“コスメティックもろざし”〈七十一〉 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”〈七十一〉

案内されたのは視聴覚教室、土曜の夜とあってか校内は人気がない。学校が雇った警備の人もいないことに知子は少し気をとめた。
「では、どうぞ」
警察の人が視聴覚教室の扉を開ける。不気味な笑顔。
視聴覚教室には誰もいなかった。
後ろから、がちゃりと扉が閉まる音。
ミチコがふり返る。
閉まった扉、刑事の姿はない。
なにかおかしい。なにか足りない。
ミチコは辺りをキョロキョロ。
!!
「と、知子!B子!知子がいない」
その時扉の外から、
がしゃん、からから、
という音がした。
「こいつまだ意識が…」
という低い声もあとから続いた。
ミチコとB子は慌てて扉を開ける。
そこにはカバンが落ちていた。知子のカバン。中から化粧品がこぼれ落ちている。
「これは……」
ミチコとB子はわけがわからない。しかしわからないなりに、知子がヤバい、ということだけは確かだ。
ふたりは駆け出した。が、すぐにふたりは足を止める。
ふたりの前にふたりの男、サルスベリのような肌をしている老人、が現れて彼女達の前に立ちふさがったのだ。
手には幅の広い変に曲がっている鉈のような刃物を持っている。
ふたりの男はミチコとB子を見つめて、けらけら乾いた声で笑う。
「キミタチ、カワイイネ、ボクタチ、キミタチ、コロスネ、デモ、タダコロス、モッタイナイ、セックス、シタアト、コロスネ、ダカラ、テイコウ、ダメネ、オトナシクスレバ、イタクナイ、コロスネ」

刑事は失神した知子を肩に担いで裏門に停まっている車に近づく。
「ほんとにあいつらにまかしていいのか?」
「あぁ、あいつらもプロだ。…少し気がふれているようだがな。グルカ兵、イギリス軍からもらった歴戦の猛者。小娘ふたりなど問題じゃない。特にグルカ兵はネパールの山奥で育って、子供の頃から人を殺す訓練をしてきたんだ。山岳戦や白兵戦に強いと言われている。校内なんかちょうどいい戦いの場なんじゃないか」
運転席に座っている黒いスーツを着たやたらでかい男が応えた。
「そうか」
「それにあいつらはしくじれば自ら舌を噛みきって死ぬ。そうなりゃ犯人になってもらって手間が省ける」
刑事が知子をトランクに入れる。
その時、
「知子!」
と、静かな闇夜をつんざくような怒声。
刑事は声のほうへとふり返る。
「貴様は…」
声の主と刑事が同時につぶやく。
運転席の男が、
「ほぅ」
と、言った。
「ラニオさんよ、あいつは俺に任せなよ。いいよな」
刑事、いや加藤が言った。
「いいぜ、あんなやつもう興味ない。しかし前みたいにしくじるなよ」
加藤は舌打ちをして、
「わかってるだろ?それに、狭い部屋の中とはわけが違うぜ。早く行けよ」
車のエンジンがかかる。
それを聴いて鬼のような形相でブタクマは猛然と車に向かってダッシュした。しかしあまりにも無防備。
ブタクマが車のトランクを叩くと同時に加藤のハイキックがアゴをなめるよう、きれいに決まった。
ぐらりとブタクマは頭から地面に倒れた。
運転席のラニオは、
「ふん」
と、鼻で笑って車を出した。
車はあっという間に闇に紛れて消えていった。知子はどこへ………。