“コスメティックもろざし”〈七十八〉 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”〈七十八〉

暗くて静かな校舎、体こそくっついていないが、3人の心音は、互いの脈動を感じて同調している。
メイコ先生、B子、ミチコの隊列は老兵に向かって一直線、まっすぐに駆ける。
老兵は真っ向から向かい討つことを選んだ。時間は刹那、横に逃げれば壁。後ろに飛べば攻撃力を失う。なにより戦士としてのプライドが、女子供の攻撃を回避する選択をさせない。
老兵はその曲がったナイフを折れた手も添え両手で握りしめた。
握りしめたナイフを突っ込んできたメイコ先生の腹めがけて突き刺す。ナイフを腹に突き刺したままメイコ先生を盾にして陣形を崩す考えだ。その老兵の作戦第一は成功した。すなわち、ナイフはメイコ先生の肉に刺さった。
メイコ先生は崩れ落ちる。しかし力強く。老兵のナイフを肉に包みこんで離さない。
誰も見たものはいないが、メイコ先生は腹を刺されながらも、ニヤリと笑っていた。
老兵はバランスを失い、がくりと前傾姿勢。そこにB子。頭と頭がごっちんこ。
B子は前でなにが起こっているのかわからなかった。ただ突然地に伏したメイコ先生に為す術なく足をとられ、その身を振り子のように、ロケットのように宙へ。
僅かな滞空時間、見えたものは老兵の無防備な顔。
「ぎひゃぁ~」
ロケットB子は地に降りると頭を押さえてごろごろ転がる。
「頭がぁ、粉々にぃ」
と、叫ぶ、もはやロケットではないB子。もちろん頭は粉々にはなっていないが、それほどの衝撃だったのだ。
ならば老兵は?
老兵はナイフを握ったまま動かない、否、動いている。血走り、見開いた目でナイフを、メイコ先生に腹に刺さったナイフをより深く刺そうと押している。おそらく意識はもうない。メイコ先生が言ったように、若いB子の頭蓋骨は骨粗鬆症を気にしなければならない年老いた老兵の頭蓋骨を通して脳震盪を起こさせた。だがしかし、生まれついての戦士、意識を失っても本能が敵を逃がさない。
メイコ先生はナイフの刃を“左腕”ごと掴んでナイフの進行を防いでいる。
ぎぎぎぎっ、と音がしてきそうな緊張感溢れるやりとり。まさしく闘争。命の取りあい。
プツプツと左手の指々が落ちてゆく。
「オラァァアアァ」
ミチコは、メイコ先生の後ろから、力いっぱい木刀を振りかざし、豚を叩くよう、老兵の頭をぶっ叩いた。幾度も幾度も。
だが老兵はナイフを離さない。力もみなぎっている。それはメイコ先生の体のふるえからわかった。
ミチコは頭を叩き続ける。もはや木刀から伝わる頭の感触は、「こつ」ではなく「ぐにゃ」だ。
頭の3分の1がカルデラのように窪んでいる。
ミチコが、
「ウワァァァァ」
と叫んで、ゴルフのスウィングのように横から顔を叩くと、ようやく、サルスベリのような肌をした怖ろしい老兵は倒れた。それに続いてメイコ先生も力尽いたように突っ伏した。
「メイコ先生!ダメよ!メイコ先生!メイコ先生!メイコ先生!!」
ミチコとB子が叫ぶ。B子の額からは血が一筋たらりと流れている。しかしそれ以上にメイコ先生の腹からは血がとめどなく……。あまつさえ左腕から大量に血液を失っているというのに。
呼びかけに応えるようメイコ先生は、
「おかしいわね……………チャイムがならないわ……………」
と言って目を閉じた。
「メイコ先生!?メイコ先生!」
「…………………」