“コスメティックもろざし”コスメティックに輝け!〈八十五〉
ブタクマの腰はラニオの腹に吸いつき、ラニオの怪力から離すことはもう不可能である。
ラニオは頭をブタクマの胸にくっつけて押している。凸凹の力がブタクマの腰にかかる。人間の鍛えようのない急所である目をつこうにも、学習したのか、ラニオの顔はブタクマの胸に埋まって手が出せない。自由がきく両手でなんとかしようにも、もとよりの著しい体力の低下、一撃でラニオを失神もしくはさば折りを解除させるような攻撃をする力はブタクマに残されていない。それに加えてラニオの絞めつける威力。本能からブタクマの両手は、顔に物が飛んできた時目を閉じるように、ラニオの手を掴み、無力ながら少しでもさば折りの威力をやわらげることに使われている。
「うん?」
ラニオの視界はない。ただ足元に違和感が。加藤やグルカ兵同様、ラニオも痛みをあまり感じないらしい。
「離せぇ」
知子がラニオの膝を足の裏でガンガン蹴っていた。
「…知子、逃げ、ろ」
ブタクマが消えそうな意識の中、必死に告げる。
「ふざけんな!できるかよ!離せ!オラぁ、お前も…へばってないでなんかしろよ!」
知子は蹴り続ける。しかしラニオはびくともしない。隆車に向かう蟷螂の如し。知子もそれを知っての、なんかしろよ、発言だ。
「ふん、どうやら早死にしたいらしいな。どれ、とっととこいつを始末するかな」
ラニオの両腕により一層の力が入る。
ゴポリ。
荒れる波音にも、興奮状態の精神にも負けず、ブタクマの背中から発した低い不気味な音は知子にはっきり聴こえた。
「ブタクマ!」
知子は叫んだ。ブタクマの口からは血のあぶくが溢れ、下半身はだらりと垂れている。そしてブタクマの胴体。あのたくましい胴体はあり得ないくらいラニオの両腕に
より絞めつけられ、まるできつくコルセットを巻いた婦人のよう。
「うわああぁぁぁ」
知子の顔に明らかに怯えが見える。それでも力が入らない足でラニオの膝を蹴り続ける。止められない、止まらない、止まったら崩れ落ちてしまうことはわかっているから。
「…ははっ知子、俺を心配、する、なんて、お、お前、らしくない、ぞ」
ブタクマは両手をラニオの腕から離し、知子に笑いかけた。口から血のあぶくを吹き、死微笑。
「まだ意識があるか」
ラニオはさらに力を込める。
「無駄だ、ラニオ。お前に、俺は、殺せ…な…い」
「どの口が言ってるんだかな」
「知子…こいつは、弱い。どうしようもなく弱い、奴だ。いくら、筋肉を、つけよう…とも、相撲の、俺とお前の、相撲の前…で…は、クソみた…いなもん…さ」
「さっきの投げ…、こいつはお前の弟子か。弟子が女とは…堕ちたもんだ」
「あぁ、見事な投げだった…。お前には一生できない芸当だ!ラニオ!」
ブタクマの目が血走り、かっと大きく開かれる。
「ふん、出来なくて結構。出来なくてもお前は殺せる」
「お前の耳に聞かせる言葉はこれ以上ない」
ブタクマはラニオの耳を掴むと一気に引きちぎった。ぼとりと地面に両耳の耳介が落ちる。
「知子!さっきは逃げろと言ったが、悪い。どうかしていた。こんな奴を怖れてしまった。それをお前が気づかせてくれた。闘え!闘うならばお前に負けはない!俺はもうすぐ死ぬが、こいつに負けたわけじゃない。それをお前が証明するんだ!」
ブタクマの口から血の霧が吹き出すと、ブタクマの体から力が抜け、動かなくなった。
「…ブタクマ」
知子は蹴るのを止め、さっとラニオから離れる。堤防の先の方へ。退路を自ら断った。背水の陣。
「おい!そこのでくの坊!ラニオとか言ったか、私と勝負しな!」
知子は仁王立ちして吼えた。右手の中指が満月を指す。
続
ラニオは頭をブタクマの胸にくっつけて押している。凸凹の力がブタクマの腰にかかる。人間の鍛えようのない急所である目をつこうにも、学習したのか、ラニオの顔はブタクマの胸に埋まって手が出せない。自由がきく両手でなんとかしようにも、もとよりの著しい体力の低下、一撃でラニオを失神もしくはさば折りを解除させるような攻撃をする力はブタクマに残されていない。それに加えてラニオの絞めつける威力。本能からブタクマの両手は、顔に物が飛んできた時目を閉じるように、ラニオの手を掴み、無力ながら少しでもさば折りの威力をやわらげることに使われている。
「うん?」
ラニオの視界はない。ただ足元に違和感が。加藤やグルカ兵同様、ラニオも痛みをあまり感じないらしい。
「離せぇ」
知子がラニオの膝を足の裏でガンガン蹴っていた。
「…知子、逃げ、ろ」
ブタクマが消えそうな意識の中、必死に告げる。
「ふざけんな!できるかよ!離せ!オラぁ、お前も…へばってないでなんかしろよ!」
知子は蹴り続ける。しかしラニオはびくともしない。隆車に向かう蟷螂の如し。知子もそれを知っての、なんかしろよ、発言だ。
「ふん、どうやら早死にしたいらしいな。どれ、とっととこいつを始末するかな」
ラニオの両腕により一層の力が入る。
ゴポリ。
荒れる波音にも、興奮状態の精神にも負けず、ブタクマの背中から発した低い不気味な音は知子にはっきり聴こえた。
「ブタクマ!」
知子は叫んだ。ブタクマの口からは血のあぶくが溢れ、下半身はだらりと垂れている。そしてブタクマの胴体。あのたくましい胴体はあり得ないくらいラニオの両腕に
より絞めつけられ、まるできつくコルセットを巻いた婦人のよう。
「うわああぁぁぁ」
知子の顔に明らかに怯えが見える。それでも力が入らない足でラニオの膝を蹴り続ける。止められない、止まらない、止まったら崩れ落ちてしまうことはわかっているから。
「…ははっ知子、俺を心配、する、なんて、お、お前、らしくない、ぞ」
ブタクマは両手をラニオの腕から離し、知子に笑いかけた。口から血のあぶくを吹き、死微笑。
「まだ意識があるか」
ラニオはさらに力を込める。
「無駄だ、ラニオ。お前に、俺は、殺せ…な…い」
「どの口が言ってるんだかな」
「知子…こいつは、弱い。どうしようもなく弱い、奴だ。いくら、筋肉を、つけよう…とも、相撲の、俺とお前の、相撲の前…で…は、クソみた…いなもん…さ」
「さっきの投げ…、こいつはお前の弟子か。弟子が女とは…堕ちたもんだ」
「あぁ、見事な投げだった…。お前には一生できない芸当だ!ラニオ!」
ブタクマの目が血走り、かっと大きく開かれる。
「ふん、出来なくて結構。出来なくてもお前は殺せる」
「お前の耳に聞かせる言葉はこれ以上ない」
ブタクマはラニオの耳を掴むと一気に引きちぎった。ぼとりと地面に両耳の耳介が落ちる。
「知子!さっきは逃げろと言ったが、悪い。どうかしていた。こんな奴を怖れてしまった。それをお前が気づかせてくれた。闘え!闘うならばお前に負けはない!俺はもうすぐ死ぬが、こいつに負けたわけじゃない。それをお前が証明するんだ!」
ブタクマの口から血の霧が吹き出すと、ブタクマの体から力が抜け、動かなくなった。
「…ブタクマ」
知子は蹴るのを止め、さっとラニオから離れる。堤防の先の方へ。退路を自ら断った。背水の陣。
「おい!そこのでくの坊!ラニオとか言ったか、私と勝負しな!」
知子は仁王立ちして吼えた。右手の中指が満月を指す。
続