アラクネ(2)~再投稿~ | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

アラクネ(2)~再投稿~

五人の喪服の乙女達が辿り着いた所は、駅前ロータリーに存在するファミリーレストランであった。今日の、ひとまずの目的地である。本番は明日。しかし、この日の為に喪服を卸したということは間違っていない。

小学校時代の同窓生、佐藤ヒロフミが死んだことにより、三年置きに同窓会をしようと涙ながらに決められた本気でありながら社交辞令と化した約束から長い沈黙を破り、連絡網というものが同窓生一同に回った。実は、連絡網が回り巡るより早く、大概の同窓生はその事実を耳に入れていたのだが。

マユミの場合、実家住まいであるからして、野崎アヤからの連絡が家の電話にかかってきて、その電話をマユミ本人が取った。マユミも大概の同窓生の一員であり、ヒロフミの死を連絡網より事前に知っていたもので、普段あまり家の電話を取るということはしないのだが、イレギュラーなタイミングで電話が鳴った時、虫の知らせのより確かな感覚におそわれ、向こうの電話口の主がアヤであることを直感した。久しぶりに話すアヤと事務的な連絡をやりとりしたのち、携帯電話のアドレスを交換。マユミは次の人である菱山カナコに、卒業アルバムを紐解き、伝えられた連絡を回し、携帯電話のアドレスを交換、今日の日に至った。

というのも、マユミが大急ぎで喪服や葬式のマナーの準備をしている時、カナコから一通のメールが来たからである。曰わく、

「私初めて喪服を買ったんだけど、初めて喪服を卸した時ってお葬式の為に着ちゃいけないらしいよ。なんか喪服着てご飯食べたりするらしい。というわけで、喪服ヴァージン集めてプチ同窓会希望。こっちが本命だったりして」

カナコはそれを母親から聞いたらしかった。マユミはカナコの母親が作ったスイートポテトの限りない甘さを思い出してニヤニヤと部屋で一人微笑した。

マユミは当然ミシモと連絡を取ると、ついでにアヤにも連絡を取り、カナコは中学まで一緒だったホノカと連絡を取り、皆が初めて喪服を卸すことになることを確認し、この日のプチ同窓会は実現したのである。

「じゃあ、中生」席に着くなりミシモが注文した。

「私も」マユミが続く。二人にとっては少し前までの日常的な行動であった。

「いいのかな?一応しんみりしないといけないんじゃ」

ミシモとマユミが、とりあえずビール、を注文した所でアヤが、冗談めいて口を出した。この五人には、喪服を着ているとはいえ、しんみりする、などという感情は芽生えていない。ピアノの演奏会前日のような、死者に対し不敬であるとわかっているものの、それこそ久しぶりに会うであろう同窓生達との面通しのことを思うと、少なくともマユミはウキウキした気分ですらある。

「明日になりゃ自然にそうなんだからさ、弔い酒よ弔い酒」

カナコがアヤに言い、ミシモとマユミに続いた。

「じゃあ私は色々と考慮した結果、アイスティで」

「おい、色々考えるなよ」

時計回りに巡る注文の順番を無視し、あまつさえホノカはビールの連鎖の流れを切りアイスティを注文したところで、カナコがツッコミをいれた。

「じゃ、じゃあ私は」

アヤが所在なさげに注文しようとしたところで、

「ふむ、ビール、ビール、ビール、アイスティ、ときて、ここまではわかるよ。ここまではわかる。ビール、ビール、ビールときたところにホノカがアイスティ。わかる。わかるよ。では、果たして最後の注文者であるアヤっぺは何を注文しようと云うのかね?何を、注文しようと云うのかね?」

マユミがいやらしい顔をしてアヤの顔をじろりとねめつける。

「うっ」

アヤが、何か突飛なものを注文しないといけない雰囲気、を感じたところで、

「ああ!懐かしい!そう云えばアヤっぺって呼んでた!うん!」アヤの突飛な注文のタイミングを切り裂いて、ホノカがさも懐かしげに感慨深く、しかしながら店内に響くような大きな声で言った。

「うるさい!あんたが時計回りを無視したからこんなことになってんのよ!大体なんで私が“じゃあ私はお子様セットを”なんて注文しなきゃいけないのよ!ていうかマユミ!わかるよって何よ!何がわかるっていうのよ!思い出した!あんた子供の頃から誰かを貶めるのが好きだったわ!」即興劇の見せ場を横取りされ、立つ瀬がなくなったアヤはのべつまくなしにがなり立てた。

「ああ、そうそう。マユミってそんな子だったね。でも決して自分は晒されないというか、ね」アヤの口調に反してホノカがのんびりと応える。

「そんな風に言われると凄く気分悪いんですけど」マユミがそう答えるとアヤ以外の四人が、ミシモとマユミは店員の存在を視野に入れながら、わいわいがやがやと喋くり始めた。

置いてけぼりのアヤと店員。店員が少しムっとした口調で、

「お子様セットは十二歳以上のお客様はご注文出来ませんが」

早く決めろ、と、言わんばかりに言った。

待ってましたとばかりにミシモとマユミが目を合わし、

「あらあら、恥ずかしいねぇ」と、ミシモ。

「なにやら無茶を言うお子様がいるみたいよ」

「なるほど、久しぶりに会った小学校の同級生だから、気分も小学生時代に戻ったんじゃないかしら」

「ああ、ノスタルジックって云うやつね」

「ノスタルジーに浸るなんてそんな、あの人一体何様かしら?」

「何様って…ひょっとして、お子様?」

「くくくく」

二人のひそひそ話にカナコとホノカがくすりと笑う。アヤは呆れたように、静かにビールを注文した。