“コスメティックもろざし”〈六十六〉 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”〈六十六〉

右を向いても左を向いても男、男、男、ひとつ飛ばして男。
ふらりと大学の相撲部を覗いた。土俵の奥、でっかい額縁のなかに、
“性根”
と、筆で書かれていた。
「性根、これが大学なんだわ。男と女の世界なんだわ」
ちがう知子!それは“性根”と左から読むのではなく“根性”と読むのだ!
ふふふふふん、鼻歌まじりに相撲部をあとにする知子。
キャンパスライフにたいした憧れなんぞなかった知子だが環境の力というのは絶対的なものがある。らしい。私は“狩り”目的で受験したわけじゃないと誇りにしてきた知子はどこへやら。

2年後、成人式。
久しぶりにミチコがこっちに帰ってきた。
「私は毎日牛や豚とこねくりあっているのに……君達はなににうつつを抜かしているのかね、え、膀胱炎のB子君にせっかくのきれいなストレートヘアーにパーマをあてやがった知子君」
「め、面目ない」
知子とB子はゴツンとファミレスの渇いた机に頭をぶつけて謝罪する。
「まったく、あの頃の志ってものはどこにいったんだかねぇ。私は恥ずかしいよ。恥ずかしくて鳥肌がたってきたわ。うぅ寒ぅ。北海道より寒いわ。なにか暖かいものなかったかしら……」
ミチコはなにやらカバンをゴソゴソ。あまりに芝居がかった仕草に知子とB子は様子を見守るしかない。
「あぁ、あったわ」
ミチコは小さな、まんじゅうがやっとこさふたつ入るか入らないかぐらいの箱を取りだした。そして真ん中あたりからパカりと開ける。
「これこれ、これをこの指に…」
と言って、ミチコは左手の薬指に指輪をはめた。
「あー、暖かいわぁ」
「ミチコ……まさか…」
「いやぁ、今度結婚する予定ですのでそん時はご祝儀よろしく」
知子とミチコとB子は高校を卒業して以来ほとんど連絡をとっていない。携帯電話の電波よりもつながる深い友情があるのだ。
「てめぇ、牛と豚はどうした?あ?あの硬派なミチコはどこにいったんだぁ!」
知子は髪をくしゃくしゃにかき乱す。
「ミチコぉ、できちゃった婚じゃないよね」
B子が聞く。
「これでも未来の獣医ですから。ちゃんとしてます。B子、ヤる前にはちゃんと手を洗わせなよ。だから膀胱炎になるのよ」
「いやぁ、美大でしょ。デッサンとかあるからさぁ、洗ったくらいじゃ汚れが落ちないの。爪の間とかさ」
「納得できねぇ、納得できねぇ。腑におちねぇよぉ」
「腑におちないって知子。そんなに変?」
「変てもんじゃないわ。いままで黒だ黒だって言っていた色が実は白だった、みたいな。でもいままで黒って言ってたんだから白くても黒って言いたいじゃない。あぁ腑におちない」
久しぶりの会話。盛り上がるのは必然。話題はミチコの相手、互いの色恋事情、流行りについて、大学生活、そして20歳について。
「いやぁ、マッポの目の前で酒を飲み干してやりたいわ。B子はなにかしたいことある?」
「え~、まずね、裸になって、裸の上から服の絵を描くの。それで街を歩いてみたい」
「B子…それ本気?変態じゃん。それに裸で街歩いたら20歳でも捕まるよ」
「えっ、そうなの?なんで?」
「なんでってお前…ワイセツ物なんたら罪だよ」
「ワイセツ?ワイセツってひどいわ」
「………知子は?」
「そうね、…投票かな」
「あぁそうか。知子はそうだよね」
「まぁ一応ね」
「なんか今年あるんでしょ、選挙。確か前の前の総理の息子が立候補するやつ。なんつったっけ?ほらあの……」
「ネコみたいな名前のやつ?」
「そうそう。ネコなんとか!」
「…根来(ねごろ)よ」