、ミシモ、アヤの四人に若くして妹を無くしたその辛さを伝える。どうして良いものかわからぬ三人は、ははぁそれはそれは、などと相槌を打つことで精一杯であった。
タケハルとカズタカはマユミ達と近況を報告し合うと、先に帰った。カナコとそれ程親しい間柄ではなかったからである。薄情ではなく、遺族側からみて二人は招かれざる客なだけだ。
ヒロフミの葬儀の時のような混乱もなく、つつがなく葬儀は終了した。
「姉ちゃんのさ。様子思い出すとさ。あたし駄目だ。泣いちゃうかもぉ、ううぅ」
帰りに四人で寄ったカラオケ店の気密性の高い部屋の中でそう言うと、ホノカは人一倍ぴんとしたまつげを濡らした。一人っ子のホノカにとって幼い頃からの親友であるカナコの実質的保護者だったカナコの姉はまさしく「姉ちゃん」であった。
「マイクを握れ。騒ぐっきゃねえよ」
マユミが吠える。
「そうよ。がなりたてるの、ホノカ」
「アヤもわかってきたじゃない」とミシモ。
「うん。そうだよね、そうだよ。よーし。今日はのりにのってやる。ぶっ飛んでやる」
「いけ!」
四人のエレジー無き挽歌の狂宴は声が出なくなるまで続いた。
この日からちょうど一ヶ月後に行われた土師マユミの葬儀に野崎アヤは出席しなかった。
続
「その根拠は?」
「超常現象とか超能力とか不思議パワーなんてまるっきり信じてないから。というか無いから。私達が冷静にさえなればなんら問題はない」
「なるほど。シンプルね」
「おいおい、根拠がそれかよ。前提がおかしいだろ」
「何よタケハル、あんた幽霊とか前世とか信じてるタイプ?」
「そうじゃないけど」
「マユミ、超能力は無くてもロマンはあるでしょ!」
「ホノカ、ピラミッドってあるでしょ?ピラミッドには、宇宙人が建てた説ってのがあるんだけど、あれを宇宙人がやって来て建てたって考えるのはロマンじゃなくてただの思考停止。マイナスとマイナスをかけるとプラスになるように、わからないこととありえないことをかけるとそれっぽく聞こえるものなの。そういう風に出来てる。本当のロマンは当時の人間が重機も使わずに知恵と労力を振り絞ってあれだけ精巧な巨大建築物を造ってみせたってことよ」
「あー、そっちね」
「そっちってホノカ、どっち?」
「そんなこと話してる場合か?いい加減、とりあえずでも結論出そうぜ。だべりに集まったわけじゃねえだろ。俺明日早いんだよ」
ころころ替わる話題にタケハルはイライラしていた。
「私も早いよ」
「鈴木、それをへらず口って言うんだぜ。しっかりメモして覚えとけ」
「マユミぃ、タケハル君がいじめるぅ」とかわいらしく言った後、「心の天秤ぐらいバランスバランスさせていいだろうが」と、無表情で吐いた。
タケハルはつきあってられないとばかりに話を続ける。
「いいか、確かに土師の言ったことは的を射ている」
おれも同じことを言ったのだが。カズタカはどうにかこうにか言葉を嚥下した。
「ここで決めちまおう。俺達は死なない。だからみんな死ぬな。サブリミナルだなんだと出てきたが俺にはそれしか結論が出ない。心理的作用で死ぬ可能性があるというなら精神科医の診察を受けるのもいいだろう。少なくとも、俺達はしばらく密に連絡を取り合うんだ。朝昼夜、定期的に、そうだな、メールを送りあおう。何か異変があったらすぐに誰かに、いや、みんなに連絡を入れるんだ。これでいいな?」
「お、おう」
「そうね」
「まあ、ね」
「うん」
「うーん」
「なんだ?俺の意見になにか言いたいことがあるなら言ってくれよ鈴木」
「いやあ、君達に毎日三回もどんな内容のメールを送ればいいのかなって」
「…一斉送信を使え。互いのアドレスは知ってるな?以上、解散」
殴られるのとおごるの、どっちがいい?
懐が淋しかったカズタカは逡巡したのち、こいつらなら本気で俺が変な声を出すまでやりかねない、と結局後者を選択した。
それから数日が経ち、菱山カナコの葬儀は晴れ渡る冬の近い空の下しめやかに行われた。カナコの顔はやはりヒロフミと同じように、大きな蜘蛛がへばりついているかのように苦悶に満ちたものであった。葬儀に出席した六人。メールのやり取りが早くも形骸化し空メールの送り合いになる程、六人の日常生活に何ら異変は無かった。アヤもぷっくりほっぺをより腫らすこともなく、元気そうな様子である。
「でね、お母さんったら管理人さんに、あの子は小さいからその必要ありませんって言ったのよ。ふふふ、それ聞いてあたし吹き出しちゃってさぁ。あの子棺桶に入れないまま運ぶ気なのって。エレベーターで遺体を抱えた人とかち合わせたら、あたしだったら失神しちゃうよって。こんな時にエレベーターの奥の扉を開けるくらい遠慮すんなって」
マユミ達にお酌をしにきたカナコの姉が形式的な挨拶を済ますと開口一番笑えない軽口を言い出した。カナコの姉の痛々しい明るさがマユミ、ホノカ、ミシモ、アヤの四人に若くして妹を無くしたその辛さを伝える。どうして良いものかわからぬ三人は、ははぁそれはそれは、などと相槌を打つことで精一杯であった。
タケハルとカズタカはマユミ達と近況を報告し合うと、先に帰った。カナコとそれ程親しい間柄ではなかったからである。薄情ではなく、遺族側からみて二人は招かれざる客なだけだ。
ヒロフミの葬儀の時のような混乱もなく、つつがなく葬儀は終了した。
「姉ちゃんのさ。様子思い出すとさ。あたし駄目だ。泣いちゃうかもぉ、ううぅ」
帰りに四人で寄ったカラオケ店の気密性の高い部屋の中でそう言うと、ホノカは人一倍ぴんとしたまつげを濡らした。一人っ子のホノカにとって幼い頃からの親友であるカナコの実質的保護者だったカナコの姉はまさしく「姉ちゃん」であった。
「マイクを握れ。騒ぐっきゃねえよ」
マユミが吠える。
「そうよ。がなりたてるの、ホノカ」
「アヤもわかってきたじゃない」とミシモ。
「うん。そうだよね、そうだよ。よーし。今日はのりにのってやる。ぶっ飛んでやる」
「いけ!」
四人のエレジー無き挽歌の狂宴は声が出なくなるまで続いた。
この日からちょうど一ヶ月後に行われた土師マユミの葬儀に野崎アヤは出席しなかった。
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