蛆虫と呼ばれた男の主張 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

蛆虫と呼ばれた男の主張

「今日も眠れない。もう朝陽が眩しい。こんな日はどうせ陽が陰る夕方になるまで眠れないんだ。どうせ。だけど、その時間までやることもなく、ベッドに入って横たわりっぱなし、本を読む気力も無く、新しい本を買う金も無く、この部屋唯一の時間潰しの役割を担っていたテレビゲームも壊れっぱなし。財布の中には220円。自販機で甘い飲み物買ったらおしまい。眠れないけど基本眠いから散歩する気持ちにもなれず、何もしないから考える力も無くなった。なんにもない。なんにもない部屋。10時間。24時間。なんにもない。なんにもない部屋。なんにもない自分。友達も無く、当然彼女もおらず、会話なんてものをもう何年してないだろう。確か3年前、同級生と飲みに行った以来、二言以上言葉を発していない気がする。あ、1ヶ月ぐらい前、家に誰もいない時、“親に殺されても仕方ない、その時が来たら、包丁を持った人間がこの部屋の扉を開けたら、刺されよう、受け入れよう、いや、刺されよ、殺されよ”そう繰り返し呟いていたっけ。そのあと、包丁を研いだんだ。ひっかかったら嫌だから、どうせ。包丁をあれだな、研ぎ器っていうの?取っ手がついた、割れ
目に砥石のついた、多分100均の。それで研いだんだ。シャギシャギ研いでいたら、はっと気がついたというか、斜め右上から自分の姿が見えたというか、おれなにやってんだろって苦笑い浮かべて。貯金箱から1000円盗って寝たんだっけ。最低だよな。そういえば以前病院でCT検査をしたとき、15分動かないで下さい、って技師に言われて、耳栓をしても響く機械音の中横たわり、むずむずむずむずむずむずむずむずしながら、痒いところがかけない、蚊の幽霊が耳の辺りを飛び交っているような時間を過ごして、これを毎日やられたら気が狂ってしまうだろうな、って思ったけど、15分動くな、と、5年間動かなかった、では、どうやら15分間に受けた苦痛の方が大きいらしい。
おれにとって経験ってやつは基準を決めるもので、基準ってやつは分別で、要る要らないで、物事の善し悪しで、楽して生きる楽しく生きる為のプラスマイナスで、分別ってやつは優劣で、耳たぶが顔にくっついてる奴離れてる奴で、偏見で、差別で、おれにとって経験ってやつは差別と差別の戦いで、戦争で。
でも、経験ってやつは財産で、力で、多いにこしたことはないもので、偏見を無くすもので、考えや言葉や表情や人生を豊かにするもので、キャバクラで話す小話で、財産ってやつは自慢で、すごいじゃないって言われたいもので、プライドで、顕示で、盾になるもので、守り守られるもので、美化で、装飾で、美化ってやつはつまり言い訳で、嘘で、事実とは異なるもので、しかし事実は起こったその一瞬にしかないもので、どこにも過去の事実は無くて、現在は事実の連続で、まやかしで、装飾で、経験ってやつは実体の無い言い訳で、欺瞞で。
携帯電話は内なるものだ。携帯電話ってやつは自身の心の映写機で、鏡で、自分では自身の全体を見れないから鏡に写る姿はもはや自身の内なる核で、取り込んで、入り込んでいて、自分の心臓をむき出しで持ち歩いているようなもので、裸の肉体で、化身で、自分以上に自分で、そこにメッセージが届くわけで、ダイレクトに響くメッセージで、振り込め詐欺にひっかかるのもむべなるかな、それは“自分の見たことしか信じない”ってやつで、たとえ他人からのメールでもそれは自分を通したメッセージで、表示された文字は自分の声で、そのくせ世界と繋がっていて、その中を真っ裸でいるわけで、盲目的で、頼れるもので、事実しかなくて、えんがちょってしないやつで、金がかかるからなおさらで、かわいくて、言うこと聞いて、少し打たれ弱くて、ちゃんづけで呼んでみたりしたりして、でも繋がっているわけで、知らない間に知らない男とできてたりして、そういえば、おれが初めて携帯電話を手にした頃、それは同世代のガキが携帯電話を持ち始めた頃で、てきとうな番号プッシュして同世代の女が出るまでかけ続けて、案外早く当たるもんで、そんなことしてた。実際何人
かと会って遊んだ。カラオケ行った。みんなやってたんじゃないかな。今考えるとかなりのもんだ。こういう書き方が自慢の発露だ。今やったら手首にわっかがはめられそうだ。
果たして現代において“なんちゃっておじさん”はまた現れるのだろうか。不特定多数の人間がいる空間は電車からネットにとって代わられたのだろうか。感情のテロリストは消えてしまったのだろうか。インターネット自体なんちゃっておじさんなのかもしれない。みんながみんななんちゃっておじさん。こいつ自殺しそうだな、なんちゃって。ブログ炎上、なんちゃって。メメント・モリ、なんちゃって。イデオロギー、なんちゃって。おれの人生、なんちゃって。みんななんちゃっておじさん。サイバーなんちゃっておじさん。肉体無きアバターなんちゃっておじさん。たまになんちゃってシンデレラ、君が。なんちゃって。しかしそのなんちゃっては絵に描いた餅みたいなものだから、吐き出しきれて無い。確実にストレスが積もってゆくのはどうしようもない。ストレスは肉体を伴った行動で晴らすしかない。生身でぶち当たるしかない。さらけ出すしかない。本音。私、本当は自分大好き!本音電車。本音専用車両。いや、静かな車両。なんちゃってしなくていい静かな車両。周りの人間が意思無き物体に見える世界。まじめな世界。周りと同じことをしたい気持ちと周りと違っ
たことをやってやろうという気持ちが混在する精神には、黙ってるぐらいがちょうどいい。なんちゃってがきかない世界。たまにいるよな。なんちゃってって何だよ!ふざけんな!って怒る奴」
『ああ、それおれだ』
「マジで!?」
『なんちゃっ』
「はあ!?ふざけんな!ぶっ殺すぞこの野郎!!」
『ぎゃあああぁぁぁぁ…………』
……………


モヤモヤ