アラクネ(6)~再投稿~ | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

アラクネ(6)~再投稿~

「あんた友達いないでしょ!」

「ああ、よく言われますです、はい」

「はあ!?」

「いや、あの、すみません」

アヤのそう断言したように、マユミに友達と呼べる人物はミシモしかいないと言っても過言ではない。勿論、友人関係にある人物は何人もいるが、マユミにとって彼氏彼女らは全てミシモと楽しく過ごす為のダシである。ミシモが笑っていればそれだけで良かったし、友達も、ミシモ一人が居ればそれだけで良かった。

アヤとのやりとりを今にも猿みたくキャキャキャと笑い出しそうにミシモが見ている。この状況がマユミの幸せである。その結果アヤと絶交になっても、一向に構いやしない。

「あのぉ、出来れば昨日ワタクシがあなたに何をしたのかを教えて頂ければこれ幸いと申しますか」

「覚えてないの!?」

「はあ、その通りで、いや、ま、所々覚えてはいるんですがね。あなたに背中をガンガン蹴られているところとか」

「なんでそんなとこだけ覚えているのよ!」火に油を注ぐ、とはまさにこのことで、ジャンガリアンハムスターの如く膨らんだほっぺを針で刺せばどこかに飛んで行ってしまいそう。ミシモは「ふぅしゃぁ」などと吐息を漏らす。

「衝撃のせい…でしょうか?」

「知らないわよ!壊れたテレビかお前は!あんたが思い出しなさいよ!あなたが何をしてそんな状況になったかを!」

「と、言われましても、酒で記憶を亡くすってやつぁ厄介なものでして、体験したことの無い人にはいまいちわかりずらいと思いますがね、忘れている、というよりも、抜け落ちている、って具合で、思い出そうにも、こりゃバックアップ不可能ってもんで」

「ふっ、マユミねぇ、あんたアヤの、ふふへ」ミシモが何か言いかけると、

「言うなぁ!」

と、アヤの声が閑散としているセレモニーホールに響く。そしてアヤはつっけんどんにカナコ達の下へ去って行った。

滑稽調で語りかけてはいるが、マユミは一人になれば泣いて落ち込む程反省をしている。しかし今回の件には、手応え、を感じていた。それはいつもの、ミシモに対してへの手応えと共に、アヤと絶交という事態には陥らないであろう手応えである。マユミの経験上、二度と飲み会には誘われなくなるが、後日感情をぶちまけてくる相手とは関係の修復が可能である。酔夢を探る旅の中、再会して目があった途端マユミを押し倒し、馬乗りになるとボコボコにした大学の友人もいたが、マユミが甘んじてそのペナルティを受け入れたことにより、彼女とはそれだけで関係は修復された。この時のマユミは彼女の彼氏を罵倒し続けた挙げ句彼女の顔面にゲロを吐いたようだった。厄介なのは全く相手にされないことで、白々しく振る舞われ明らかに一線引かれた大人の対応をとられると、もうなにをやっても手遅れである。

「ねぇ、私何した?」

「ふく。ふふふ。あんたねぇ、昨日は“恣意の女王”になってた」

「シイ?シイって、あー、恣意のシイ?“次”みたいな漢字の」マユミはアルコールで記憶を亡くした時、自身に何かが憑依することは散々聞いてきた。確か前回記憶を亡くした時には“犬の神”になったらしいということをマユミは思い出し、また、最近恣意という言葉をシイと読むのかジイと読むのか突然わからなくなり辞書で引いたことに思い当たった。

「恣意だ恣意だ喚いてね、何者に対しても私は恣意だって。思うままにやってやるんだって。しまいには椎茸だって言ってたよ」

「椎茸…ああ、だから椎茸。…つまんねえな、あたし。せめて地井武男にでもなってりゃ。突然散歩したり」

「同じことをアヤが言ったんだけどねぇ。あんた酔っ払うと変なところでこだわるから。地井?なんじゃそりゃ、シイじゃないじゃん、なんて言い出して。意味わかんない。ふふ。流石のキレっぷり。後先考えないからねぇ。あんた破壊念慮でもあるんじゃないの?」ミシモが薄く笑った。

「なるほど。ああ、何となくわかってきた。それでアヤを生贄にやりたい放題やったと」

「そう。いやはや、あれは酷かったねぇ。訴えられてもなんら不思議じゃない」

「そこまでのことをしましたか」

「だってさ、恣意になって椎茸になって恣意になってシイシイになってやるシイシイしてやるってブツブツ言いながら、ブラもパンツも脱ぎだして、アヤに同じことをしろと。ま、ここまではアヤも酔った勢いで乗ってね、二人仲良く脱ぎ捨てたと思ったら、それも作戦だったのか、あんたアヤを襲ったんだ」

「襲った!?」

「酷かったねぇ。半裸の狂態よ。ここに椎茸が欲しいのか、なんて引くようなことまで言って、嫌がるアヤを押さえ込んでアソコを写メしようとしてね」

「うっ。酷いなそれは。後で本気で謝ろ」ふとマユミは、そのレズ行為を本当はミシモにしたかったのかも知れない、と思った。

「で、携帯の奪い合いになって。しっかし、アヤに背中をガンガン蹴られながらヘラヘラ笑って酒を飲むあんたの姿は狂気じみていたわ」

「あー、そこでか。だから携帯もこんな状態に」疼痛を感じる背中をさすりながらマユミは真っ二つになった携帯を取り出した。

「そうそう。ま、携帯は自分で折ったんだけどね」

「自分で?」

「こんなものは恣意の敵だ、こんなものがあるから毎夜寂しい思いをしなけりゃならんのだって言って、ぽっきりと」

「ぽっきりと、ですか」

「ていうか寒い。下にストーブあったろ。足下乾かさにゃ。下半身の冷えは万病のなんやらだ」