みんな死ぬな | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

みんな死ぬな

僕の知り合いの話。
彼は、僕の同僚であったのだが、先輩であり年上だ、何ともいえぬ性格の持ち主だった。仮に田母神さんとしよう。あ、田母神(仮名)さんは駄目なの?じゃあ田辺さんで。
ちょうど去年の今頃、僕と田辺さんは半プライベート半仕事のような状態で寒風吹き荒む荒川土手の中、人を待っていた。カジュアルな格好をしている。タバコを吸いながら別段これというものでもない話をしていると、何を思ったか、田辺さんは「うー、寒い」と言って両手をズボンのポケットに突っ込んだ。僕はスローモーションになったみたく田辺さんの右手にあった火のついたタバコがポケットに吸い込まれていく様を見ていた。一瞬間を置いて、僕は田辺さんのポケット目掛け回し蹴りをした。
「うわ、なんだよ」
そう言った田辺さんに構いもせず、僕はポケットを手のひらで幾度か叩いた。
「何してるんですか田辺さん。タバコごとポケットに手を突っ込みましたよ」
「え、本当?」
ポケットをまさぐり、中にあるものありったけを出した田辺さん。開いた手にはシケモクが三本あった。
「ビスケットか!僕が手で叩いたから!?」
そんな人だった。
田辺さんは“ひっかけがいのある人”でもあり、これはもはや才能と言ってもいい。
有名な「象を冷蔵庫に入れる三つの手順(キリン含む)」も、ものの見事に、理想的な展開をしてくれた。
そのタバコの件のあと、僕は田辺さんに、いつものように、創作の問題を出した。田辺さんは僕がする話を解けないくせに楽しみにしているようで、僕も楽しかった。創作、と書いたが、どこかで見聞きしたものかも知れないことを一応記しておく。

「田辺さん、そうですね、300人が乗っているジャンボジェットをハイジャックする場合、犯人側からみて最も安全にハイジャックを成功させる際の犯人側の最小人数とは?」
「そっちで来たか」
「そっちってどっちですか…いくつか条件があります、
一つ、この場合のハイジャックの成功とは機内の制圧のみを指すこと。
一つ、犯人乗客共に外部からの影響を受けないこと。まあ、飛行機は飛んでいて、犯人は外部の仲間から支援を受けない。すなわち、犯人の邪魔をしたら地上で何かするぞ、というようなことは無い。機長が地上に連絡してもこの場合特に意味はない。
一つ、この飛行機には300人の乗客の他に10人のアテンダントがいる。
一つ、300人の中にはふたりの警官が乗っている。警官を無力化するには犯人側は必ず警官ひとりに対しふたりが必要である。犯人と警官が格闘になった場合、犯人側が武器を持ってようがいまいが1対1なら必ず犯人側が負ける。警官は外見から警官であると判別出来ない。
一つ、この飛行機には通路はふたつ、そして乗客を100人ごとに仕切る壁が二枚ある。犯人側は常に300人の乗客を武器で脅しながら監視しなくてはならない。でなくては反抗される。
一つ、犯人の持てる武器は日本で手軽に手に入れることができ、まあいって拳銃猟銃散弾銃ぐらいですか、尚且つ機内に持ち込める必要がある。ハイジャック途中で犯人側が貨物室に入り荷物を手にすることは可能。当然貨物室に行く場合乗客やアテンダントを監視する人物が必要。また爆弾や毒ガスや生物兵器の使用は禁止する。
以上」
「ちょっと待てよ。ふむふむ、乗客300人の男女比は?」
僕は今日もまた田辺さんがその“ひっかけがい”を発揮してくれることを確信した。
「ま、それは考えなくていいです。が、犯人側に隙があった場合、乗客は犯人を取り押さえます。失敗です。あ、ちなみに解答権は一度のみですから」
「そうか…一度きりか……あ、わかった。なんだよ。簡単じゃないか。最小だろ?じゃあ、ひと」
「ヒント、正解はひとりではない」
「え…じゃ、じゃあ、ふ」
「ヒント2、正解はふたりでもない。解答は一度きりですからね」
「………武器は」
「ヒント3、大ヒントです、二桁ではない」
「通路二本だろ…で100人ごとにいるわけだ、ええ、1、2、3、4…機長室に、ふたりの警官には4人………」

結局、田辺さんは最後までその“ひっかけがい”を発揮してくれ、それがおもしろくて僕は正解を言わぬままでしたね。田辺さん。僕は今日、何故だか知らないけど、この日のことを思い出して笑っちまいました。
「どう答えても不正解なんだろ」
ま、創作ですから、確かにそういうこともあります。が、一応正解はあるのです。
でも、教えません。ていうか、わかれよ。こんなもん幼稚園児でも即答して、僕を「どう答えても不正解」の正解パターン2に移させるぞ。
あの時の正解を書いた紙を僕の部屋の郵便受けの中に入れときます。怖いから部屋には入ってこないでください。