アラクネ(7)~再投稿~ | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

アラクネ(7)~再投稿~

ホノカを交え暖をとる酒臭い三人。そぼ降る雪の中走ってきたのである。かじかむ足の小指がぽろりと取れてしまいそうだった。

そうこうしている内に出棺の儀に至る。火葬場で、近親者のみで、小さな告別式をやるとのこと。やつれ果てたヒロフミの両親が安っぽい神殿のような宮型霊柩車に乗り、近所迷惑を考慮し鳴らされた申し訳程度のクラクション。その様子を遠巻きに見守る五人と二人。タケハルとカズタカが車を出し、マユミ達も火葬場へ向かう。

カズタカの軽自動車に乗ったのはマユミとミシモと勿論カズタカ。向こうでは今頃私への文句で盛り上がっているのだろうな、と、マユミは溜め息を吐いた。

斎場から出て、少し行った交差点を右折する時、盲目的にタケハルの車を追従したカズタカが、前車の陰からやってきたカズタカの意識外の直進車とぶつかりそうになった。人間降って湧いた危機的瞬間では声など出ないものだ。とっさにカズタカがアクセルを踏み込む選択をし、ぶつかるより早く危機的状況を脱したことにより最悪の事態は避けられた。

「…止まってたら事故だった」ミシモが誰に対してでもなく呟く。

「向こうはでかいトラックでこっちは軽、勝ち目はなかった、ね」と、マユミは横のミシモに言うと、きっ、とバックミラーを睨みつけ、

「何やってんだよウスノロ!どこに目つけてんだ!ちゃんと前見て運転しろ!殺す気か!」

と、カズタカに罵声を浴びせた。

「そんなことはわかってんだよ。今のは俺が悪かったよ。油断してた。悪かったよ。反省してるし、こんなヘマもうしないよ。わかったからもう言うなよ。わかりきったことをくどくど言われるのが嫌いなんだよ」ミシモの文句を呆れた様子で、妙に落ち着いた口調でカズタカが言う。

「まあ、まあいいよ。しかしだね、しかしだよ?あんた、いや、あんたらさ、普通に車を家から出してきたけどさ、私達も普通に乗り込んだけども、さっきの場所で酒飲んでないよね?」マユミが強張った表情で問う。

「…それを聞いてどうするんだ?」

「はぁ!?マジかよぉ。こいつら酒気帯びだよぉミシモぉ。こいつが捕まったら私達も罰金だよぉ。ふざけるのも大概にしとけ!運転代われ下手くそ!」

「…多分、今私達の中で一番呼吸の中の酒気が高いのはあんただよ。それでマユミの次は私」ミシモが冷静に判断を下す。

「落ち着け。俺もタケハルも飲んじゃいないよ。タケハルに至っては最初から車で来てるからな。俺だって、考えても見ろよ、おばさんに言われた時から車移動は考慮済みなんだよ。ふふん」

「笑ってんじゃねえよ。酔ってないなら尚更気をつけろ。酒気帯びだろうが酒気帯びてないだろうが、私達最悪死ぬとこだったんだぞ。一番危なかったのは助手席側にいる私なんだよ」ミシモの説教にカズタカは身を竦める。

しばらく無言が続いた車中、雰囲気を良くしようとしたのか、不意にカズタカが、

「しっかし、霊柩車とだけは事故を起こしたくはないもんだな。軽く当てただけで死亡事故扱いになったりして」

と、話し出した。しかしながらこれは藪蛇であった。

「カズタカ、あんた二つのことを同時に出来る?別に歌いながら読書するなんて難易度の高いものじゃなくて、テレビ観ながらご飯を食べる程度のことなんだけど。いやぁ運転しながら会話なんて出来るのかなぁ」マユミのネチっこい言葉にミシモが、

「いや、マユミ、タケハルが言うに彼氏は見事エロ漫画家とニートを両立させているらしいじゃない。相反した定義を両立させるって、これって奇跡じゃない?自称漫画家のニートなら存在する可能性は無限大だけど、エロ漫画家とニートを両立させるって、やっぱり奇跡だわこれは」

と、続いた。

「うるさいな。ただの矛盾だろ。俺は稼げなくて実家に寄生しているだけでニートではない。まあ、働いている、とも言えないが。だけど俺の描いたやつはちゃんと雑誌にだって掲載されてるんだぞ?お前ら知ってるか?月刊ムマデラックス」業を煮やしたカズタカは、少し自慢をしつつ話題の方向性をわずかにずらす作戦にでた。が、

「知ってる筈無いだろ」マユミが斬って捨てる。

「そうか。夢の悪魔と書いて夢魔なんだが」

「だからどうしたっていうの!?大体あんたよく実家でエロ漫画なんか描けるわね。別にエロ漫画を卑下しているわけじゃないけど、実家で描くようなもんじゃないでしょうに」と、言った所で、マユミはカズタカの家が小さいながらもいくつかアパートを経営していることを思い出した。実家に寄生していると言ったカズタカの言葉は、アパートの一室を無償で借りていることを指すのであろうことに思い至り、「ま、そんなことはどうでもいいけど」と、はぐらかした。変に気を遣う性質であるマユミは相手があまり触れられたくない、自分だったら聞かれたくない、聞かれたら困るといった類いの会話を時に不自然なほど、避ける。理性と記憶を失う前は、の話であるが。

「ま、確かに今日はそんなこたどうでもいいんだよ。ヒロフミの葬式なんだ。ヒロフミの話をしないと、あいつ化けて出るぜ」マユミがひるんだ隙をみて、カズタカは話題を変えた。

「ヒロフミねぇ」ふぅっと息を吐きながらミシモが呟いた。

「おいおい、なんだよ、思い出っつう思い出も見当たらないのか?これだから女ってやつは。ヒロフミどころかタケハルも浮かばれねえよ。何回か一緒に遊んだろ。いや、何回も、か。俺達なんてお前らと一緒におばさんに呼びかけられたってことであの思い出がさっきからずっと…しっかし、大変だよなあいつのご両親も。おばさんなんかあんなにやつれて。二人の子供に先立たれるなんてなぁ、ましてや」

「二人?どういうこと?ヒロフミって一人っ子じゃなかったっけ」カズタカの話を遮り、マユミが口を出す。

「ああ?知らないのか?ま、ヒロフミも転校してきた以前の話はしたがらなかったからな。ひょっとしたら俺とタケハルしか知らないのかもしらん」