学校の七不思議たすいち
おれが通っていた小学校にも「学校の七不思議」は、某矢追とUFOのように標準装備されていた。おれが在校時に開校100周年祝いがあったそれなりに古い学校だったけど、それはそれはオリジナリティ無しのありきたりなやつらで、
トイレの花子さん
動く人体模型
音楽室のベートーベン
増える階段
あわせ鏡
テケテケ
赤マント青マント
と、いった至極ありきたりなものだった。トイレがふたつランクインしてるのが浅い。変えろ変えろ。通っている最中にさえもマイナーチェンジがあった気がするけど、基本はこんなんだった。というよりも、おれと友達が確かめた七不思議はこれらだった。
六年時の梅雨時期だったはず、おれと高橋君(本名)と浅田さん(仮名・女)とMさん(本名・女)本名!?仮名でいいだろ仮名でアルファベットだしよ!とまあ、この仲良くない男女で七不思議についてちょっとした口論になって、男対女の図になったんだ。彼女らはオカルト肯定派でおれ達は売り言葉に買い言葉、否定派にならざるをえなかった。
「そんなに言うなら確かめてみなさいよ、いくじなし」
生意気な浅田さんの言葉で、本当は怖かったけどおれ達は七不思議を検証することになった。実際に検証したことを証明するために、おれ達は証人を要求した。もちろん彼女らだ。おれ達がそれを要求した時の彼女らのおびえた顔は見ものだった。
夕方やエブリタイムOKの七不思議をサクサクとクリアし、もちろん何事もおこらず、残すは夜限定イベントのベートーベン、人体模型、テケテケ(おれ達の間では夜中だった)。夜中ということで、Mさんはどうしても家を抜けることが出来なかったから、Mさんのことはもう忘れていいです。おれ達三人は別々だったけど塾に通っていたから、塾帰りの夜中9時頃、校舎の裏門に集合した。
まあ詳しく書くのもあれなんでガキなりに色々と準備をしていたということに留めておく。とにかくおれ達は校舎に侵入することができ、暗い校舎はもはや否定派肯定派の区別なく体中ひきつって、呼吸さえままならぬほど怖かったけど、わけもなく笑ったりはしゃいだりして怖さを紛らわし、残りをクリアしていった。ただ理科準備室(?)だけはさすがに入れなかったが。
もういいだろ、という段になった時、守衛さんに見つかってダッシュで逃げた。守衛さんにしてみればおれ達が七不思議だったろう。夜中の校舎でうふふあははとはしゃぎまわる足音を聞いた時の心境など、想像したくもない。老いた守衛さんの心臓が止まらなくて良かった。
この一件で一応おれ達男側の判定勝ちみたいなことになったけど、検証に参加してなかったMさん(やっぱり思い出してくださいすみません)が、そこはオカルト肯定派、やれタイミングが悪いだの、一人じゃないからねだの、指定時刻を厳守しろ(当時ガキは携帯電話なぞ持ってない)だの。結局うやむやになった。それから何事もなく、侵入したのがおれ達だということがバレていたのかいなかったのかしらんが、先生や親に怒られることもなく、時は流れ、一学期は終わり、夏休みが過ぎた。
夏休み明け、始業式が終わった次の日、一発目の授業前に緊急の全校集会が開かれた。大人なら緊急の全校集会が開かれるなんぞ、虫の知らせとまではいかないが、そんなもんイヤなニュースに決まってる。生徒達は緊急集会なんて初めてだったから、これから何が起こるのかわからずに教師達に先導されて体育館に集まった。ただ教師達がどこか粛々とした雰囲気だったのを覚えている。
ニュースは悲報で、ここで作り話的には老いた守衛さんが亡くなったことにすればいいのだが、その守衛さんは今も変わらず老いた守衛さんを続けていた。昨日たまたま見かけたんだから間違いない。
亡くなったのは図工の爺さん先生で、ま、その日は人生初めての黙祷をして終わった。
何日かのち、七不思議に一個付け加えられたのをMさんから言われた。マイナーチェンジではなく、たすいち。八個目。
「青い光の男の子」
が、それだった。
なんでも放課後、夕暮れ、誰もいない図工室に青いペンライトのようなものを光らせた男の子が現れる、らしい。現れるからなんなのだという話だが、話はそこまでで、いかにも尾ひれがつくまえの話だった。
それでも聞いちゃったからにはなんとなく怖いもんで、またただでさえ爺さん先生が幽霊となって出てきそうな爺さん先生と同じ匂いの、絵の具とおがくずの入り混じった匂いのする図工室。なるべくなら一人で近づきたくなかった。
だけどもまあ、なんたる間抜けなことに、おれは夏休みの宿題を二学期中にやる主義だったから、自由研究、自由工作の宿題をやってなかったんですな。提出期限が迫り、今日中になにか形のあるものを提出しないと担任が泣き出しそうだったので(おれがあまりに情けなくて、かな)、おれは居残り決定。最悪なことにその日はクラブ活動のある日で(塾が無い日)、クラブ活動終わりの学校は、まさしくもぬけの殻でありまして、おれはマイナークラブにクラスでただ一人所属してたから友達を引き留めることもできず、担任はおれを図工室に押しやると職員室に引っ込んで行った。夏の長い夕陽射す図工室で一人。しぃんとした図工室の中。そらあ恐ろしいなんてもんじゃなかった。今のおれなら恐ろしさのあまりとりあえずおなにーを始めるところだが、当時のおれはおなにーを知らない蒙古斑野郎だった。モンゴルマンだった。霊木を削って作ったマスクがないとすぐにおなにーを始める超人だった。あれ?矛盾?…いかんいかん。あの時味わった恐怖を思い出して逃避してしまった。
とにかく怖くて怖くて、適当に板を組んで箱を作って面に絵を描く、というやっつけ仕事を早く終わらす、そのことに集中することにした。無心で作業をこなす。その間小さなおじさん達が華麗なパレードを舞い踊ったり、一人でトイレに行くのが怖くて水道場で小便したらちびまる子ちゃんみたいな格好をした暗い雰囲気の女の子に見られて恥ずかしい思いをしたり、下半身がないお姉さんがコモドオオトカゲみたく徘徊してたりしたけど、おれはちょうど箱の開閉部にとりつける、手作りの人間感知センサー付き開閉蝶番を…あれ?おれ天才かな?まあ神童も二十歳過ぎればただの人と、ってんなこたどうでもいいんだよ!箱作りに忙しくて小さいおじさんとかに気がつかなくてさってお前は何がしたかったかを思い出してレポート用紙10枚にまとめろ!
結論から先に述べると私はただ私が体験した怖い話を、って今じゃなくていいんだよ!
何事もなく箱作りは佳境に入り(何事もなかったのかよ)、あとは適当にポスターカラーで色付けをするだけになった時、おれは自身の作業スピードに満足し一服しようとタバコに火をつけたら、ニスやらなにやらつかったから、部屋中にシンナー的なガスが溜まってたんですな。大爆発です。爆発した博士みたいな姿になったおれは思ったね。
「なんだ。さっきのおじさん達も幻覚か」
ってね。うぜえ!
まあ、箱作りも佳境に入ると精神にも余裕がうまれて、おれは何か箱にくっつけるスワロフスキー的なものを探しに、後々その箱がデコ電として高く売れるようにってほんともう…。
図工室の奥にある教師しか入れない部屋(これも準備室と呼ぶか?)みたいなとこに忍び込んだんだ。でもなんも小道具はなくてさ。机の上に爺さん先生のものらしき筆記具とか作図用のインクとか筆とかがあって、また怖くなって図工室に戻ったらさ。いたんだ。
ああもうめんどくせー。戻ったら例の青い光の男の子がいてびっくりしたけど、よくみたらそいつMさんで、おれが軽くあしらったら、ゴーエイプしちゃって、片手にペンライト、片手に彫刻刀を持ったMさんに追いかけ回されたって話。
なんとかランドセルだけ取り、職員室まで逃げてやっと助かったかなって思ったら、担任も誰もいなくて、おれは家に逃げ帰ったんだ。次の日担任に「お前はどうしてそうなんだ」って泣かれたんだ。あの時いなかったくせに、おれが帰ったあともずっとおれを待ってたらしい。その晩おれは知らなかったけど家に確認の電話はあったらしい。一応、事の顛末を話したけど信じちゃくれなかったなぁ。Mさんはしれっとしててさ。憤りを感じたもんだよ。そんな人間が怖いって話。
ただ、怒られてる時に担任が例の箱を差し出してきたんだけど、おれが作ってる途中でやむなく図工室に放棄した箱が明らかに大人の手により仕上がっていたことが不思議だった。ヤスリがけとかばっちり。絵もやたら器用に描かれてて。蝶番とか適当につけたから蓋と辺の間に隙間があったはずなんだけど、それもなくなってて。嘘つくかどうか試されてんのかなって思ったけど、担任はそのこと一切スルーでさ。むしろ、出来をほめるんだよね。芝居がかってない調子でさ。話を聞いてるとなんか担任が見回りにきた時間(担任は音がしたから中を見ずにひっこんだ)とおれが実際に作業してた時間が食い違うしさ。あれはなんだったんだろうか。
箱は確か気味が悪くて、バラバラにして焼却炉に放り込んだんだけど、今思い返せばその箱、描かれていた絵には黒く縁取りされてたんだけど、あれはポスカっぽくなかった。そんな、箱を捨てといてよかったなぁって話。
トイレの花子さん
動く人体模型
音楽室のベートーベン
増える階段
あわせ鏡
テケテケ
赤マント青マント
と、いった至極ありきたりなものだった。トイレがふたつランクインしてるのが浅い。変えろ変えろ。通っている最中にさえもマイナーチェンジがあった気がするけど、基本はこんなんだった。というよりも、おれと友達が確かめた七不思議はこれらだった。
六年時の梅雨時期だったはず、おれと高橋君(本名)と浅田さん(仮名・女)とMさん(本名・女)本名!?仮名でいいだろ仮名でアルファベットだしよ!とまあ、この仲良くない男女で七不思議についてちょっとした口論になって、男対女の図になったんだ。彼女らはオカルト肯定派でおれ達は売り言葉に買い言葉、否定派にならざるをえなかった。
「そんなに言うなら確かめてみなさいよ、いくじなし」
生意気な浅田さんの言葉で、本当は怖かったけどおれ達は七不思議を検証することになった。実際に検証したことを証明するために、おれ達は証人を要求した。もちろん彼女らだ。おれ達がそれを要求した時の彼女らのおびえた顔は見ものだった。
夕方やエブリタイムOKの七不思議をサクサクとクリアし、もちろん何事もおこらず、残すは夜限定イベントのベートーベン、人体模型、テケテケ(おれ達の間では夜中だった)。夜中ということで、Mさんはどうしても家を抜けることが出来なかったから、Mさんのことはもう忘れていいです。おれ達三人は別々だったけど塾に通っていたから、塾帰りの夜中9時頃、校舎の裏門に集合した。
まあ詳しく書くのもあれなんでガキなりに色々と準備をしていたということに留めておく。とにかくおれ達は校舎に侵入することができ、暗い校舎はもはや否定派肯定派の区別なく体中ひきつって、呼吸さえままならぬほど怖かったけど、わけもなく笑ったりはしゃいだりして怖さを紛らわし、残りをクリアしていった。ただ理科準備室(?)だけはさすがに入れなかったが。
もういいだろ、という段になった時、守衛さんに見つかってダッシュで逃げた。守衛さんにしてみればおれ達が七不思議だったろう。夜中の校舎でうふふあははとはしゃぎまわる足音を聞いた時の心境など、想像したくもない。老いた守衛さんの心臓が止まらなくて良かった。
この一件で一応おれ達男側の判定勝ちみたいなことになったけど、検証に参加してなかったMさん(やっぱり思い出してくださいすみません)が、そこはオカルト肯定派、やれタイミングが悪いだの、一人じゃないからねだの、指定時刻を厳守しろ(当時ガキは携帯電話なぞ持ってない)だの。結局うやむやになった。それから何事もなく、侵入したのがおれ達だということがバレていたのかいなかったのかしらんが、先生や親に怒られることもなく、時は流れ、一学期は終わり、夏休みが過ぎた。
夏休み明け、始業式が終わった次の日、一発目の授業前に緊急の全校集会が開かれた。大人なら緊急の全校集会が開かれるなんぞ、虫の知らせとまではいかないが、そんなもんイヤなニュースに決まってる。生徒達は緊急集会なんて初めてだったから、これから何が起こるのかわからずに教師達に先導されて体育館に集まった。ただ教師達がどこか粛々とした雰囲気だったのを覚えている。
ニュースは悲報で、ここで作り話的には老いた守衛さんが亡くなったことにすればいいのだが、その守衛さんは今も変わらず老いた守衛さんを続けていた。昨日たまたま見かけたんだから間違いない。
亡くなったのは図工の爺さん先生で、ま、その日は人生初めての黙祷をして終わった。
何日かのち、七不思議に一個付け加えられたのをMさんから言われた。マイナーチェンジではなく、たすいち。八個目。
「青い光の男の子」
が、それだった。
なんでも放課後、夕暮れ、誰もいない図工室に青いペンライトのようなものを光らせた男の子が現れる、らしい。現れるからなんなのだという話だが、話はそこまでで、いかにも尾ひれがつくまえの話だった。
それでも聞いちゃったからにはなんとなく怖いもんで、またただでさえ爺さん先生が幽霊となって出てきそうな爺さん先生と同じ匂いの、絵の具とおがくずの入り混じった匂いのする図工室。なるべくなら一人で近づきたくなかった。
だけどもまあ、なんたる間抜けなことに、おれは夏休みの宿題を二学期中にやる主義だったから、自由研究、自由工作の宿題をやってなかったんですな。提出期限が迫り、今日中になにか形のあるものを提出しないと担任が泣き出しそうだったので(おれがあまりに情けなくて、かな)、おれは居残り決定。最悪なことにその日はクラブ活動のある日で(塾が無い日)、クラブ活動終わりの学校は、まさしくもぬけの殻でありまして、おれはマイナークラブにクラスでただ一人所属してたから友達を引き留めることもできず、担任はおれを図工室に押しやると職員室に引っ込んで行った。夏の長い夕陽射す図工室で一人。しぃんとした図工室の中。そらあ恐ろしいなんてもんじゃなかった。今のおれなら恐ろしさのあまりとりあえずおなにーを始めるところだが、当時のおれはおなにーを知らない蒙古斑野郎だった。モンゴルマンだった。霊木を削って作ったマスクがないとすぐにおなにーを始める超人だった。あれ?矛盾?…いかんいかん。あの時味わった恐怖を思い出して逃避してしまった。
とにかく怖くて怖くて、適当に板を組んで箱を作って面に絵を描く、というやっつけ仕事を早く終わらす、そのことに集中することにした。無心で作業をこなす。その間小さなおじさん達が華麗なパレードを舞い踊ったり、一人でトイレに行くのが怖くて水道場で小便したらちびまる子ちゃんみたいな格好をした暗い雰囲気の女の子に見られて恥ずかしい思いをしたり、下半身がないお姉さんがコモドオオトカゲみたく徘徊してたりしたけど、おれはちょうど箱の開閉部にとりつける、手作りの人間感知センサー付き開閉蝶番を…あれ?おれ天才かな?まあ神童も二十歳過ぎればただの人と、ってんなこたどうでもいいんだよ!箱作りに忙しくて小さいおじさんとかに気がつかなくてさってお前は何がしたかったかを思い出してレポート用紙10枚にまとめろ!
結論から先に述べると私はただ私が体験した怖い話を、って今じゃなくていいんだよ!
何事もなく箱作りは佳境に入り(何事もなかったのかよ)、あとは適当にポスターカラーで色付けをするだけになった時、おれは自身の作業スピードに満足し一服しようとタバコに火をつけたら、ニスやらなにやらつかったから、部屋中にシンナー的なガスが溜まってたんですな。大爆発です。爆発した博士みたいな姿になったおれは思ったね。
「なんだ。さっきのおじさん達も幻覚か」
ってね。うぜえ!
まあ、箱作りも佳境に入ると精神にも余裕がうまれて、おれは何か箱にくっつけるスワロフスキー的なものを探しに、後々その箱がデコ電として高く売れるようにってほんともう…。
図工室の奥にある教師しか入れない部屋(これも準備室と呼ぶか?)みたいなとこに忍び込んだんだ。でもなんも小道具はなくてさ。机の上に爺さん先生のものらしき筆記具とか作図用のインクとか筆とかがあって、また怖くなって図工室に戻ったらさ。いたんだ。
ああもうめんどくせー。戻ったら例の青い光の男の子がいてびっくりしたけど、よくみたらそいつMさんで、おれが軽くあしらったら、ゴーエイプしちゃって、片手にペンライト、片手に彫刻刀を持ったMさんに追いかけ回されたって話。
なんとかランドセルだけ取り、職員室まで逃げてやっと助かったかなって思ったら、担任も誰もいなくて、おれは家に逃げ帰ったんだ。次の日担任に「お前はどうしてそうなんだ」って泣かれたんだ。あの時いなかったくせに、おれが帰ったあともずっとおれを待ってたらしい。その晩おれは知らなかったけど家に確認の電話はあったらしい。一応、事の顛末を話したけど信じちゃくれなかったなぁ。Mさんはしれっとしててさ。憤りを感じたもんだよ。そんな人間が怖いって話。
ただ、怒られてる時に担任が例の箱を差し出してきたんだけど、おれが作ってる途中でやむなく図工室に放棄した箱が明らかに大人の手により仕上がっていたことが不思議だった。ヤスリがけとかばっちり。絵もやたら器用に描かれてて。蝶番とか適当につけたから蓋と辺の間に隙間があったはずなんだけど、それもなくなってて。嘘つくかどうか試されてんのかなって思ったけど、担任はそのこと一切スルーでさ。むしろ、出来をほめるんだよね。芝居がかってない調子でさ。話を聞いてるとなんか担任が見回りにきた時間(担任は音がしたから中を見ずにひっこんだ)とおれが実際に作業してた時間が食い違うしさ。あれはなんだったんだろうか。
箱は確か気味が悪くて、バラバラにして焼却炉に放り込んだんだけど、今思い返せばその箱、描かれていた絵には黒く縁取りされてたんだけど、あれはポスカっぽくなかった。そんな、箱を捨てといてよかったなぁって話。