“コスメティックもろざし”〈六十三〉
知子と胡桃皮さんは土俵中央で、互いが互いを支えあっているかのようにつりあっている。
うおおぉぉぉおぉ、
知子の脚に力が乗る。強烈な胡桃皮さんの圧力を押し切り、後退を余儀なくさせるほどだ。
うっ、やばい。
力で押した知子を胡桃皮さんは受け流し、投げを打った。完璧なタイミング、完全に体を奪われた。知子の体が宙に浮く。
しかし負けられるものか。前回胡桃皮さんに負けてから半年ほど、短いといえば短いがすべてを費やしたのだ。時間を、生活を、青春も、容姿も、恋も。
がしっ、
知子はなんとか片足を残した。再び胡桃皮さんのまわしを掴む。
だがしかし体は投げにより反対向きになった。すなわち、今まで胡桃皮さんが向いていたほうを向いている。体一つ分土俵際に近づいて。
体勢も不十分。胡桃皮さんの圧力に耐えられない。ずりずりと押されていく。
足が俵にかかる。その瞬間知子は全力で胡桃皮さんの右腕をきった。と、同時に右腕で胡桃皮さんの左腕の肘関節をきめて、きめた腕のほうへ俵の上を動く。
ぐらりと前のめりに胡桃皮さんが揺れる。
かかった!
が、知子も自身の鋭い動きの勢いにより胡桃皮さんの左腕を離してしまった。
離れた2人、目と目が合う。
胡桃皮さんはものすごく険しい必死の形相だ。
「なぁんだ、胡桃皮さんも必死なんじゃん」
知子はそう感じた。
体に力がみなぎる。
2人は土俵際で再度ぶつかりあった。
がっちり組み合う。胡桃皮さんは素早く左右に知子をふる。
「力勝負なら私がいける」
知子は胡桃皮さんの投げをことごとく受け止める。微動だにしない。
知子は胡桃皮さんのまわしを掴むと、上体を押しつけてギリギリと引きつける。胡桃皮さんもそうはさせまいと腰を引く。
一時たりとも力を抜けない。
まわしを引きつける腕がちぎれそうだ。それでもより強く。より強く。
どれほどの時間がすぎたのだろう。ともかく、知子にはやけに長く感じた。他人の九九暗唱を1の段から9の段まで聞かされたような…。そして、胡桃皮さんの体が突然軽くなった。
どたん、
知子は倒れた。胡桃皮さんを下にして。
「おおおおぉぉぉぉぉ」目の前でブタクマが両手をあげて叫んでいる。
知子は行司のほうを振り返る。軍配は知子側に。
観衆のスターマインのような拍手が聞こえてきた。
周りを見渡す。途中から景色がにじむ。知子の目に涙が溢れている。
目から鼻から口から流れでる液体を止めることができない。
土俵から下りる際知子は、足元が見えないので、段を踏み外して転んだ。倒れていく体。
途中で顔がなにかにぶつかった。
ぶつかり覚えのあるもの。ブタクマの胸だ。
知子は抱きついて号泣した。
「おいおい、勝ったのはお前なんだぞ」
ブタクマは知子の頭をぽんぽんした。
続
うおおぉぉぉおぉ、
知子の脚に力が乗る。強烈な胡桃皮さんの圧力を押し切り、後退を余儀なくさせるほどだ。
うっ、やばい。
力で押した知子を胡桃皮さんは受け流し、投げを打った。完璧なタイミング、完全に体を奪われた。知子の体が宙に浮く。
しかし負けられるものか。前回胡桃皮さんに負けてから半年ほど、短いといえば短いがすべてを費やしたのだ。時間を、生活を、青春も、容姿も、恋も。
がしっ、
知子はなんとか片足を残した。再び胡桃皮さんのまわしを掴む。
だがしかし体は投げにより反対向きになった。すなわち、今まで胡桃皮さんが向いていたほうを向いている。体一つ分土俵際に近づいて。
体勢も不十分。胡桃皮さんの圧力に耐えられない。ずりずりと押されていく。
足が俵にかかる。その瞬間知子は全力で胡桃皮さんの右腕をきった。と、同時に右腕で胡桃皮さんの左腕の肘関節をきめて、きめた腕のほうへ俵の上を動く。
ぐらりと前のめりに胡桃皮さんが揺れる。
かかった!
が、知子も自身の鋭い動きの勢いにより胡桃皮さんの左腕を離してしまった。
離れた2人、目と目が合う。
胡桃皮さんはものすごく険しい必死の形相だ。
「なぁんだ、胡桃皮さんも必死なんじゃん」
知子はそう感じた。
体に力がみなぎる。
2人は土俵際で再度ぶつかりあった。
がっちり組み合う。胡桃皮さんは素早く左右に知子をふる。
「力勝負なら私がいける」
知子は胡桃皮さんの投げをことごとく受け止める。微動だにしない。
知子は胡桃皮さんのまわしを掴むと、上体を押しつけてギリギリと引きつける。胡桃皮さんもそうはさせまいと腰を引く。
一時たりとも力を抜けない。
まわしを引きつける腕がちぎれそうだ。それでもより強く。より強く。
どれほどの時間がすぎたのだろう。ともかく、知子にはやけに長く感じた。他人の九九暗唱を1の段から9の段まで聞かされたような…。そして、胡桃皮さんの体が突然軽くなった。
どたん、
知子は倒れた。胡桃皮さんを下にして。
「おおおおぉぉぉぉぉ」目の前でブタクマが両手をあげて叫んでいる。
知子は行司のほうを振り返る。軍配は知子側に。
観衆のスターマインのような拍手が聞こえてきた。
周りを見渡す。途中から景色がにじむ。知子の目に涙が溢れている。
目から鼻から口から流れでる液体を止めることができない。
土俵から下りる際知子は、足元が見えないので、段を踏み外して転んだ。倒れていく体。
途中で顔がなにかにぶつかった。
ぶつかり覚えのあるもの。ブタクマの胸だ。
知子は抱きついて号泣した。
「おいおい、勝ったのはお前なんだぞ」
ブタクマは知子の頭をぽんぽんした。
続