街路樹陰茎灯〜二〜
これほどまでに男は社会的価値を失い女により淘汰されつつあるが、生殖活動に精子が必要である以上、その存在価値までは失われず、奴隷として生かされている。いつでも絶滅可能な状態で。
年齢のいった、男の社会を知っている個体は既に殆ど始末されたが、性別のコントロール、産み分けが出来ていない以上男は自然に産まれ出る。その自然に、も、不思議と数が少なくなってきており、今では出産の八割方が女であるが。
前世界では主に宗教的倫理観によりその分野が日の目を見ることは無かったが、この完成された世界では前世界以上のあらゆる分野の科学的発展を遂げる意志はなく、また、学者等インテリ層は、これは男女共、女王達に特に嫌われ粛清されたこともあり、スーパーモバイルプリンター登場以後数十年が経過したが目立った科学的発展はない。
自然に産まれる男達は当然親から忌み嫌われる。その感情の一部には我が子が将来奴隷になることが義務付けられている悲しみもあるのだろうと信じたいものだが。しかし、産まれてくる子が男だとわかっても堕胎は許されない。というのも、性別など如何に腹の中を超音波検査しようが結局産まれてみなければわからないという部分が多いにある為だ。しかし男と診断したなら産ませない。腹が本格的に膨らむ前、妊娠20週から26週辺りで腹から取り出し、母親からみれば、無かったこと、にしてその精神的ダメージを軽減し、国が奴隷として管理、教育するのだ。しかししかし、そう割り切れない母親も少なからずいる。特に男女の双子の場合などに顕著である。そういう場合逃げながら産むしかないのだが彼女等は、大概捕まる。第一に、男と診断されたということはそのことを知られたということである。第二に、たとえ運良く捕まらず産むことが出来ても、必ず誰かにバレてしまう。バレたら必ず密告される。カリスマ女王の信者達にとってその母親は裏切りものに他ならないからである。
それでも、それでも何とか、国の、女王の目を盗み男を出産し育てている者達がいる。彼女等親子だけではない。運良く奴隷の束縛から逃れた男達も随分いる。誰にも知られずひっそりと日本の深い山間で、衛星写真からも観測出来ぬ深い林の中で、女王達の恐怖に怯えながら、そして、大いなる野望、夢、希望を抱きながら、その野望を今まさに目前としながら。
奴隷から救われた彼等は私の言うことをきく。言いなりだと言ってもよいだろう。奴隷として生き、奴隷として生きてきた彼等には、そうして生きる以外に道は無いのだろう。しかし、不思議なことに母親達も私の言うことをよくきいてくれる。恐らく、女王達の手から目から逃げていく過程で自身の絶対的忠誠を裏切る不敬行為に対する呵責や女王への疑問、疑念やらが入り混じった感情、また未来に、安心が約束された未来を投げ打ったことに対する不安を抱えたところへ私が現れ救いの手を差し出したことにより、彼女等の女王への忠誠心が反動で私に仮託されたのか、はたまた忘れかけていた父性というものに惹かれたのか、とにかく、こちらも、皮肉ながら奴隷のように言うことをよくきいてくれる。
私はこの無知で無教養な、まるで野人のような知識しか持たぬ奴隷達を「アダムとイブ」と呼ぶ。
そう、私は人類の歴史をやり直そうとしている。この腐った世界を原始に帰す。腐った世界、というのは何も女が世界を支配しているからではない。私は、少なくとも前世界ではフェミニストであったのだ。腐った世界といったのはこの発展を捨てた社会のことである。向上心のかけらも無い現在社会では、私が手を下さなくてもいずれ近いうちに種の絶滅を迎えるであろう。現にスーパーモバイルプリンターにより労働とそれに伴う知恵を振り絞るということを辞めた人類、この現在社会が確立されてから数十年、この間に産まれた四十歳にも満たない人間が次々と認知症など主に老化により起こる脳の問題を起こしその寿命を終えている。
人類が作り出した人類の英知の結晶とでも評価すべき機械がまさか人類から生きるベクトルを奪ってしまったとは。連続性の無い“点”はいずれ消え去るのみである。私はただ便利な世の中を、格差を抱えた奴隷的労働環境の改善を目指しただけであったのだが。
もはや人類は救えない。文明を捨て、過去に戻り一からやり直すしかない。執るべき手段は一つ。私は私の生み出したこのスーパーモバイルプリンターにより地球ごと刷新するつもりである。我ながら恐るべきことに、それは可能なのである。とはいえ従来のスーパーモバイルプリンターでは出来ない。所詮箱型機械であり、地球刷新を行おうとすれば赤道を四角く囲む枠が必要だからだ。現行のスーパーモバイルプリンターでもその枠自体は創れるだろうが、悲しいかなその枠を組み上げ固定及び可動させる人類の知恵や技術がない。なぜならその枠は前世界で存在しなかった物であるからだ。しかし、私には地球刷新が出来る。現代の人類にはおよそ不可能であろうが私はスーパーモバイルプリンターの技術を発展させたのだ。この新スーパーモバイルプリンターは直径50メートル程の円形をしている。私がこの機械のスイッチを入れればこの機械の上に乗っている物質以外、機械を中心にして波動のような波が大地を伝い、まるでドミノ倒しのように物質が、自然も建物も動物も人間も、次々と再構成されていくだろう。この新スーパーモバイルプリンターでは、生命を創り出すこと
は出来ないまでも、生命を既存の別の生命に変えることが出来る。現代を何の疑いもなく過ごしている人間達には些か悪い気もするが、これも人類の為だ。せめて人間は哺乳類に変えよう。
この新スーパーモバイルプリンターの上に乗せる人間は当然「アダムとイブ」達である。私は乗らない。無神論者の私が新世界の神になるわけにはいかないからである。彼等には最低限の生きる知恵を与えたつもりだ。それに、神様気取りではないが、刷新された後暫くはこの辺りを生活しやすい環境に変える。
願わくば彼等の子孫が私と同じ発明をせぬよう。では、世界よ、私の知る歴史よ、さらばだ。
ひょっとしたら、このスイッチが永劫回帰のスイッチなのかもしれない……………。車椅子の老人はスイッチを押した瞬間そうおもったが、すぐに一匹の鹿に変わった。
終わり。
年齢のいった、男の社会を知っている個体は既に殆ど始末されたが、性別のコントロール、産み分けが出来ていない以上男は自然に産まれ出る。その自然に、も、不思議と数が少なくなってきており、今では出産の八割方が女であるが。
前世界では主に宗教的倫理観によりその分野が日の目を見ることは無かったが、この完成された世界では前世界以上のあらゆる分野の科学的発展を遂げる意志はなく、また、学者等インテリ層は、これは男女共、女王達に特に嫌われ粛清されたこともあり、スーパーモバイルプリンター登場以後数十年が経過したが目立った科学的発展はない。
自然に産まれる男達は当然親から忌み嫌われる。その感情の一部には我が子が将来奴隷になることが義務付けられている悲しみもあるのだろうと信じたいものだが。しかし、産まれてくる子が男だとわかっても堕胎は許されない。というのも、性別など如何に腹の中を超音波検査しようが結局産まれてみなければわからないという部分が多いにある為だ。しかし男と診断したなら産ませない。腹が本格的に膨らむ前、妊娠20週から26週辺りで腹から取り出し、母親からみれば、無かったこと、にしてその精神的ダメージを軽減し、国が奴隷として管理、教育するのだ。しかししかし、そう割り切れない母親も少なからずいる。特に男女の双子の場合などに顕著である。そういう場合逃げながら産むしかないのだが彼女等は、大概捕まる。第一に、男と診断されたということはそのことを知られたということである。第二に、たとえ運良く捕まらず産むことが出来ても、必ず誰かにバレてしまう。バレたら必ず密告される。カリスマ女王の信者達にとってその母親は裏切りものに他ならないからである。
それでも、それでも何とか、国の、女王の目を盗み男を出産し育てている者達がいる。彼女等親子だけではない。運良く奴隷の束縛から逃れた男達も随分いる。誰にも知られずひっそりと日本の深い山間で、衛星写真からも観測出来ぬ深い林の中で、女王達の恐怖に怯えながら、そして、大いなる野望、夢、希望を抱きながら、その野望を今まさに目前としながら。
奴隷から救われた彼等は私の言うことをきく。言いなりだと言ってもよいだろう。奴隷として生き、奴隷として生きてきた彼等には、そうして生きる以外に道は無いのだろう。しかし、不思議なことに母親達も私の言うことをよくきいてくれる。恐らく、女王達の手から目から逃げていく過程で自身の絶対的忠誠を裏切る不敬行為に対する呵責や女王への疑問、疑念やらが入り混じった感情、また未来に、安心が約束された未来を投げ打ったことに対する不安を抱えたところへ私が現れ救いの手を差し出したことにより、彼女等の女王への忠誠心が反動で私に仮託されたのか、はたまた忘れかけていた父性というものに惹かれたのか、とにかく、こちらも、皮肉ながら奴隷のように言うことをよくきいてくれる。
私はこの無知で無教養な、まるで野人のような知識しか持たぬ奴隷達を「アダムとイブ」と呼ぶ。
そう、私は人類の歴史をやり直そうとしている。この腐った世界を原始に帰す。腐った世界、というのは何も女が世界を支配しているからではない。私は、少なくとも前世界ではフェミニストであったのだ。腐った世界といったのはこの発展を捨てた社会のことである。向上心のかけらも無い現在社会では、私が手を下さなくてもいずれ近いうちに種の絶滅を迎えるであろう。現にスーパーモバイルプリンターにより労働とそれに伴う知恵を振り絞るということを辞めた人類、この現在社会が確立されてから数十年、この間に産まれた四十歳にも満たない人間が次々と認知症など主に老化により起こる脳の問題を起こしその寿命を終えている。
人類が作り出した人類の英知の結晶とでも評価すべき機械がまさか人類から生きるベクトルを奪ってしまったとは。連続性の無い“点”はいずれ消え去るのみである。私はただ便利な世の中を、格差を抱えた奴隷的労働環境の改善を目指しただけであったのだが。
もはや人類は救えない。文明を捨て、過去に戻り一からやり直すしかない。執るべき手段は一つ。私は私の生み出したこのスーパーモバイルプリンターにより地球ごと刷新するつもりである。我ながら恐るべきことに、それは可能なのである。とはいえ従来のスーパーモバイルプリンターでは出来ない。所詮箱型機械であり、地球刷新を行おうとすれば赤道を四角く囲む枠が必要だからだ。現行のスーパーモバイルプリンターでもその枠自体は創れるだろうが、悲しいかなその枠を組み上げ固定及び可動させる人類の知恵や技術がない。なぜならその枠は前世界で存在しなかった物であるからだ。しかし、私には地球刷新が出来る。現代の人類にはおよそ不可能であろうが私はスーパーモバイルプリンターの技術を発展させたのだ。この新スーパーモバイルプリンターは直径50メートル程の円形をしている。私がこの機械のスイッチを入れればこの機械の上に乗っている物質以外、機械を中心にして波動のような波が大地を伝い、まるでドミノ倒しのように物質が、自然も建物も動物も人間も、次々と再構成されていくだろう。この新スーパーモバイルプリンターでは、生命を創り出すこと
は出来ないまでも、生命を既存の別の生命に変えることが出来る。現代を何の疑いもなく過ごしている人間達には些か悪い気もするが、これも人類の為だ。せめて人間は哺乳類に変えよう。
この新スーパーモバイルプリンターの上に乗せる人間は当然「アダムとイブ」達である。私は乗らない。無神論者の私が新世界の神になるわけにはいかないからである。彼等には最低限の生きる知恵を与えたつもりだ。それに、神様気取りではないが、刷新された後暫くはこの辺りを生活しやすい環境に変える。
願わくば彼等の子孫が私と同じ発明をせぬよう。では、世界よ、私の知る歴史よ、さらばだ。
ひょっとしたら、このスイッチが永劫回帰のスイッチなのかもしれない……………。車椅子の老人はスイッチを押した瞬間そうおもったが、すぐに一匹の鹿に変わった。
終わり。