“コスメティックもろざし”〈八十一〉 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”〈八十一〉

車は寂れた港町を通り過ぎ、明るい港へ。その隣のわびしい海岸線で止まった。
「早かったじゃないか、私も今さっき着いたところだよ」
「お疲れさまです」
「加藤はどうしたかね?」
「根来さん、それが面白いことになりましてね。娘…知子でしたか、知子を拉致するときに旧友に会いまして、邪魔をするもんで、加藤がリベンジしたいと」
「旧友?熊若丸君かい?ほぅ……大丈夫なのかい?」
「ははっ、問題ありませんよ、あんな老いぼれ。加藤が始末したようです。連絡がありました。…ただグルカ兵のひとりがやられてしまったようです」
「なに!?熊若丸にか?」
「いえ、なんでも予想外のことが起こったとか。とりあえずここに呼んでます。もう来るでしょう」
「そうか」
根来は顔をしかめた。
「待つ必要はない。加府は眠らしたが…」
根来の合図で運転手が加府を車から引っ張りだす。
「それにひきかえ、お姫さまは機嫌が悪いようだねぇ」
「まったく、親子して躾がなってませんな」
波が打つ音に混じりかすかに、ぼぉん、ぼぉん、と音がする。言うまでもなく知子が
トランクの天井部を殴る音だ。
「わかってるね、あまり騒がれたくない」
「はい」
ラニオは助手席から荒縄を取りだし、ニヤリといやらしく笑った。
荒縄を手に、静かにトランクに近づく。
カチン、
トランクのロックを解いた。
一気にトランクを開けきると、突然の月光にぽつねんとしている知子の顔を掴む。ブタクマほどではないが大きな手だ。
その手の中には荒縄が。荒縄を押しつけられる、荒縄はラニオの手と知子の顔に挟まれ、逃げるように自然と口へと押し込まれる。
「よっ」
ラニオは知子の顔面を掴んだまま、片腕一本で知子を宙に上げ、トランクから出した。
「ぎぎっごこぉ」
知子は叫ぶ。が、顔を締めつける痛みと口に含んでいる荒縄のせいで言葉にならない。
知子はラニオの手を両手で掴み、足を胴体に押しつけ、全身をつっぱるようにして脱出を試みるが、ラニオはびくともしない。
「静かにしろ。おい」
ラニオは根来の運転手に荒縄を縛るよううながす。
知子は静かにしろ、と言われたものの変わらず、
「ぎこぉここくぅく」
と、鼻息荒く抵抗している。
運転手は手際よく荒縄を結ぶ。
「口と手だけでかまわん」
運転手は言われた通り口、そして手を後ろ手にしてきつく結ぶと、懐からナイフを取りだし、余りを切り落とした。猿ぐつわの完成。
ラニオは知子を肩に担ぎ歩きだした。根来は遙か先、堤防を歩いている。
知子は足をしっかと押さえつけられているので動きがとれない。唯一、背筋の筋トレをするみたく、ぴょこんぴょこんと上体を反らしたり沈んだり。
「見えるか?」
ラニオはくるりと反転、知子は腰に力を入れて前方を見た。
そこには自分と同じように担がれている人物が。見たことある服装。すぐにそれが誰かがわかった。
「うもぉうがぁん」
「加府信蔵はまだ生きている。まぁもうすぐ死ぬがね。だがお前を助けようとしたブタ…熊若…いや、猪熊は死んだ」
「…………………」
「はははっ、心配ない。すぐに会えるよ。あの世でな」
知子の体から力が抜けていった。