“コスメティックもろざし”〈84〉
縄を解かれた知子。だが体の自由はきかない。ラニオがブタクマと同じ様に知子の首根っこを掴んでいるのだ。
「よし、いいだろう。知子をこっちへよこせ」
「ちょっと待て、私はどうなるのだ。ラニオ君、そいつは離すな。熊わぎぃあちょらぁ」
ブタクマは本来交渉に向いている性質の人ではない。気の向くまま根来を絞める。
「いいから離せ、ラニオ!」
「ダ、ダメぇ~ラニぐぉ~」
何も進展しないやりとりがしばらく続き、緊迫した時間だけが進む。
この間、知子は目でブタクマに合図を送り続けていた。知子の体から、心から雨はあがり、辺り一面緑の絨毯、新緑の風が吹き、雲間からなびく光のカーテンは生き生きとした大地に成長を促す。
ブタクマはようやく知子の目に気づいた。今まで必死にラニオを睨みつけていたので知子に目をやる余裕がなかったのだが、あまりに進展しない交渉にふと気が緩み、知子を見る余裕が生まれたのだ。
知子の目から溢れだすイメージ。ブタクマは知子とシンクロした。
「ならば、交換だ」
ブタクマは根来の首根っこから手を離した。
「ラニオ、お前も離せ」
「ラニオ君、離しなさい」
ラニオは知子の首根っこを解放した。
「よし、知子を離せ」
と、言って、ブタクマは完全に根来を解き放つ。
「動くなよ、動いたら殺すぞ」
ブタクマは根来を脅した。根来の動きを止めるには十分であった。
「ラニオ君、そいつを離しなさい」
ラニオも知子を解き放つ。
「後ろを向け」
ブタクマは根来の体を反転させた。それを見て知子も自発的に後ろを向く。
「知子!こっちに歩いてこい!ほら、お前も歩け」
ブタクマは根来の胸を軽くついた。
一歩、一歩。知子はブタクマへ、根来はラニオへ。
必然的に知子と根来は交差する。
ふたりの視界に互いの背中が見えたその時、
「ラニオ君、走れ!」
と、根来は叫び、知子に組みついた。と思ったら根来は宙に舞った。
下手投げ。
根来が組みついてくることまで予想していたかはわからないが、一対一でなら根来如きもやしっ子ぬらりひょん、いや、むしろ根来を私にやらせろ。知子の放ったメッセージはここに実現した。
根来はごろりと一回転、下手くそな受け身ながら地面に強く叩きつけられることは回避した。が、勢い余って堤防の淵。腰掛ける形。少し前の信蔵と同じ体勢。
「うおおぉぉぉ」
知子は地を蹴り、根来の背中目掛け飛ぶ。
地を這うように低空。知子の全体重をのせたドロップキック一閃。根来の骨盤にあたる。押しだされるように根来は海の上。
「ひどいじゃないかぁ」
ポシャ。
根来は泣き出しそうな赤子の顔をして海に落ちた。そして二度と浮かびあがることはなかった。
「やったぞ、ブタク」
知子が小さなガッツポーズをしながら後ろをふり返ると、ブタクマはラニオと組み合っていた。
根来の最後の命に応じ、走ってきたところをブタクマが受けとめていたのだ。
「根来はいないぞ、ラニオ!」
「あぁ、死んだかもな…ありゃ」
「おとなしく縛につけ」
えらく古風な言い方。
「そうはいかないさ。俺も人間だ、死にたくないね。それに…、追い詰められているのは人質をなくしたお前達だ」
ラニオはブタクマの胴体を両手で絞めつける。さば折り、ベアハッグ。
「なんて弱々しいんだ。これがあのブタクマか…」
ラニオはぼそりとつぶやく。ブタクマの体は加藤との闘いで既に満身創痍。意識を保ち動いていることが奇跡的なのだ。
続
「よし、いいだろう。知子をこっちへよこせ」
「ちょっと待て、私はどうなるのだ。ラニオ君、そいつは離すな。熊わぎぃあちょらぁ」
ブタクマは本来交渉に向いている性質の人ではない。気の向くまま根来を絞める。
「いいから離せ、ラニオ!」
「ダ、ダメぇ~ラニぐぉ~」
何も進展しないやりとりがしばらく続き、緊迫した時間だけが進む。
この間、知子は目でブタクマに合図を送り続けていた。知子の体から、心から雨はあがり、辺り一面緑の絨毯、新緑の風が吹き、雲間からなびく光のカーテンは生き生きとした大地に成長を促す。
ブタクマはようやく知子の目に気づいた。今まで必死にラニオを睨みつけていたので知子に目をやる余裕がなかったのだが、あまりに進展しない交渉にふと気が緩み、知子を見る余裕が生まれたのだ。
知子の目から溢れだすイメージ。ブタクマは知子とシンクロした。
「ならば、交換だ」
ブタクマは根来の首根っこから手を離した。
「ラニオ、お前も離せ」
「ラニオ君、離しなさい」
ラニオは知子の首根っこを解放した。
「よし、知子を離せ」
と、言って、ブタクマは完全に根来を解き放つ。
「動くなよ、動いたら殺すぞ」
ブタクマは根来を脅した。根来の動きを止めるには十分であった。
「ラニオ君、そいつを離しなさい」
ラニオも知子を解き放つ。
「後ろを向け」
ブタクマは根来の体を反転させた。それを見て知子も自発的に後ろを向く。
「知子!こっちに歩いてこい!ほら、お前も歩け」
ブタクマは根来の胸を軽くついた。
一歩、一歩。知子はブタクマへ、根来はラニオへ。
必然的に知子と根来は交差する。
ふたりの視界に互いの背中が見えたその時、
「ラニオ君、走れ!」
と、根来は叫び、知子に組みついた。と思ったら根来は宙に舞った。
下手投げ。
根来が組みついてくることまで予想していたかはわからないが、一対一でなら根来如きもやしっ子ぬらりひょん、いや、むしろ根来を私にやらせろ。知子の放ったメッセージはここに実現した。
根来はごろりと一回転、下手くそな受け身ながら地面に強く叩きつけられることは回避した。が、勢い余って堤防の淵。腰掛ける形。少し前の信蔵と同じ体勢。
「うおおぉぉぉ」
知子は地を蹴り、根来の背中目掛け飛ぶ。
地を這うように低空。知子の全体重をのせたドロップキック一閃。根来の骨盤にあたる。押しだされるように根来は海の上。
「ひどいじゃないかぁ」
ポシャ。
根来は泣き出しそうな赤子の顔をして海に落ちた。そして二度と浮かびあがることはなかった。
「やったぞ、ブタク」
知子が小さなガッツポーズをしながら後ろをふり返ると、ブタクマはラニオと組み合っていた。
根来の最後の命に応じ、走ってきたところをブタクマが受けとめていたのだ。
「根来はいないぞ、ラニオ!」
「あぁ、死んだかもな…ありゃ」
「おとなしく縛につけ」
えらく古風な言い方。
「そうはいかないさ。俺も人間だ、死にたくないね。それに…、追い詰められているのは人質をなくしたお前達だ」
ラニオはブタクマの胴体を両手で絞めつける。さば折り、ベアハッグ。
「なんて弱々しいんだ。これがあのブタクマか…」
ラニオはぼそりとつぶやく。ブタクマの体は加藤との闘いで既に満身創痍。意識を保ち動いていることが奇跡的なのだ。
続