ちくはく | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

ちくはく

おれが通ってた小学校では半ズボン登校が強制されていたんだ。明確にルール化されたものではなく、あくまで暗黙の了解の範疇だったと思う。
半ズボン、といってもハーフパンツのことではないことは知っていような?。全然“半”じゃないでおなじみのあの半ズボン、ポケットが裾から出ちゃうでおなじみの、ホットパンツみたいな半ズボン。あの半ズボンって一体なんなの?。おれの記憶ではマイケル・ジョーダン率いるシカゴ・ブルズが流行する前まではみんなあの一分丈のズボンだった。おれが今はいてるボクサーパンツより丈が短い。なんなのあのズボン。みんなはいてた。しかもさ、おれっち東京の出だから、冬でもその半ズボンだった。冬でもだよ。いくら雪国ではないっつっても冬は寒いぜ?。寒風ふきすさむなかあの半ズボンだよ。今考えただけでも寒くなって小便ちびっちまうよ。思い返せばさ、冬のベリーショートズボンはきつかったな。そしてそのズボンってのはハミチンしないよう、するんだけど、太ももキツキツなんだよ。もうあかぎれの脚にキツキツの生地が当たるもんだから、かゆくてかゆくてしょうがない。でもって掻けば掻いたで血まみれだよ。
その半ズボンにより、おれの身に思い出したくないイヤな事件が起こった。
あれは冬の下校時、寒さでむき出しの脚はヒリヒリして、感覚がなくなりつつあった。ランドセルに体育袋をぶら下げて、おれはひとり帰宅路を歩いていた。別にいつもひとりさみしく帰っていたわけじゃないことを強く言っておきたい。
時刻は冬の短い逢魔が時にさしかかっていたかな。とぼとぼ歩いていると、左のふくらはぎにツンとした痛みが走った。おれは「なんだろう」と思った。足を見たが特になにも変化はみられず、おれはまた歩き出した。
ツン、またその痛みがおれを襲った。その痛みは激痛、というほどのものではなく、トゲが刺さっていてそのトゲに何かが触れた、というような、“気になる”程度の痛みだった。それもこれも寒さにやられかじかんだ脚の麻痺した痛覚が原因だった。
歩き出せばまたツンと痛みが走る。なんだろうと足を見たり探ったりしても別段変わった様子はない。乾燥した肌がピリピリしていることはよくあったから、それだと思い、おれは痛みに耐えながら家路を急ぐことにした。一歩歩くごとにツンツンツンツン、乾燥肌のせいにしては痛いなと思ったのだが、麻痺した痛覚はそれ以上の詮索を許さなかった。
あの角を曲がればもうすぐ家だ、というところで、おれはやっとツンツンの原因を発見した。
ランドセルから垂らした体育袋の先に、ちょうど歩くときに反動がついてふくらはぎに当たる位置に、針が出ていたのだ。画鋲だった。いじめではない。学校で体育袋は教室の外の、掲示板の下に置いていた。その日掲示物の張り替えをしたので、偶然画鋲がひとつ、おれの体育袋に滑り込みやがったのだ。ふくらはぎに小さな赤い点々ができたのを発見し、おれはそれにようやく気がついた。
歩くたびにふくらはぎに画鋲をツンツン刺していたのだ。これじゃあひとり画鋲デスマッチの有り様だ。それもこれもあの強制半ズボンのせいだ。
体調不良のときとかには長ズボンを穿くことが許されてたっけ。高学年になると女子はみな“普段から”長ズボン穿いててさ、ちょっとモヤモヤしたのはいい思い出。