宅配屋と喫茶店(7)
割当エリアに着くまで、車内では祐平に対し梨田主導のちょっとしたインタビューのような世間話がおこなわれた。当たり前だが、思考内容と違って、祐平は噛みついたりしない。仕事中の祐平はおせっかいといっても過言ではないほど、社交的だ。
「では、どうしてこの仕事を始められたんですか?」
「成り行きですよ。バイトしてたら社員にならないかと」
「はあ、ではどうしてこのバイトを?」
「ま、一人で出来て単純肉体労働で、そこそこ給料が良かったからですかね」
少しだけ、ジュディが書いたという配達員批評を皮肉ったつもりだ。
「はあ、まあ、そんなもんですよね。ちなみに高窪さんの簡単な自己紹介などをしていただけたら」
「自己紹介、ですか?」
なんでそんなことを言わなきゃならないんだと思ってはいるが、訊かれたら答えるんだろうなとも思った。
「まま、自己紹介といいますか履歴といいますか。ご出身はどちらで?」
梨田の導いた反応に気になったポイントをジュディが掘り下げる形なのかと祐平は察した。
「…台東区です」
まさかいまさら、先生と同じです、とは言えなかった。ましてや色々とややこしい。
「へえ、江戸っ子ですか。先生と同じだ」
「ちょっとあんた、全然違うよ」
(ほらきた。え?、全然違うとは?。)
「はい?」
ジュディの指摘に梨田のメモをとる手が止まった。
「あのね、このD区ってのは、特にこの川向こうは、あんた川向こうの意味わかる?」
祐平にはわかった。
「いえ、わかりません」
「川向こうってのは荒川越えたここいらのことなんだけど、今も治安は悪いと聞くけど昔はもっと悪くてねえ。タクシーの運ちゃんに行き先を告げると川向こうは勘弁してくださいと切願されて乗車拒否される、なんて今でいう都市伝説まであったくらいでさ。川向こうの暗がりに入ったら最後裸で出てくるなんて話もあってね。とにかく都内有数の犯罪多発地帯でさ。こんな歓楽街でもなんでもないところがだよ。東京のハーレムともいわれてるわ。そういやあたしが小学生の時にはスリの兄弟ってのもいたわね。兄弟の兄と同じクラスだったんだけど、まあタチが悪い。堂々と万引きやらスリをしてさ、捕まえたら捕まえたで今度は親が乗り込んできて大変ってな具合だったんだから」
こんなざっくばらんとでもいうか、ぶっきらぼうな話し方をする人物だとは、祐平はその著作からは見受けられなかった。といっても、一冊ぱらぱらとめくっただけの感想だが。おそらく自分と同じで育ちが悪いのだろう、さすが川向こう出身者だ、祐平は心の中でほくそ笑んだ。
しかしこのジュディ、会話しているあいだも助手席に座りしっかと前をみたままで微動だにしない。その様はまるでお地蔵さんのようだ。
「まああんたみたいな信州の山奥からでてきた人間には台東区もD区も東京の下町なのかもしれないけど、まったく違うのよ。まず人間が違うもの。浅草なんか由緒ある立派な下町なんだけど、ここいらは今の23区ができた時におまけで入れてもらった土地だからね。そんでもって東北の人とかまあ田舎の人とか、アジアの人が多く流入してできたというか押し込められてできた町だから。それこそ、あたしの知ってる人に浅草でへたやらかしてこっちに逃げてきたって人もいたんだから。ほら、道路もみてみなよ。川越えたら道が違うでしょ?。セキバクとしてしみったれた道でさ。都内の道じゃないでしょ。一通もあんまないしさ。あたしこっちで免許とって都内いったでしょ?大変だったんだから。カルチャーショックよカルチャーショック」
「なるほど」
「悪い土地なんだよ。風水的にも皇居からみて丑寅の方角でしょ?鬼門よ鬼門。悪いものがたまっちゃうの」
どうして女性はなにかにつけすぐに風水を持ち出すのだろうか。
「ねえ高窪さん」
「へ?あっ、はい。確かに治安悪いですねえ。人を見れば泥棒と思えと言いますが、地元の人から聞いたんですが、ここいらでは人を見たら拳銃を持ってると思え、らしいですからね」
それは祐平がいつか父親から聞いた話だった。
「拳銃ですか!?、そんなバカな」
「はは、まあそうなんですけど。でも発砲事件はよくありますよ」
「ええっ!?」
「そうねえ。あたしがここに住んでたころは、夜中によく拳銃の発砲音が聴こえたわね」
「そんな、か、カンシャク玉かなんかじゃないんですか!?」
「さあ、あたし拳銃には詳しくないから。でも、あたしむかーし駅前の植え込みで油紙に包まれた拳銃拾ったことあるわよ。あ、コロッケだ、って思ったらテッポウだったという」
「ええ!?ほんとですか先生!?」
そう言うと、梨田はそれをメモにとった。
「コロッケだと思ったら、ですね」
「ええ」
(ていうか、コロッケだ、っておかしくないかふたりよ。)
「すぐに“目の前の”交番に届けたけど」
この辺りで祐平にはある疑問がうまれた。梨田のことである。年相応の物腰というものがあるが、ジュディと梨田の会話を聞いていると、梨田は自分が思っているよりずっと若いのではないかということだ。しかし、ルームミラーギリギリにエンカウントしてくるこのあたかも人を2、3人めんつゆで煮しめて食ったかのような若さのない梨田の油顔、風貌。祐平は自身の五感と六感の狭間で揺れた。
「あのときはそうよ、あんたのお母さんと一緒だったよ。今度きいてみな」
(ははあん。ふたりの間柄はだいたい読めたぞ。)
「でも、そんな話はとうの昔の話なんですよね?」
(見た目よりずっと若い声なんだよな。)
「どうせあたしの話はあんたが生まれる前の話ばかりだよ」
(若い。梨田思ったより若いなやっぱり。)
「し、しかし怖いですねえ、東京は」
「だからね、ここいらは東京でも日本でもなく、異国と思ったほうがいいわ。租界ね租界」
「租界、ですか。あるんですか現代日本に」
(さすがにそんなこたないよ梨田くん。うーむ、どうやらジュディは梨田をからかっているみたいだな。必要以上に畏怖させてなにか楽しんでいるようだ。空気読んだ。おれ空気読んだ。ここはそれに乗るべき、か。その前に確認だ。)
「梨田さんってD区にきたことないんですか?」
「あ、はい。はじめてです。東京に来たばかりなもので」
(ナイスおまけコメントだ梨田。梨田、ナイスですねえ。というか年下の可能性すらあるな梨田。)
「ま、東京の外れですからねえ」
「ああ、高窪さん。この梨田はこう見えてピチピチの22歳でしてよ。あたしの親戚なんですけど、子供のころからふけ顔で」
「あ、ああ、確かに、悪いですけど年上かと思ってましたよ」
(梨田てめえ。損した気分だよ。新卒かお前。フレッシュさがまるで感じられねえよ。ていうか、完全に縁故入社だよなお前。)
「すいません。はた迷惑な顔で」
「いえいえ」
「ねえ、きっと食べてたイナゴの中に苦虫が混ざってたんだわ」
一笑のあとの沈黙。会話のバネが伸びきった瞬間。
(…………よし、一息ついた。からかい開始だ。もっと恐がらせてやる。協力してやろうじゃないか。)
「あ、そういえば、租界といえばと言いますか、なんでもどっかで強盗殺人をした奴が今D区に潜伏しながら連続放火してるって噂、というか捜査情報ってやつがありますよ」
「ええ!?」
「まあまあ、そう言う話もいいですけど、梨田くん、あんたも仕事をなさいな」
「は、はい!」
(うわっ、からかう方向失敗した。ジュディからかってなかった。空気読んだと思ったのに。方向修正された。怖っ。そういやこの人あの山下ジュディなんだよな。地元の話で盛り上がってそのこと忘れてた。)
「すいません。ではえっと、ええ」
「もう、とろいねえ。高窪さん」
「はい」
「この仕事をしていて良かったことやうれしい瞬間ってなにかしら?」
(お前が訊くならはじめから梨田任せにすんな。)
「お客様から」
「とその前に」
(は!?。自由気ままかお前は。)
「高窪さんはわたしがあなたたち宅配員にしたコメントを知ってるかしら?。ちょっと問題になっちゃったやつなんですけど」
「ああ、あの、猿以下ってやつですか?。はは。僕は最近知りました」
(ここできたかそれ。)
祐平の背に冷たいものが走る。だが、
「そうですか。では、あらためて、この仕事をしていてうれしい時とは?」
(はあ!?なにそのタイミング!?なにその挿入のしかた!?。感想がそうですかだけだし。作家なんて人種にしおらしさなんて期待しちゃいねえが、それについてどう思うかもききゃしねえし。なんなんだ。駄目だこいつ。梨田以下のインタビュー能力だ。てめえみたいなやつは家に帰ってしこってろバカヤロー。しこってろって。おばさんにしこってろっておれ。)
「えっと、そ、そうですね、お客様からゲンナマをいただいた時ですかね」
「え?現金、をいただく?」
(しまった。ジュディのめちゃくちゃなインタビューにつられて話のオチを最初に言ってしまった。)
「え、ええ。お客様からよく物をもらうんですが、たとえばこの時期なら大量にみかんが届いてその処理に困っている、という感じでですね。たとえあまりものでも嬉しいものですよ。でも直接現金を渡された時はうれしさを通り越して困惑してしまいましたね。千円だったんですが、はは」
「へえ、…梨田くん!」
「…はい!」
(なに!?どうかした!?。ていうか今、ミラー越し確認だが、梨田こいつ寝てなかったか?、あのわずかな合間に落ちたの!?。しかもちょっと怒られ叱られしたあとじゃん。赤ちゃんかよ。どうしようもねえな。隙、隙をついて寝るのが好き、なんつって。)
「梨田くん、あたしたちもなにかもらえるといいねえ」
「あ、はい」
(………なんだそりゃあ!!。なんなんだこいつは!?。あ、はいって梨田。あ、はいって梨田。安心したか。応えられて安心したか梨田。)
「たとえば他に何をもらいました?」
梨田が話題を掘り下げにかかった。何かおもしろい“当たり”でも埋まっていないか、すべてはジュディにリアリティのあるいい本を書いてもらうためだ。
「そうですねえ、たとえば今から行くところの」
「梨田くん!」
「はい!」
(今度はなんだよ。)
「それを先に聞いてしまったら、いざなにかもらったときに嬉しさが半減するのではなくて」
(そんなことかよ!。ていうかこいつ何しに来たわけ!?。)
「なるほど」
(なるほどじゃねえよ梨田!。お前が正しいよ!。)
「知らないからこその楽しみじゃないの」
「そうですね」
(お前が今からあと30分後に必ずもらうであろうものはただの小さなどこで売ってるかよくわからないエネルギードリンクなんだよ!。期待値上げんな!。がっかりされても困るんだよ!。)
「どうする?、いきなり襲われたりしたら」
(どっからその発想出てきた!。真逆だろ!。真逆の発想だろそれ!。)
「た、高窪さんがいますから大丈夫ですよ。ですよねえ?」
(梨田、その役割はおれじゃなくてお前だろ。おれつきっきりにならないよ?。車止まったら離散と集合の繰り返しだよ?。ジャンパー着てないお前の役割だ…ろ……はっ、もしかしてこいつ、本気でここいらのこと租界だと思ってて、自分の戦闘力を鑑みた結果おれに助けを…考え過ぎか。)
「はは、まあ宅配員が理由もなく襲われたって話はさすがにきかないですねえ」
「ところで高窪さん」
(ジュディはきまぐれだねえ。)
「はい」
「ちょっと、車を停めてくださらないかしら」
「え?。もうすぐ最初の場所に着きますが」
続
「では、どうしてこの仕事を始められたんですか?」
「成り行きですよ。バイトしてたら社員にならないかと」
「はあ、ではどうしてこのバイトを?」
「ま、一人で出来て単純肉体労働で、そこそこ給料が良かったからですかね」
少しだけ、ジュディが書いたという配達員批評を皮肉ったつもりだ。
「はあ、まあ、そんなもんですよね。ちなみに高窪さんの簡単な自己紹介などをしていただけたら」
「自己紹介、ですか?」
なんでそんなことを言わなきゃならないんだと思ってはいるが、訊かれたら答えるんだろうなとも思った。
「まま、自己紹介といいますか履歴といいますか。ご出身はどちらで?」
梨田の導いた反応に気になったポイントをジュディが掘り下げる形なのかと祐平は察した。
「…台東区です」
まさかいまさら、先生と同じです、とは言えなかった。ましてや色々とややこしい。
「へえ、江戸っ子ですか。先生と同じだ」
「ちょっとあんた、全然違うよ」
(ほらきた。え?、全然違うとは?。)
「はい?」
ジュディの指摘に梨田のメモをとる手が止まった。
「あのね、このD区ってのは、特にこの川向こうは、あんた川向こうの意味わかる?」
祐平にはわかった。
「いえ、わかりません」
「川向こうってのは荒川越えたここいらのことなんだけど、今も治安は悪いと聞くけど昔はもっと悪くてねえ。タクシーの運ちゃんに行き先を告げると川向こうは勘弁してくださいと切願されて乗車拒否される、なんて今でいう都市伝説まであったくらいでさ。川向こうの暗がりに入ったら最後裸で出てくるなんて話もあってね。とにかく都内有数の犯罪多発地帯でさ。こんな歓楽街でもなんでもないところがだよ。東京のハーレムともいわれてるわ。そういやあたしが小学生の時にはスリの兄弟ってのもいたわね。兄弟の兄と同じクラスだったんだけど、まあタチが悪い。堂々と万引きやらスリをしてさ、捕まえたら捕まえたで今度は親が乗り込んできて大変ってな具合だったんだから」
こんなざっくばらんとでもいうか、ぶっきらぼうな話し方をする人物だとは、祐平はその著作からは見受けられなかった。といっても、一冊ぱらぱらとめくっただけの感想だが。おそらく自分と同じで育ちが悪いのだろう、さすが川向こう出身者だ、祐平は心の中でほくそ笑んだ。
しかしこのジュディ、会話しているあいだも助手席に座りしっかと前をみたままで微動だにしない。その様はまるでお地蔵さんのようだ。
「まああんたみたいな信州の山奥からでてきた人間には台東区もD区も東京の下町なのかもしれないけど、まったく違うのよ。まず人間が違うもの。浅草なんか由緒ある立派な下町なんだけど、ここいらは今の23区ができた時におまけで入れてもらった土地だからね。そんでもって東北の人とかまあ田舎の人とか、アジアの人が多く流入してできたというか押し込められてできた町だから。それこそ、あたしの知ってる人に浅草でへたやらかしてこっちに逃げてきたって人もいたんだから。ほら、道路もみてみなよ。川越えたら道が違うでしょ?。セキバクとしてしみったれた道でさ。都内の道じゃないでしょ。一通もあんまないしさ。あたしこっちで免許とって都内いったでしょ?大変だったんだから。カルチャーショックよカルチャーショック」
「なるほど」
「悪い土地なんだよ。風水的にも皇居からみて丑寅の方角でしょ?鬼門よ鬼門。悪いものがたまっちゃうの」
どうして女性はなにかにつけすぐに風水を持ち出すのだろうか。
「ねえ高窪さん」
「へ?あっ、はい。確かに治安悪いですねえ。人を見れば泥棒と思えと言いますが、地元の人から聞いたんですが、ここいらでは人を見たら拳銃を持ってると思え、らしいですからね」
それは祐平がいつか父親から聞いた話だった。
「拳銃ですか!?、そんなバカな」
「はは、まあそうなんですけど。でも発砲事件はよくありますよ」
「ええっ!?」
「そうねえ。あたしがここに住んでたころは、夜中によく拳銃の発砲音が聴こえたわね」
「そんな、か、カンシャク玉かなんかじゃないんですか!?」
「さあ、あたし拳銃には詳しくないから。でも、あたしむかーし駅前の植え込みで油紙に包まれた拳銃拾ったことあるわよ。あ、コロッケだ、って思ったらテッポウだったという」
「ええ!?ほんとですか先生!?」
そう言うと、梨田はそれをメモにとった。
「コロッケだと思ったら、ですね」
「ええ」
(ていうか、コロッケだ、っておかしくないかふたりよ。)
「すぐに“目の前の”交番に届けたけど」
この辺りで祐平にはある疑問がうまれた。梨田のことである。年相応の物腰というものがあるが、ジュディと梨田の会話を聞いていると、梨田は自分が思っているよりずっと若いのではないかということだ。しかし、ルームミラーギリギリにエンカウントしてくるこのあたかも人を2、3人めんつゆで煮しめて食ったかのような若さのない梨田の油顔、風貌。祐平は自身の五感と六感の狭間で揺れた。
「あのときはそうよ、あんたのお母さんと一緒だったよ。今度きいてみな」
(ははあん。ふたりの間柄はだいたい読めたぞ。)
「でも、そんな話はとうの昔の話なんですよね?」
(見た目よりずっと若い声なんだよな。)
「どうせあたしの話はあんたが生まれる前の話ばかりだよ」
(若い。梨田思ったより若いなやっぱり。)
「し、しかし怖いですねえ、東京は」
「だからね、ここいらは東京でも日本でもなく、異国と思ったほうがいいわ。租界ね租界」
「租界、ですか。あるんですか現代日本に」
(さすがにそんなこたないよ梨田くん。うーむ、どうやらジュディは梨田をからかっているみたいだな。必要以上に畏怖させてなにか楽しんでいるようだ。空気読んだ。おれ空気読んだ。ここはそれに乗るべき、か。その前に確認だ。)
「梨田さんってD区にきたことないんですか?」
「あ、はい。はじめてです。東京に来たばかりなもので」
(ナイスおまけコメントだ梨田。梨田、ナイスですねえ。というか年下の可能性すらあるな梨田。)
「ま、東京の外れですからねえ」
「ああ、高窪さん。この梨田はこう見えてピチピチの22歳でしてよ。あたしの親戚なんですけど、子供のころからふけ顔で」
「あ、ああ、確かに、悪いですけど年上かと思ってましたよ」
(梨田てめえ。損した気分だよ。新卒かお前。フレッシュさがまるで感じられねえよ。ていうか、完全に縁故入社だよなお前。)
「すいません。はた迷惑な顔で」
「いえいえ」
「ねえ、きっと食べてたイナゴの中に苦虫が混ざってたんだわ」
一笑のあとの沈黙。会話のバネが伸びきった瞬間。
(…………よし、一息ついた。からかい開始だ。もっと恐がらせてやる。協力してやろうじゃないか。)
「あ、そういえば、租界といえばと言いますか、なんでもどっかで強盗殺人をした奴が今D区に潜伏しながら連続放火してるって噂、というか捜査情報ってやつがありますよ」
「ええ!?」
「まあまあ、そう言う話もいいですけど、梨田くん、あんたも仕事をなさいな」
「は、はい!」
(うわっ、からかう方向失敗した。ジュディからかってなかった。空気読んだと思ったのに。方向修正された。怖っ。そういやこの人あの山下ジュディなんだよな。地元の話で盛り上がってそのこと忘れてた。)
「すいません。ではえっと、ええ」
「もう、とろいねえ。高窪さん」
「はい」
「この仕事をしていて良かったことやうれしい瞬間ってなにかしら?」
(お前が訊くならはじめから梨田任せにすんな。)
「お客様から」
「とその前に」
(は!?。自由気ままかお前は。)
「高窪さんはわたしがあなたたち宅配員にしたコメントを知ってるかしら?。ちょっと問題になっちゃったやつなんですけど」
「ああ、あの、猿以下ってやつですか?。はは。僕は最近知りました」
(ここできたかそれ。)
祐平の背に冷たいものが走る。だが、
「そうですか。では、あらためて、この仕事をしていてうれしい時とは?」
(はあ!?なにそのタイミング!?なにその挿入のしかた!?。感想がそうですかだけだし。作家なんて人種にしおらしさなんて期待しちゃいねえが、それについてどう思うかもききゃしねえし。なんなんだ。駄目だこいつ。梨田以下のインタビュー能力だ。てめえみたいなやつは家に帰ってしこってろバカヤロー。しこってろって。おばさんにしこってろっておれ。)
「えっと、そ、そうですね、お客様からゲンナマをいただいた時ですかね」
「え?現金、をいただく?」
(しまった。ジュディのめちゃくちゃなインタビューにつられて話のオチを最初に言ってしまった。)
「え、ええ。お客様からよく物をもらうんですが、たとえばこの時期なら大量にみかんが届いてその処理に困っている、という感じでですね。たとえあまりものでも嬉しいものですよ。でも直接現金を渡された時はうれしさを通り越して困惑してしまいましたね。千円だったんですが、はは」
「へえ、…梨田くん!」
「…はい!」
(なに!?どうかした!?。ていうか今、ミラー越し確認だが、梨田こいつ寝てなかったか?、あのわずかな合間に落ちたの!?。しかもちょっと怒られ叱られしたあとじゃん。赤ちゃんかよ。どうしようもねえな。隙、隙をついて寝るのが好き、なんつって。)
「梨田くん、あたしたちもなにかもらえるといいねえ」
「あ、はい」
(………なんだそりゃあ!!。なんなんだこいつは!?。あ、はいって梨田。あ、はいって梨田。安心したか。応えられて安心したか梨田。)
「たとえば他に何をもらいました?」
梨田が話題を掘り下げにかかった。何かおもしろい“当たり”でも埋まっていないか、すべてはジュディにリアリティのあるいい本を書いてもらうためだ。
「そうですねえ、たとえば今から行くところの」
「梨田くん!」
「はい!」
(今度はなんだよ。)
「それを先に聞いてしまったら、いざなにかもらったときに嬉しさが半減するのではなくて」
(そんなことかよ!。ていうかこいつ何しに来たわけ!?。)
「なるほど」
(なるほどじゃねえよ梨田!。お前が正しいよ!。)
「知らないからこその楽しみじゃないの」
「そうですね」
(お前が今からあと30分後に必ずもらうであろうものはただの小さなどこで売ってるかよくわからないエネルギードリンクなんだよ!。期待値上げんな!。がっかりされても困るんだよ!。)
「どうする?、いきなり襲われたりしたら」
(どっからその発想出てきた!。真逆だろ!。真逆の発想だろそれ!。)
「た、高窪さんがいますから大丈夫ですよ。ですよねえ?」
(梨田、その役割はおれじゃなくてお前だろ。おれつきっきりにならないよ?。車止まったら離散と集合の繰り返しだよ?。ジャンパー着てないお前の役割だ…ろ……はっ、もしかしてこいつ、本気でここいらのこと租界だと思ってて、自分の戦闘力を鑑みた結果おれに助けを…考え過ぎか。)
「はは、まあ宅配員が理由もなく襲われたって話はさすがにきかないですねえ」
「ところで高窪さん」
(ジュディはきまぐれだねえ。)
「はい」
「ちょっと、車を停めてくださらないかしら」
「え?。もうすぐ最初の場所に着きますが」
続