アノマニスからの脱却(4)
「吐きだす」
レイがそう答えると、オヤジは呪われた呪文を唱えるように、小さくそうつぶやいた。そして立ち上がると、スタスタと一直線にレイの前まで来て、なんじゃろほい、と思ってたレイの顔面に一発踏みつけるよう足の裏を叩きこんだ。
レイはただ無様にそれを食らったわけじゃない。迫り来る足の裏に合わせうまいことスウェーバックした。だから、当たりはしたけどダメージはなかった。さらに、レイはその勢いでくるりと後転し、立ち上がった。だが、それだけだ。「いきなりなんですか」の一言もなく、やり場ないよう立ち尽くした。
そんなレイを、オヤジは憎々しげに一瞥してさ、舌打ちをしたもんだよ。口の中が地獄とつながってんじゃないかと思われるほどの、心底憎々しげな舌打ちだった。
それからオヤジは部屋を出ていったもんだから、レイは立ち尽くし続けるしかないよね。情けなくも、あの軽い接触で、レイのヤワな鼻の粘膜が傷つき、鼻血がでた。レイは立ち尽くしながら、何度も何度も鼻をすすったよ。
現実から逃避したいんだろう、「この感じ、うまいこと鼻にティッシュ詰められたら、いい感じの鼻血の親玉取れるな」なんて思ったりしてね。鼻血の親玉ってのは鼻血が止まったころに鼻の奥から採取できる、鼻水と血が混ざってところてん状になった物体のことだよ。うまいことティッシュを詰めれば、それはティッシュの先にくっついて引っこ抜くことができる。ドロッとしててね。ちょっとしたミミズみたいなやつだよ。それが取れるころには大体鼻血は止まってるから、レイはその鼻水と血のところてんのことを鼻血の親玉と呼んでるんだ。ま、そんなことはどうでもいいんだけどさ。
それから少し経ったら、オヤジが戻ってきた。後ろにふたりの男女を連れて。すなわち、佐井九と神見。
神見はひどくうなだれていた。まるで何日間か監禁されていたような、その心や幽し、みたいな状態だった。
その神見の姿を見て、レイは自分がなにをすべきかようやく決めた。
ちなみに佐井九の姿を見て、何かいろいろとつながったような気がした。
レイは先手必勝とばかりに、今まで後手後手に回っていた男とは思えない瞬発力で、オヤジが何か口にする前に、ふたりとならぶ神見をこっち側に持ってこようと、神見の手をひくオヤジに飛びかかった。その意気やよし。その意気やよし。その意気やよし、だったんだけどもさ、
強えのな、オヤジ。
計算よりも、なんてこた言わないよ。すでにレイは何か計算して行動するなんてできる状態じゃなかったからさ。
強えんだ。あのオヤジ。
猫科の猛獣カラカルのごとく、レイはオヤジに、ジャンプ一番文字通り飛びかかったんだけど、オヤジは冷静に掴んでいた神見の手を離すと、レイの四肢の動きを見極め、レイの正中線に入るようわずかに体を動かすと、飛んできたレイを受け止めた。微動だにしねえ、微動だにしねえんだオヤジ。まるで岩のように、レイの体当たりを受けても微動だにしねえ。
レイは、この身長160センチあるかないかの初老をとうに過ぎたこのオヤジに、なにもできなかったよ。手も足もでなかったね。しょうがないよ。レイは学生時代帰宅部一択の男で、誰かから踏んだり蹴られたりされたことはあっても、拳のひとつも振るったことないやつで、相手のオヤジは若いころ柔道でオリンピックを目指してたほどなんだからさ。
オヤジはレイのバンザイアタックを受け止めると、間をおかずに、ぱっこーん、とレイを投げた。足払い。もう、ぱっこーんいったからね。綺麗にぱっこーんいったよ。それくらったレイは両脚が浮いちゃって、横に浮いちゃって、きれいに揃って浮いちゃって、なんかひどくおかしい体勢になっちゃって、なっちゃって、体の横から受け身もとれずに落ちた。
落ちたあとにもオヤジは手を休めやしねえ。恐ろしいわこのオヤジ。うつ伏せになったレイを一瞬で仰向けにすると、袈裟固めだよ。出たよ。袈裟固め出た。重いんだ。体重60キロもないだろうこのオヤジの圧力すげえんだ。今度はレイが微動だにできなくなったよ。空いてる片手で反抗しようとしても、むなしく宙を引っ掻き回すだけだしさ、噛みついてやろうとしても、頭押し込まれてるからあごがひらきやしないよ。ぐうの音ひとつでやしねえ。でやしねえよ。
完璧に押さえ込まれたレイが次に見た光景は、馴染みのコンビニの店長が頭に触覚を付けている場面だった。なんだあれは。カチューシャを被ると、佐井九の目の前に垂れ下がった二本の触覚がピヨピヨ。おそらくアノマロカリスを模したもの。ピヨピヨピヨピヨ、バネ仕掛けでだらしなく動き回りやがる。ピヨピヨ。ピヨピヨ。ヒョコヒョコ。
神見はどうした。何をしている。そうは思っても、神見はレイの視界の外。当然、見えるポジションにさせてはくれない。
「吐き出させろ。かきだせ。悪い血はかきだせ」
そう静かに、しかし重く言うオヤジの声が、レイの体内を骨振動をもって聴こえた。
佐井九は、
「はい」
と、言った。
そして、少し間を置いて、
神見の悲痛な叫びが聴こえた。どうやら、神見は身動きとれないらしい。レイに助けを求める声や雌牛がいなないているような叫び声の合間にギシギシとなにやら縄がひしめく音がする。
次にレイが佐井九の姿を確認したとき、佐井九の下半身は露出されており、天を衝くほど巨大で愚鈍なるイチモツが確認できた。でかい。太い。黒い。でかい。太い。黒い。D・F・K。
そしたらさ、まあね。
レイプされてやんの。神見レイプされてやんの。コンビニの店長に。恋人の目の前で。身動きとれねえ恋人の前で。でっかいちんぽ無理矢理いれられて。悲鳴あげてさ。ねじ込まされて。ぶち込まれてさ。
かきだせ。かきだせって。オヤジ。人ならずの精虫をかきだせって。あのでかいマラなら、そりゃすべてをかきだすだろうさ。
袈裟固めに固められ、身動きとれないレイの心境たるやなかったよ。
抵抗しようとしてもどうにもならなくて、しまいには体から力が抜けてさ、死んだタコみたいに、地に伏せられてはいたけど、だらんとして。すべての情報を遮断しようと、人間が人間であるために体や精神はそれを選択したんだけど、どうしても、耳には神見の声が聴こえる。それが無機質に聴こえるようになっても、まだレイプは続いた。どんだけ遅漏なんだよってさ。
神見は何度レイに助けを求めたかしらない。しかし、レイにはどうすることもできなかった。
いつごろからだろう、気がつけばレイは耳だけじゃなく、それを見ていた。止むことない蛮行を目に入れていた。知らぬうちにオヤジが僅かづつレイのポジションをそれを目にする位置までいざなったのかもしれないが、レイはしらない。とにかく見ていた。不思議なことに、耳に入る情報と目からやってくる情報が、衛星放送中継のように一致しない。しかし、どちらも無機質だ。じっと、じっとレイはそれを見ていた。神見のかわいい性器に突き刺さるそれを見ていた。佐井九が神見の薄い唇をふさぐようなめるのを見ていた。ずっと、じっと見ていた。神見はレイを見られない。神見の顔は佐井九の手により真正面、すなわち、上方に向けられていたし、途中から、佐井九が神見に見つめられることに嫌気がさしたのか恐怖したのか、後背位に移ったし。
後背位に移ると、おっとごめんよとばかりに、調子にのった佐井九の愚鈍なるそれは二度三度、神見の違う口に入った。そのたびに神見は声にならぬ声を出して、全身を痙攣させたっけ。
佐井九は佐井九で、神見に特別な感情がある。だって、色々あったじゃん。ふたりの関係ってやつは。愛だの恋だのとは別のところでさ。ま、つきつまるところ破瓜の行方だよね。なにかと神聖視される処女ってやつが奪われてたってんだから、やりそうなことだよ佐井九ならさ。なんで神見が処女じゃないか知っているのかって?。オヤジが神見に神述べ継ぎをしようとしたときバレたんだよ。わかるだろ。力を分け与えるようとしたのさ。
レイはそのとき、死んだんだ。
長い地獄の時間が流れ、佐井九は果てた。中で。
そしたらさ、普通これで終わりだろってところなんだけど、今度はオヤジが、「バカヤロー」って佐井九を一喝してね。それじゃあ意味がないだろってんで、袈裟固めを解くと、ズボンをガチャガチャおろしはじめやがってさ。オヤジのイチモツは痩せたキュウリみたいにひょろ長くて、それをでろでろになった神見に突き刺したんだから、もう何も言えないよ。そのひょろ長いやつじゃあ佐井九の精虫をかきだせるかは疑問なのに、オヤジは必死で我が娘をほじくり返しちゃって、さ。鬼畜ってやつだよ。
レイには汗だくの、もはや牛丼汗だくの佐井九がオヤジに代わって覆い被さってきて、下半身あのままだからそれはもう、普通なら身の毛がよだってしょうがない事態なんだけど、レイにそんな身の毛をよだらせる余裕はなくてさ。じっと無機質にだらんとしていたよ。
しかし、神見の方はだんだんと変化があったようで、オヤジのひと突きひと突きに、声にならぬ悲鳴から、どこか歓喜を帯びるそれにいつしか変化しているようだった。その変化に、レイは後々、いま思うと、って形で知るんだけどね。だいたいさ、レイはそのとき気がつくべきだったんだよ。オヤジが果てたその直後、神見はぎゅっとオヤジを脚で絡め、抜かさずにさ、再戦を促したんだから。とろんとした甘い目してさ。いや、当時から気がついていたのかもしれない。それを認めたくなかっただけでさ。
ようやくことが終わった淫臭立ち込める道場で、レイはボロ雑巾にされたよ。まだまだ若いねこのオヤジは。二回終わってさらにこれだから。ああ、神見は佐井九にどっか連れられてった。
「二度とちょっかい出すんじゃねえぞ」
なんてお決まりの文句言われてさ。
「もはやそんな気も起きや“しなくなる”だろうがな」
なんて含みのある意味深なこと言われてさ。
身も心もボロボロにされて叩き出されたレイは、家に帰ったんだよ。なんてったってホームだよ。行き着く先ってやつはなんだかんだホームだよ。とりあえず、神見の命が奪われる心配もなさそうだしさ。あたりはもう夕焼けに近かったよ。朝早くからまあ、どんだけ長かったんだよ。
脚を引きずりながら家に帰ってみれば、消し炭しか残ってなくて。
ああ、こりゃ放火だ、とレイは薄笑いさえ浮かべてそう思ってさ。やることなすことえげつないねあいつらは、なんてさ。
近所のおばちゃんが、まだ帰ってきてはいないはずの家族の運ばれた病院先なんかを、通夜のときみたいな顔して教えてくれてね。
「大丈夫?」
なんてことも言うからさ。レイは、
「大丈夫です」
って答えて、その場をあとにした。
それからレイの姿を見たものはいないって感じで第一部完。
続
レイがそう答えると、オヤジは呪われた呪文を唱えるように、小さくそうつぶやいた。そして立ち上がると、スタスタと一直線にレイの前まで来て、なんじゃろほい、と思ってたレイの顔面に一発踏みつけるよう足の裏を叩きこんだ。
レイはただ無様にそれを食らったわけじゃない。迫り来る足の裏に合わせうまいことスウェーバックした。だから、当たりはしたけどダメージはなかった。さらに、レイはその勢いでくるりと後転し、立ち上がった。だが、それだけだ。「いきなりなんですか」の一言もなく、やり場ないよう立ち尽くした。
そんなレイを、オヤジは憎々しげに一瞥してさ、舌打ちをしたもんだよ。口の中が地獄とつながってんじゃないかと思われるほどの、心底憎々しげな舌打ちだった。
それからオヤジは部屋を出ていったもんだから、レイは立ち尽くし続けるしかないよね。情けなくも、あの軽い接触で、レイのヤワな鼻の粘膜が傷つき、鼻血がでた。レイは立ち尽くしながら、何度も何度も鼻をすすったよ。
現実から逃避したいんだろう、「この感じ、うまいこと鼻にティッシュ詰められたら、いい感じの鼻血の親玉取れるな」なんて思ったりしてね。鼻血の親玉ってのは鼻血が止まったころに鼻の奥から採取できる、鼻水と血が混ざってところてん状になった物体のことだよ。うまいことティッシュを詰めれば、それはティッシュの先にくっついて引っこ抜くことができる。ドロッとしててね。ちょっとしたミミズみたいなやつだよ。それが取れるころには大体鼻血は止まってるから、レイはその鼻水と血のところてんのことを鼻血の親玉と呼んでるんだ。ま、そんなことはどうでもいいんだけどさ。
それから少し経ったら、オヤジが戻ってきた。後ろにふたりの男女を連れて。すなわち、佐井九と神見。
神見はひどくうなだれていた。まるで何日間か監禁されていたような、その心や幽し、みたいな状態だった。
その神見の姿を見て、レイは自分がなにをすべきかようやく決めた。
ちなみに佐井九の姿を見て、何かいろいろとつながったような気がした。
レイは先手必勝とばかりに、今まで後手後手に回っていた男とは思えない瞬発力で、オヤジが何か口にする前に、ふたりとならぶ神見をこっち側に持ってこようと、神見の手をひくオヤジに飛びかかった。その意気やよし。その意気やよし。その意気やよし、だったんだけどもさ、
強えのな、オヤジ。
計算よりも、なんてこた言わないよ。すでにレイは何か計算して行動するなんてできる状態じゃなかったからさ。
強えんだ。あのオヤジ。
猫科の猛獣カラカルのごとく、レイはオヤジに、ジャンプ一番文字通り飛びかかったんだけど、オヤジは冷静に掴んでいた神見の手を離すと、レイの四肢の動きを見極め、レイの正中線に入るようわずかに体を動かすと、飛んできたレイを受け止めた。微動だにしねえ、微動だにしねえんだオヤジ。まるで岩のように、レイの体当たりを受けても微動だにしねえ。
レイは、この身長160センチあるかないかの初老をとうに過ぎたこのオヤジに、なにもできなかったよ。手も足もでなかったね。しょうがないよ。レイは学生時代帰宅部一択の男で、誰かから踏んだり蹴られたりされたことはあっても、拳のひとつも振るったことないやつで、相手のオヤジは若いころ柔道でオリンピックを目指してたほどなんだからさ。
オヤジはレイのバンザイアタックを受け止めると、間をおかずに、ぱっこーん、とレイを投げた。足払い。もう、ぱっこーんいったからね。綺麗にぱっこーんいったよ。それくらったレイは両脚が浮いちゃって、横に浮いちゃって、きれいに揃って浮いちゃって、なんかひどくおかしい体勢になっちゃって、なっちゃって、体の横から受け身もとれずに落ちた。
落ちたあとにもオヤジは手を休めやしねえ。恐ろしいわこのオヤジ。うつ伏せになったレイを一瞬で仰向けにすると、袈裟固めだよ。出たよ。袈裟固め出た。重いんだ。体重60キロもないだろうこのオヤジの圧力すげえんだ。今度はレイが微動だにできなくなったよ。空いてる片手で反抗しようとしても、むなしく宙を引っ掻き回すだけだしさ、噛みついてやろうとしても、頭押し込まれてるからあごがひらきやしないよ。ぐうの音ひとつでやしねえ。でやしねえよ。
完璧に押さえ込まれたレイが次に見た光景は、馴染みのコンビニの店長が頭に触覚を付けている場面だった。なんだあれは。カチューシャを被ると、佐井九の目の前に垂れ下がった二本の触覚がピヨピヨ。おそらくアノマロカリスを模したもの。ピヨピヨピヨピヨ、バネ仕掛けでだらしなく動き回りやがる。ピヨピヨ。ピヨピヨ。ヒョコヒョコ。
神見はどうした。何をしている。そうは思っても、神見はレイの視界の外。当然、見えるポジションにさせてはくれない。
「吐き出させろ。かきだせ。悪い血はかきだせ」
そう静かに、しかし重く言うオヤジの声が、レイの体内を骨振動をもって聴こえた。
佐井九は、
「はい」
と、言った。
そして、少し間を置いて、
神見の悲痛な叫びが聴こえた。どうやら、神見は身動きとれないらしい。レイに助けを求める声や雌牛がいなないているような叫び声の合間にギシギシとなにやら縄がひしめく音がする。
次にレイが佐井九の姿を確認したとき、佐井九の下半身は露出されており、天を衝くほど巨大で愚鈍なるイチモツが確認できた。でかい。太い。黒い。でかい。太い。黒い。D・F・K。
そしたらさ、まあね。
レイプされてやんの。神見レイプされてやんの。コンビニの店長に。恋人の目の前で。身動きとれねえ恋人の前で。でっかいちんぽ無理矢理いれられて。悲鳴あげてさ。ねじ込まされて。ぶち込まれてさ。
かきだせ。かきだせって。オヤジ。人ならずの精虫をかきだせって。あのでかいマラなら、そりゃすべてをかきだすだろうさ。
袈裟固めに固められ、身動きとれないレイの心境たるやなかったよ。
抵抗しようとしてもどうにもならなくて、しまいには体から力が抜けてさ、死んだタコみたいに、地に伏せられてはいたけど、だらんとして。すべての情報を遮断しようと、人間が人間であるために体や精神はそれを選択したんだけど、どうしても、耳には神見の声が聴こえる。それが無機質に聴こえるようになっても、まだレイプは続いた。どんだけ遅漏なんだよってさ。
神見は何度レイに助けを求めたかしらない。しかし、レイにはどうすることもできなかった。
いつごろからだろう、気がつけばレイは耳だけじゃなく、それを見ていた。止むことない蛮行を目に入れていた。知らぬうちにオヤジが僅かづつレイのポジションをそれを目にする位置までいざなったのかもしれないが、レイはしらない。とにかく見ていた。不思議なことに、耳に入る情報と目からやってくる情報が、衛星放送中継のように一致しない。しかし、どちらも無機質だ。じっと、じっとレイはそれを見ていた。神見のかわいい性器に突き刺さるそれを見ていた。佐井九が神見の薄い唇をふさぐようなめるのを見ていた。ずっと、じっと見ていた。神見はレイを見られない。神見の顔は佐井九の手により真正面、すなわち、上方に向けられていたし、途中から、佐井九が神見に見つめられることに嫌気がさしたのか恐怖したのか、後背位に移ったし。
後背位に移ると、おっとごめんよとばかりに、調子にのった佐井九の愚鈍なるそれは二度三度、神見の違う口に入った。そのたびに神見は声にならぬ声を出して、全身を痙攣させたっけ。
佐井九は佐井九で、神見に特別な感情がある。だって、色々あったじゃん。ふたりの関係ってやつは。愛だの恋だのとは別のところでさ。ま、つきつまるところ破瓜の行方だよね。なにかと神聖視される処女ってやつが奪われてたってんだから、やりそうなことだよ佐井九ならさ。なんで神見が処女じゃないか知っているのかって?。オヤジが神見に神述べ継ぎをしようとしたときバレたんだよ。わかるだろ。力を分け与えるようとしたのさ。
レイはそのとき、死んだんだ。
長い地獄の時間が流れ、佐井九は果てた。中で。
そしたらさ、普通これで終わりだろってところなんだけど、今度はオヤジが、「バカヤロー」って佐井九を一喝してね。それじゃあ意味がないだろってんで、袈裟固めを解くと、ズボンをガチャガチャおろしはじめやがってさ。オヤジのイチモツは痩せたキュウリみたいにひょろ長くて、それをでろでろになった神見に突き刺したんだから、もう何も言えないよ。そのひょろ長いやつじゃあ佐井九の精虫をかきだせるかは疑問なのに、オヤジは必死で我が娘をほじくり返しちゃって、さ。鬼畜ってやつだよ。
レイには汗だくの、もはや牛丼汗だくの佐井九がオヤジに代わって覆い被さってきて、下半身あのままだからそれはもう、普通なら身の毛がよだってしょうがない事態なんだけど、レイにそんな身の毛をよだらせる余裕はなくてさ。じっと無機質にだらんとしていたよ。
しかし、神見の方はだんだんと変化があったようで、オヤジのひと突きひと突きに、声にならぬ悲鳴から、どこか歓喜を帯びるそれにいつしか変化しているようだった。その変化に、レイは後々、いま思うと、って形で知るんだけどね。だいたいさ、レイはそのとき気がつくべきだったんだよ。オヤジが果てたその直後、神見はぎゅっとオヤジを脚で絡め、抜かさずにさ、再戦を促したんだから。とろんとした甘い目してさ。いや、当時から気がついていたのかもしれない。それを認めたくなかっただけでさ。
ようやくことが終わった淫臭立ち込める道場で、レイはボロ雑巾にされたよ。まだまだ若いねこのオヤジは。二回終わってさらにこれだから。ああ、神見は佐井九にどっか連れられてった。
「二度とちょっかい出すんじゃねえぞ」
なんてお決まりの文句言われてさ。
「もはやそんな気も起きや“しなくなる”だろうがな」
なんて含みのある意味深なこと言われてさ。
身も心もボロボロにされて叩き出されたレイは、家に帰ったんだよ。なんてったってホームだよ。行き着く先ってやつはなんだかんだホームだよ。とりあえず、神見の命が奪われる心配もなさそうだしさ。あたりはもう夕焼けに近かったよ。朝早くからまあ、どんだけ長かったんだよ。
脚を引きずりながら家に帰ってみれば、消し炭しか残ってなくて。
ああ、こりゃ放火だ、とレイは薄笑いさえ浮かべてそう思ってさ。やることなすことえげつないねあいつらは、なんてさ。
近所のおばちゃんが、まだ帰ってきてはいないはずの家族の運ばれた病院先なんかを、通夜のときみたいな顔して教えてくれてね。
「大丈夫?」
なんてことも言うからさ。レイは、
「大丈夫です」
って答えて、その場をあとにした。
それからレイの姿を見たものはいないって感じで第一部完。
続