“コスメティックもろざし”〈六十五〉 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”〈六十五〉

向かい合うブタクマと知子。まわしはつけない。スカートの下にジャージをはいただけ。まわしはぶかぶかで使いものにならないのだ。
知子はわけがわからないながらも腰を深く沈める。毎日していた体勢が思ったよりきつい。
腰を沈めたブタクマが静かに手をついた。
条件反射で知子はブタクマにぶちかまし。がっしとブタクマは受けとめた。いつも通りだった風景、視界。
知子は一心不乱にブタクマを押す。脇をしめ、下から手を突き上げるように。
裸足のブタクマはマットに根を張ったように動かない。知子の体重が130キロあったころからそれは変わらない。
それでも知子は押し続ける。目にはうっすら涙が。
どのくらい経っているのだろうか、10秒か30秒か1分か15分か……。まったくわからなかったが、やがてブタクマの体がぐらりと揺れた。
知子はこれまた条件反射。ブタクマの弱くなった場所を的確に攻める。
グイグイと土俵際へと追いこむ。そして土俵際、ブタクマのピンチ……か?
ブタクマは土俵際で知子を受けとめた。そして知子の脇の下に手をいれて、一気に頭上高く、たかいたかい。ふわりと浮く感覚。空中にいる知子と目が合う。一瞬の間。
ブタクマはそのまま知子を土俵の外に出した。
「強くなったじゃないか」
「……初めて相撲したときと変わらないじゃん」
知子は必死で涙を我慢する。
「そういえばそうだな」と言って、ブタクマは、ふふふ、と笑った。
「知子、卒業おめでとう。この先なにがあっても、この相撲場であった出来事がお前の力になってくれるさ」
知子の目からついに涙がこぼれ落ちる。
その時、相撲場の扉が開いて、
パパパパパパーン、
と、音がした。
ふり返るとメイコ先生が少しの煙と色とりどりの紙を吐きだしているクラッカーをいくつも持っていた。
「あら、少し鳴らすタイミングが悪かったわね」
メイコ先生は笑った。
知子も泣きながら笑った。
「知子、卒業おめでとう。はい、これ」
メイコ先生は紙袋を知子に手渡した。中には色紙。大きな手形。
「恥ずかしがっているところを無理矢理押してもらったのよ」
「これ、ブタクマの?うわぁ、あんまり嬉しくねぇ」
「でしょ。嫌がらせよ。あなた達が卒業するたび、私はひとつ老いていくんだから。悔しくて仕方がないわ」
ブタクマは自身の手形のぞんざいな扱いに少しふくれっ面。
「さぁ、今日はやることいっぱいあるでしょう。もう行きなさい」
「うん」
知子はカバンを肩にかけ、
「じゃあメイコ先生さようなら、また会う日まで」
知子は相撲場を出た。相撲場から姿が見えなくなった時、
「それからブタクマぁ、世話になったよ。じゃあな」
知子は叫んだ。
「ふふふ、いい娘だわ」
「えぇ、本当に」