“コスメティックもろざし”夏を思い出に変えろ!〈六十〉 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”夏を思い出に変えろ!〈六十〉

夏、色白、アイスクリーム。
暑い、去年の3倍は暑い。肉をたくわえて初めての夏に知子はバテバテ。首からはタオル、左手にうちわ、右手にアイスクリームが離せない。
それでも変わらずに練習は激しく、人一倍。手に出来たマメが黄土色に輝く。
“どすこい杯女相撲大会”、毎年夏に行われるこの大会、大会自体は元々たいした規模ではないが女相撲大会自体が少ないので大会の質、出場する選手のレベルは全国大会と同等だ。渡辺さんはもちろん、全国大会覇者であり、その後行われた世界大会で見事優勝した胡桃皮さんも出場する。
知子はうちわをぱたぱたいわせて、アイスクリームがすぐ垂れてくるのを気にしながら会場に向かう。
会場に到着。タオルはびしょびしょ。ブタクマはすでに来ていた。
「渡辺さんが来ているから挨拶してこい。あと大会の運行表があそこに張り出されているからチェックするんだぞ」
知子は言われた通り渡辺さんに挨拶へ。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
ぺこり、頭をさげる。
「あぁ、知子ちゃん。おはよう。美味しかったわよ、ポークソテー。ありがとね」
「えっ、あぁいやいや、とんでもないです」
知子は顔の前でうちわのように手をふる。
「だからといって相撲になったら手を抜かないわよ。……まぁ、手を抜かないでも勝つか負けるかわからないけどね。知子ちゃんも色々やることがあるでしょう?わざわざありがとね」
「はい、失礼します」
続いて運行表をチェック。まだ名前が入ってないトーナメント表が妙に白く見える。
出場選手は16名、優勝するには4回勝つ必要がある。
「これより試合順を決める抽選を行うので選手のみなさん、もしくは代理人の方はあちらに集まってくださぁい」
体育館まるごとの控え室に係員の大声が響く。
ウォーミングアップをしたり、談笑したり、イヤホンからなにかを聴いていたりしていた選手達が一斉に動く。もちろん知子も抽選へ。
「え~では抽選を始めます。この箱の中に…」
と言って、係員は上面に丸い穴が開いた箱の中に手を突っこんで紙を取り出してみせた。
「と、紙が入っています。で開くと、これは5番ですね、ということでトーナメント表の左から5番目ということになります。よろしいですか?………よろしいですね。では始めます。前の人からどうぞ」
知子は6人目、箱の中に手を突っこんで紙をとる。
9番。
知子の対戦相手である10番はすでに出ている。相手はたしか割と細めの、といっても80キロ弱ほどだろうか、前回の全国大会では見かけなかった人だ。
知子がブタクマの方へ歩を進めた時、後ろから、「おおぉ」といううねりのようなどよめきが聞こえた。振り返ると、そこには渡辺さん。引いたのは2番の紙。
知子はどよめきの理由を知った。2番の対戦相手である1番、それを引いていたのは胡桃皮さんであった。しょっぱなから決勝予想の有力カードが実現するのだ。
知子の近くにいた大会関係者が、
「事実上の優勝決定戦だな」
と、つぶやいた。
知子はその関係者をきりりとにらんだものの、その言葉を否定することは出来なかった。
それにやるせない想い。知子はこの大会で胡桃皮さんにリベンジしたかった。しかし胡桃皮さんと知子が当たるには互いに決勝に残るしかない。すなわち胡桃皮さんには渡辺さんに勝ってもらわなくてはならない。だが仲の良い渡辺さんには勝って欲しいという気持ちもまた事実。
相反する気持ちが知子の脳中で渦巻く。