“コスメティックもろざし”〈八十〉
真っ暗闇。どうやら横になっているらしい。知子は起きあがろうとした。
ぼぉん、
「あた、たたた」
頭をぶつけた。何に?もちろん車のトランク天井部に。だが知子はとっさに状況を判断することできなかった。
「なになになに?ミチコ?B子?」
言いながら辺りを手探り。八方塞がり。わけがわからぬまま真っ暗闇の中、恐怖が知子を包む。
「おか……お父さん…」
言い知れぬ恐怖、寂しさに耐えきれず知子はつぶやいた。
お父さん?
そうだ。ミチコんちでテレビを観てたらお父さんがスタンガンを…それで警察に呼ばれて、家に帰る途中、学校の前で刑事に会って、それから誰もいない校内を…。
ブロロロロログイーン。「あぁ!?」
車が走りだしたのだが、知子にはそれがわからない。冷静に考えればすぐわかることなのだが、今はとてもじゃない。瞬時に知子がイメージしたのは、美術品などを輸送するときに使う大きな、都合よく人ひとり横たわるほどの、木箱に入れられてフォークリフトでどこかへ運ばれている様子だった。車のトランクに入れられている、というほうが簡単だろうに。思いこんだら最後。感じるスピード感すらイメージを後押しする。
動きだした“木箱”。木箱ぐらいならなんとか…。
ぼぉん、ぼぉん、ぼぉん。
知子は天井部を全力で殴りつけたが、それは虚しく響く音をだすだけだった。全力と書いたが、いかんせん寝っころがってのパンチでは…。ましてやトランクの天井部は衝撃を吸収する仕組みになっているのだからたまらない。
それでも知子は天井部を殴り続ける。
ぼぉん、ぼぉん、ぼぉん。
誰もいない校内をミチコとB子と刑事と歩き、視聴覚教室の前に。扉を開けて、中に入るミチコとB子。そうだ。お腹に鈍痛がして。気づいたら床を見てて。苦しくて。カバンを落としたのよ。
殴るのを止め、知子は自分の肩周りを中心に再度辺りを手探りする。カバンは無い。
「記憶は…確かなようね…」
ぼぉん、ぼぉん、ぼぉん。
幾度も幾度も殴る。殴っても殴っても虚しい。
そんな中、加速のスピード感から減速のスピード感に変わったのを知子は感じた。
「まずい、船!?船に乗せられる!いつも決まってそうだもの」
なにがいつも決まっているのか知らないが、知子は焦り、パンチの回転を早くする。
ぼんぼんぼんぼんぼんぼんぼんぼんぼん。
減速から停止へ。きっ、と木箱は止まり、知子は揺さぶられる。
体を通して響くエンジン音、振動音が小さくなる。
と同時に、遠くの方から、サイレン音。
「………救急車?パトカー?どっちだっけ。消防車ってなによ!?」
知子はパニックの極致。
「誰かあああぁぁぁ、助けてえええぇぇぇ」
知子は段々大きくなるサイレン音に呼応するように叫んだ。しかし叫び声は当然サイレン音にかき消されている。アホだ。
パンチの連打と叫びに息が切れ、知子は大きく呼吸をすることになる。
「はぁはぁはぁはぁ………………海!?」
吸いこむ空気の中に、わずかに生臭く甘ったるい潮の香り。
「あぁ、やっぱり。船はまずいわ。英語できない…」
ぼぉん、ぼぉん、ぼぉん。
木箱は再び動きだした。
続
ぼぉん、
「あた、たたた」
頭をぶつけた。何に?もちろん車のトランク天井部に。だが知子はとっさに状況を判断することできなかった。
「なになになに?ミチコ?B子?」
言いながら辺りを手探り。八方塞がり。わけがわからぬまま真っ暗闇の中、恐怖が知子を包む。
「おか……お父さん…」
言い知れぬ恐怖、寂しさに耐えきれず知子はつぶやいた。
お父さん?
そうだ。ミチコんちでテレビを観てたらお父さんがスタンガンを…それで警察に呼ばれて、家に帰る途中、学校の前で刑事に会って、それから誰もいない校内を…。
ブロロロロログイーン。「あぁ!?」
車が走りだしたのだが、知子にはそれがわからない。冷静に考えればすぐわかることなのだが、今はとてもじゃない。瞬時に知子がイメージしたのは、美術品などを輸送するときに使う大きな、都合よく人ひとり横たわるほどの、木箱に入れられてフォークリフトでどこかへ運ばれている様子だった。車のトランクに入れられている、というほうが簡単だろうに。思いこんだら最後。感じるスピード感すらイメージを後押しする。
動きだした“木箱”。木箱ぐらいならなんとか…。
ぼぉん、ぼぉん、ぼぉん。
知子は天井部を全力で殴りつけたが、それは虚しく響く音をだすだけだった。全力と書いたが、いかんせん寝っころがってのパンチでは…。ましてやトランクの天井部は衝撃を吸収する仕組みになっているのだからたまらない。
それでも知子は天井部を殴り続ける。
ぼぉん、ぼぉん、ぼぉん。
誰もいない校内をミチコとB子と刑事と歩き、視聴覚教室の前に。扉を開けて、中に入るミチコとB子。そうだ。お腹に鈍痛がして。気づいたら床を見てて。苦しくて。カバンを落としたのよ。
殴るのを止め、知子は自分の肩周りを中心に再度辺りを手探りする。カバンは無い。
「記憶は…確かなようね…」
ぼぉん、ぼぉん、ぼぉん。
幾度も幾度も殴る。殴っても殴っても虚しい。
そんな中、加速のスピード感から減速のスピード感に変わったのを知子は感じた。
「まずい、船!?船に乗せられる!いつも決まってそうだもの」
なにがいつも決まっているのか知らないが、知子は焦り、パンチの回転を早くする。
ぼんぼんぼんぼんぼんぼんぼんぼんぼん。
減速から停止へ。きっ、と木箱は止まり、知子は揺さぶられる。
体を通して響くエンジン音、振動音が小さくなる。
と同時に、遠くの方から、サイレン音。
「………救急車?パトカー?どっちだっけ。消防車ってなによ!?」
知子はパニックの極致。
「誰かあああぁぁぁ、助けてえええぇぇぇ」
知子は段々大きくなるサイレン音に呼応するように叫んだ。しかし叫び声は当然サイレン音にかき消されている。アホだ。
パンチの連打と叫びに息が切れ、知子は大きく呼吸をすることになる。
「はぁはぁはぁはぁ………………海!?」
吸いこむ空気の中に、わずかに生臭く甘ったるい潮の香り。
「あぁ、やっぱり。船はまずいわ。英語できない…」
ぼぉん、ぼぉん、ぼぉん。
木箱は再び動きだした。
続